【Fate/Zero】愉悦部ついに爆誕。ギルガメッシュにより言峰綺礼が本性と向き合う瞬間から「私とは何者か」の答えを知る ※ネタバレ注意  (愉悦部考察⑦)

映画化作品『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』がこの秋大ヒット、ゲーム『Fate/Grand Order』もトップクラスの人気。

さらにアーケード版『Fate/Grand Order Arcade』もリリースが決まり、10年以上の歴史を持ちながら今後も更なるファンを獲得しているFateシリーズ。

昨年アニメ化された『Fate/Apocrypha』等の数多くのスピンオフ作がある中、発刊後7年が経つ現在も非常に高い人気のある作品が『Fate/Zero』です。

このコラムでは『Fate/Zero』裏の代名詞・「愉悦部」のギルガメッシュと言峰綺礼のセリフから分かる人間の本質について解説してきました。

「自分とは何者か」という求道の答えを求め続けた綺礼が、ついに自身の本性を見出す「愉悦部」結成の時

綺礼が向き合うことになる、人間の本質について今回も考察します。

綺礼の豹変により聖杯戦争は思わぬ展開へ。『Fate/Zero』佳境のあらすじ ※ネタバレ注意

物心ついたときから自分という存在が分からず苦悩していた言峰綺礼は、令呪を授かったことから聖杯戦争に参加することになります。

聖杯戦争は7人の魔術師たちがサーヴァントという英霊を召喚し殺し合いをする決闘。

生き残った1組のみが手にする聖杯はどんな願いも叶えると言われていました。

令呪は聖杯が戦争に参加するマスターとして選んだ証で、魔術師でもない綺礼が選ばれたのは異例中の異例。

戦争の監督役だった父親・言峰璃正はひそかに結託していた遠坂時臣をサポートするために綺礼を聖杯戦争に参加させ、信仰と教会の指令に従順だった言峰綺礼は唯々諾々と任務をこなしていました。

しかし時臣の召喚したサーヴァント・ギルガメッシュは

「私にも解らない。

成就すべき理想も、遂げるべき悲願もない私が、なぜこの戦いに選ばれたのか」

と言う綺礼に関心を持ち、巧みな心理戦で綺礼が聖杯に選ばれた理由を探っていきます。

愉悦というのはな、言うなれば魂の容(かたち)だ

“有る”か“無い”かないかではなく、“識る”か“識れないか”を問うべきものだ

綺礼、お前は未だ己の魂の在り方が見えていない

愉悦を持ち合わせんなどと抜かすのは、要するにそういうことだ。」

願望も愉悦も自分にはないと主張する綺礼に対し、愉悦を持たぬ人間はおらず、お前は自分の本当の姿を分かっていないのだとギルガメッシュは諭します。

そして綺礼が最も愉悦を感じる喜びは「痛みと嘆きを『悦』とすること」つまり他人の不幸を蜜の味とする心だと見抜いてみせたのです。

「英雄王、貴様のようなヒトならざる魔性なら、他者の辛苦を密の味とするのも頷ける。

だが、それは罪人の魂だ。罰せられるべき悪徳だ。」

人の不幸を愉悦とするのはギルガメッシュのような魔性の喜びであり、自分にそんな恐ろしい心など無いと否定した綺礼。

しかし綺礼は、生きれば生きるほど苦しみのどん底に落ちていくマスター・間桐雁夜を観察したい欲に抗えなくなります。

それは明らかに父・璃正から受けた任務の放棄でした。

さらに父・璃正が聖杯戦争が混乱に陥る中射殺されたとき、肉親の不幸ですら喜びを感じてしまう己の心に気づいてしまいます。

何の楽しみも願望もないと自称していた綺礼の心を掴んで離さない魅惑の欲望であり、他人の不幸を蜜の味とする心は仏教で「愚痴」と呼ばれる煩悩の一つです。

仏教ではどんな人間にも108の煩悩があると教えられ、その中でも最も私たちを振り回す3つの煩悩の中の一つが「愚痴」です。

愚痴というと今日、不平不満をこぼす意味で使われていますが、本来は他人の不幸を蜜とする愉悦の心や、逆に他人の成功を妬ましく思う嫉妬の心のことをいいます。

神に一途に仕え、修身と鍛錬に青年時代を費やしてきた綺礼が気づけなかった「愉悦」という煩悩の姿。

ギルガメッシュに見出されたその恐ろしい喜びの心は歯止めが効かなくなっていき、ついに綺礼は己が愚痴の心を満たすために時臣への反逆ともいえる行為を重ねていきます。

結局、綺礼はその腕に再び刻まれた令呪のことも、密かに璃正から受け継いだ保管令呪の存在も、時臣には明かさなかった。

セイバーの真のマスターである衛宮切嗣が今なお姿を潜めていることも教えなかった。

間桐雁夜を救ったことに加えて、そこまで重要な情報を今なお秘匿しているという時点で、

既に綺礼は時臣の部下としての役目を自ら放棄しているようなものなのだ。

時臣から見限られたことについても、今さら文句を言える筋合いではない。

時臣は最後まで綺礼が裏切り行為をしていたことには気づきませんでしたが、別件で綺礼が勝手に動いていたことを知り綺礼を見限ります。

聖杯戦争で時臣のサポートをする役目に終止符を打たれた綺礼は国外に追放されることに。

時臣の指示で日本を退去することを表面上は受け入れた綺礼ですが、その本心はかつてないほど強い迷いの中にありました

悩める綺礼にギルガメッシュは最後の「愉悦部」勧誘を仕掛けていく

一通り、各スタッフへの電話連絡を終えて一段落した綺礼は、独り自室に戻ると、寝台の縁に腰を下ろして、無人の教会の静謐に耳を澄ました。

闇を見据え、自分自身の心に向けて問いかける

その生涯において、幾千度、幾万度重ねてきたかも知れぬ問い

今度のそれは、ひときわ切実で逼迫していた。

今度ばかりは夜が明けるまでに、答えに至らなければならないのだから

ーーー我は、何を望むのか?

