「嫌われる勇気」が2015年のビジネス書ランキング1位となり、累計発行部数が100万部に迫っています。
ベストセラー年間1位を独占!『嫌われる勇気』が韓国で熱狂的に支持される理由 希望をなくした若者たちがアドラーに見出した「一筋の光」
2013年12月に出版されてから2年以上経ちますが、出版社であるダイヤモンド社の書籍週間ランキングでは新刊をおさえて1位になっており、アドラーブームに陰りは見えません。
ところで、そもそもアドラー心理学を学び、実践することでどんなことが実現できるようになるか、ご存知でしょうか。今回、アドラー心理学の目標について掘り下げていきます。
アドラー心理学の目指すべきもの
アドラー心理学の目標は、行動面の目標と心理面の目標に分けられます。
行動面の目標が「自立すること」です。そして心理面の目標は「自分には能力がある、という意識」を持つことです。
自立という言葉はよく聞きますね。ただアドラー心理学でいう自立は、社会的自立や経済的自立ではなく、精神的自立のことであり(精神的自立ができることで社会的自立や経済的自立にもつながりますが)、「自分の人生の問題を自分の力で解決できる」という意味なのです。
では、子どもや部下にそれぞれの課題、困難に立ち向かわせ、自立させるにはどうすればいいのでしょうか。それに必要なのが「勇気づけ」というアプローチです。困難に向かわせるには恐れに打ち勝つ勇気が必要なのです。
「勇気づけ」と「勇気くじき」
「勇気づけ」の反対に「勇気くじき」という行為もあります。それについて以前にご紹介した記事を引用します。
「勇気づけ」とは「困難を克服する活力を与えること」です。
「勇気くじき」はその反対で「困難を克服する活力を奪うこと」ですね。「勇気づけ」をすることで、勇気づけられた相手は困難に立ち向かう勇気がわいてくるのですね。
反対に「勇気くじき」をしてしまうと、くじかれた相手は困難に立ち向かう気力が無くなってしまいます。
では困難に立ち向かわせるべく「勇気づける」にはどうしたらいいのでしょうか。勇気づけるにあたり禁止事項となるのが「叱ること」と「ほめること」です。勇気づけて自立させるには「叱ってはいけない、ほめてもならない」と教えられています。
叱ってはならない理由
叱ることについて「アドラー心理学入門」に以下のように書かれてあります。
よく罰したり辱めることで子どもたちを奮起させることができると考える人がいますが、勇気が子どもたちに残っていなければ、子どもの勇気をくじくだけである、とアドラーはいっています。
罰の効果は一時的であり、罰する人がいなければ不適切な行動をするでしょう。不適切な行動はしないまでも、積極的に適切な行動をしなくなることもあります。
(以上、岸見一郎(1999). 「第二章 アドラー心理学の育児と教育」 『アドラー心理学入門』 ベスト新書 より引用)
子供が親に叱られたり、部下が上司から叱られると勇気がくじかれ、子供や部下は「もう何をしても叱られる。叱られるなら何もしたくない」と思い、積極的に困難に立ち向おうとしなくなってしまうのです。
終いには、叱る人がいるときには一生懸命困難に取り組むフリをしますが、叱る人がいなくなれば困難から逃げ出してしまうようになるのですね。これでは自立どころではありません。
自立している状態について以下のように書かれてあります。
(小学生の)ドッジボールの大会で優勝したチームはコーチが厳しく生徒を指導するようなところではありませんでした。
後に優勝することになったチームの取材に行ったレポーターは驚きました。子どもたちが練習している体育館には監督もコーチもいなかったからです。
校内を探すとコーチがいました。畑を耕していました。驚いたレポーターはたずねます。いいのですか、こんなところにいて、と。
「いいのです、あの子たちは私たちがいなくても自分でちゃんと練習していますから」
岸見一郎(1999). 「第二章 アドラー心理学の育児と教育」 『アドラー心理学入門』 ベスト新書
恐怖を植え付けられた上でやらされるのではなく、自ら積極的に課題に取り組んでいる状態が自立した状態なのです。
”怒らない指導”で連覇を達成
今年の箱根駅伝で優勝し、連覇を達成したチームといえば青山学院大学。昨年優勝するまではほとんど注目されていなかったチームを連覇に導いたのが原晋(すすむ)監督です。その原監督の指導法が話題になっていました。
“2015・16年箱根駅伝を制した青山学院大学・原監督の“怒らない指導”の効果とは? – NAVER まとめ
原監督の指導理念は「選手として、男として自立させること」。そのために選手にはチームの目標だけでなく、個人の目標に向かわせるようにされたのです。
チームの目標だけではなく、個人の目標も立てて、その両方の目標に向かって自身の力で走らせていく。
監督がいるからやる、というチームにはしたくない。(原監督へのインタビュー)
そのために、選手とのコミュニケーションを重視し、心の距離を縮め、選手が積極的に課題に向かえる環境づくりに努められたのです。そして、
この1年間は一度も選手たちを怒ったことがない。
(原監督へのインタビュー)
と語られているように、選手を萎縮させ、勇気をくじくような行為は一切、されなかったのですね。結果として、選手は自主的に練習を重ね、青山学院大学は箱根駅伝連覇の偉業を成し遂げるまでに至りました。
他者の課題に介入してはならない
ある国に「馬を水辺に連れいくことはできるが、水を呑ませることはできない」ということわざがあります。
― 本人の意向を無視して「変わること」を強要したところで、あとで強烈な反動がやってくるだけです。
― 自分を変えることができるのは、自分しかいません。岸見一郎・古賀史健(2014). 「第三夜 他者の課題を切り捨てる」 『嫌われる勇気』 ダイヤモンド社
馬を水辺に連れて水を呑ませようと思っても、そもそも馬に水を呑む気がなければ呑ませることはできません。それなのに、どうして水を呑まないんだ!と怒鳴り、力づくで呑ませようとすれば、猛反発され、馬との関係も悪化してしまうでしょう。水を呑んでほしいのなら、呑むかどうかは馬に任せ、いかに呑みやすくするかを考え、援助していかねばならないのですね。
選手を馬にたとえるのも失礼ですが、原監督は選手との関係をよくし、練習の固定観念を壊し、選手に水を呑ませることを見事にお膳立てしたのですね。
課題に取り組むかどうかは本人に委ねられることをアドラー心理学では「自己決定性」といわれます。仏教でも「自業自得」と説かれ、自分に返ってくる結果はすべて自分の選択による、と教えられています。この真理を無視して本人が決めるべき課題に介入してしまうから、関係の悪化を招いてしまうのですね。子供に対してでも、部下に対してでも、本人が課題に積極的に取り組めるように援助することで、自立へと導くことができるのです。
以上が「叱ってはいけない理由」でした。では反対に、ほめればやる気にさせられるかいうと、ほめることでも自立心を奪ってしまうと教えられています。
ほめても自立心を奪うとはどういうことか。詳細は、次回の【ほめてもいけない編】にてご紹介します。