アドラー心理学のパイオニアに学ぶ 人間関係の悩み解決の“3ステップ”

前回はアドラー心理学のパイオニアである野田俊作さんの著書『グループと瞑想 アドラー心理学を語る2』を通して、悩みの実態をお話ししました。

野田さんは著書の中で「そもそも人間には本当は悩みなんかないんですよ」と驚くべきことを語っています。

悩みというのはそもそも、その人自身がつくりだしたものであり、その目的は、悩んでいれば周囲から責められずに同情してもらえ、責任をすべて自分以外の人に押し付けられるからでした。

しかしそのようにいくら悩んでいても状況は改善しません。さらに、悩んでばかりいれば周囲の人をウンザリさせ、やがてはあなたのもとから離れ、孤独になってしまいます。

自らがつくりだした悩みを解消するにはどうすればいいのでしょうか。

その具体的な方法を、野田さんのカウンセリングから学んでいきましょう。

野田俊作流、人間関係の悩み解決の“3ステップ”

野田さんのカウンセリングは、以下の3つの段階を踏んで行われます。

  1. 課題の分離
  2. 結末を予測する
  3. 代替案を考える

それぞれどのようなことなのかを詳しく見ていきましょう。

第一段階 課題の分離

カウンセリングの具体的手続きとして、まず「誰の問題か」が問われます。

これは「課題の分離」と呼ばれています。

いくら「あの人が悪い!」と思っても、相手を変えることはできません。無理に相手を変えようとしても、相手はますます嫌がって拒絶してしまいます。

ベストセラー『嫌われる勇気』には

馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない

ということわざが引用されています。

嫌がる馬に無理やり水を呑ませようしても馬は暴れ出し、馬との関係がますます悪くなってしまうのと同じですね。

だから相手の問題と自分の問題を切り離し、自分の問題を浮き彫りにする必要があります。それが「課題の分離」です。

例として、夫に不満を抱えている奥さんが挙げられていました。奥さんは「主人は冷たいんです。車に乗せてもらっているときに気分が悪くなっても停めてくれないんです」と訴えます。

そこで野田先生、「で、あなたはどうするんですか」と尋ねると、「だから私、自分で免許をとって主人の車には乗らないようにしているんです」と言います。「じゃあ、問題はなくなったわけだ」と野田さんが語ると、その女性はきょとんとしていたそうです。

その奥さんは、「まあ、おかわいそうにね。ひどいご主人で、あなたも苦労なさいますね」とでも言ってほしかったんだろうけど、そうはいかない。

「悪い主人、かわいそうな私」の片棒を担ぐ気はありません。ご主人を改造する相談に乗る気はないんです。「そのようなご主人と仲よく暮らすために、あなたにできることは何でしょうか」ということしか話題にしたくないんです

(中略)

人が変えられるのは自分自身だけなんだから。誰の問題かを分離するということは、「悪いあなた、かわいそうな私」をやめて、「私にできることは何か」を問いはじめるということなんです

野田俊作(2016 ).「第1章 グループ・セラピーの方法」 『グループと瞑想 アドラー心理学を語る2』  創元社

カウンセリングといえば、「こんなひどいことをされたんです」と訴えてくるクライアントに対し、「本当につらかったんですね。よくがんばりましたね。あなたは悪くない。相手がどう考えても悪いですね」と相手を肯定することが大事のように思われています。

ところが野田さんのカウンセリングはまったく逆で、「悪いあなた、かわいそうな私」に絶対に同調されません。課題を分離し、「私にできることは何か」を考えさせます

相手に同調しないとなると、冷たいようにも感じます。しかし下手に同調して、「悪いあなた、かわいそうな私」という思いを強めさせてしまうと、相手は現状を変えることがさらに難しくなってしまうのです。

第二段階 結末を予測する

次は、今までやってきたことを続けるとどうなるのかを検討することです。これは「結末の予測」と言われています。

問題児を持つお母さんの例でいえば、お母さんが悩み続けることでどうなるかを予測してもらう、ということですね。

問題児の母親に「今まであなたはずいぶん悩んでこられましたが、その結果、息子さんはどんどんよくなりましたか、それともかえって悪くなりましたか」と尋ねると、まず全員が、「かえって悪くなりました」と言います

そこで、「では、今後ともあなたが悩み続けると、息子さんはよくなると思いますか、それともますます悪くなると思いますか」と尋ねます

野田俊作(2016 ).「第1章 グループ・セラピーの方法」 『グループと瞑想 アドラー心理学を語る2』  創元社

こう言われれば、お母さんは何も言うことがなくなってしまうでしょう。結末を予測させることで、悩んでいても何の解決にもならないと気づき、状況を深刻化させないために何をすればいいのかを真剣に考えるようになりますね。