ギルガメッシュにより自分の愉悦は「愚痴」の心にあると分かったものの、「自分」とは何者なのかまだ分からない

人生をかけて求めてきたこの問いに、答えを得られないまま日本を離れていいのか。

それとも、聖杯戦争の参加者に選ばれた自分が求めている望みを見つけるのか。

「この期に及んで、まだ思案か?鈍重にも程があるぞ。綺礼」

悩み抜く綺礼のところへ、ギルガメッシュが現れます。

どのみちアーチャー(ギルガメッシュ)を前にして韜晦(とうかい)は無意味だ。この英霊は、綺礼が自分自身をも欺いている嘘でさえも見通してしまっている

そしておそらくは、綺礼が求め欲する答えの在処すら、既に承知しているのだろう。

あの真紅の双眸(そうぼう)は、迷路を彷徨うモルモットを、上から俯瞰する観察者の眼差しだ。

誘導も救助もせず、その煩悶を見下して興とするのが英雄王の愉悦なのだろう。

「……物心ついて以来、私はただ一つの探索に生きてきた」

自らの心の闇に語りかけるかのように、綺礼はアーチャーを前にして語った

ただひたすらに時を費やし、痛みに耐え……その全てが徒労に終わった

なのに今、私はかつてないほどに“答え”を間近に感じている

きっと、私が問い質してきたモノは、この冬木での戦いの果てに、ある」

「そこまで自省しておきながら、いったい何をまだ迷う?」

青春を抛って(なげうって)打ち込んできた修行は、綺礼の「自分が分からない」という問いに答えをもたらさなかった。

しかし聖杯が叶える望みという形で、本当の自分の姿と、本心から求める欲望が分かる。

綺礼は確信とともに、ある予感も感じていました。

予感がある。ーーー全ての答えを知った時、この私は、破滅することになるのだと

「自分が分からない」という言峰綺礼の長年の問い。綺礼とギルガメッシュは答えを見出すため動き出す

「むしろ祝うべきであろう?永きに亘るお前の巡礼が、ついに目的地に至るのだ」

「……おまえは祝福するのか?アーチャー」

頷くアーチャーの面持ちには、依然として温情の一片もなく、むしろ蟻塚を眺める子供のように無邪気な喜悦で輝いていた。

「言ったはずだ。

ヒトの業(ごう)こそ最高の娯楽だと。

お前が持って生まれた自らの業と対面する瞬間を、我(オレ)は心待ちにしているのだ

ギルガメッシュは綺礼の人生の悩みを解決してあげたい慈悲の心で動いているのではなく、人間の本性という業と綺礼が対面し、破滅する様を見るのを楽しみにしているだけ。

しかしそんな魔性の存在と契約してでも、「私は何者か」という問いを解決したい渇望が綺礼を動かし、ついに一心に仕えてきた教会も師匠・時臣も裏切る決意をします。

「時臣師と敵対するならば、もうこれ以上、彼の虚言を庇う必要もない。ーーーギルガメッシュ、まだおまえが知らぬ聖杯戦争の真実を教えてやろう」

時臣はギルガメッシュへの忠誠を誓っているように見せかけながら、実は己が悲願を果たすため、最終的に令呪でギルガメッシュを殺すつもりでした。

綺礼はこの時臣最大の秘密をギルガメッシュに漏らし、ギルガメッシュは綺礼と結託し時臣の殺害を決めます

「時臣めーーー最後にようやく見所を示したな。あの退屈な男も、これでようやく我(オレ)を愉しませることができそうだ」

その言外に意味するところを酌めば、血も凍るほどに凄惨な宣言であった。

「さあ、どうしたものかな。いかに不忠者とはいえ、時臣は今なお我(オレ)に魔力を貢いでいる。いかに我でも、完全にマスターを見限ったのでは現界に支障をきたすしな……

ああーーーそういえば一人、令呪を得たものの相方がおらず、契約からはぐれたサーヴァントを求めているマスターがいた筈だったな」

「そういえば、そうだった」

露骨すぎる誘惑に失笑すら返しながら、綺礼は頷いた。

「だが果たしてその男、マスターとして英雄王の眼鏡に適うのかどうか」

「問題あるまい。

堅物すぎるのが玉に瑕だが、前途はそれなりに有望だ。

ゆくゆくは存分に我を愉しませてくれるかもしれん」

ーーー斯くして。

運命に選ばれた最後のマスターとサーヴァントは、このとき、初めて互いに笑みを交わしあったのだった。

Fate(運命)に選ばれた最悪にして最強の二人。

綺礼はこの日を境に愉悦という愚痴の煩悩を満たすため、今まで抑えてきた欲望を次々と開放していきます

「外道麻婆」とファンに言われるようになる綺礼の本性、そして綺礼が求めた「自分とは何者か」という長年の探求の答えがいよいよ露わになっていきます。

※ストーリー紹介は『Fate/Zero5 闇の胎動 (虚淵玄・星海社文庫)』から引用させて頂きました。