第三段階 代替案を考える

最後は、今までのやり方がまずいとわかったら、別のやり方を考えて工夫し、実行する。

これが第三段階の「代替案(オルタナティブ・ウェイ)を考える」です。

たとえば、夫婦仲の悪さに悩んでいる奥さんがいたとします。その奥さんに野田さんはこのような「代替案」を出されました。

「今やっていることをやめなさい」という助言は意味がないんです。「今やっていることをやめて、かわりにこうしなさい」って言ってあげないと、勇気がくじけてしまう

「主人を罵るのをやめなさい」って助言しても、「それじゃいったいどうしろと言うのよ。黙って好きにさせておけって言うの!」と反撃されてしまうでしょう。だから、たとえば、「ご主人を罵るかわりに、ご主人にうまく甘えてみませんか」と助言する

野田俊作(2016 ).「第1章 性格は変えられる」 『性格は変えられる アドラー心理学を語る』  創元社

「○○やめなさい」というのではなく、人間関係を良い方向へと導く代替案を提案して実行させてこそ、悩みが解決させるのですね。

人間は非常に保守的で、今までのやり方を変えたがらない傾向にある、とアドラー心理学で教えています。新しいことを試そうと思えば、何が起こるかわからない不安に襲われます。そんな不安な気持ちになるぐらいなら、たとえ不便ではあっても今までのやり方に固執してしまうのが人間です

さらに今までのやり方にたくさん時間を使ってきたため、「今さら新しいことはできない、もう少しこの線で押せばうまくいくはずだ」とも思う傾向にあるのです。

サンクコスト効果」という心理があります。ギャンブルにお金をつぎ込むほど投資したお金が惜しくなり、「このまま続ければ大損する」とわかっていながら、やめられなくなる心理ですね。サンクコスト効果はギャンブルだけでなく、私たちの人間関係の悩みにも現れる心理なのです。

そんな保守的で、これまでかけた時間が惜しいと思っているのが人間ですが、「結末」をしっかりと予測できていれば、代替案の実行もできるようになるでしょう

仏教の悩み解消のステップ「“自業自得”と“和顔愛語”」

前回の記事でも触れたのですが、野田さんは仏教にも関心があり、元々は仏教の修行法であった「瞑想」をカウンセリングの中核に据えられているほどです。アドラー心理学と仏教との共通性も著書の中で触れられています。

先の悩み解消の3ステップも、仏教の考え方とよく似ています。

第一段階の「課題の分離」は、相手は変えられないのだから、自分と相手の問題を切り離し、自分を変えるようにすることでした。

これは仏教でいう「自業自得」といえますね。自業自得とは、自分の業(=行い)によって自分の運命を得る、ということです。自分が変わらないことには相手も変わらず、善い結果は得られないのですね。

反対に相手が一方的に悪いと思い、相手を非難したり呪ったりするのは「瞋恚(しんい、=怒り)」や「愚痴(=嫉妬、恨み)」の仕業といわれます。「瞋恚」も「愚痴」も、自業自得の真理がわからず相手を傷つけたり、周りを不快にさせたりする心です

そんな心のままでは自分も相手も不幸になりますね。

だから怒りや愚痴を抑え、自業自得にもとづいて善いことの実行が勧められています。

善いことといってもいろいろですが、ぜひお勧めしたい、仏教で説かれる善いことの1つに、「和顔愛語(わげんあいご)」があります。

和顔は優しい顔つき笑顔のこと。愛語は優しい言葉遣いのことです。

罵るのではなく、優しい言葉をかける。恨み、呪うのではなく、優しく笑顔で接する。そうすれば相手の態度も間違いなく良い方向に変わっていくでしょう

和顔愛語に関して、こんな話を思い出しました。

私は子供の頃、ミズーリ州の片田舎の小学校に通っていた。

その当時、太陽と北風が腕くらべをする寓話を読んだことがある。

北風が「僕のほうが強いに決まっている。あそこにオーバーを着た老人がいるだろう。僕は君よりも早く、あの老人からオーバーを取ってみせる」と威張った。

太陽は、しばらく雲の後ろに隠れた。北風は勢いよく吹いた。だが、北風が吹けば吹くほど、老人はますますしっかりとオーバーで体を包んだ。北風は精根尽きて、吹きやんでしまった。

そこで太陽は、雲間から顔を出し、老人に優しく微笑みかけた。

しばらくすると、老人は額の汗をふいてオーバーを脱いだ。

太陽は、優しい親切なやり方は、どんな場合でも、激しい力ずくのやり方より、はるかに効果のあるものだと北風に諭した

(D・カーネギー著『人を動かす』より引用)

有名な寓話『北風と太陽』のエピソードです。内容は知っている方がほとんどだと思いますが、相手を変えようと非難することがいかに無意味で、笑顔であたたかく接することがいかに大事か、改めて知らされますね。

「ケンカ相手に、今さら笑顔をしたり、気遣いの言葉なんてかけられるか!」と吐き捨てられるかもしれません。恥ずかしさもあると思います。

しかし実行可能な範囲で、少しずつでも接し方を変えていけば、自業自得の真理の通り、良い方向へ結果は変化するでしょう。

心がけ、実行していきたいですね。

 

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    yu3

    都内で仏教とWebを勉強する20代。大学時代は沢の大学で箔について研究してました。それと小学校時代に柔道で将来のメダリストに引き分けました(女性)。20代仏教共同管理人。