「人まねはしない」「受賞は微生物のおかげ」…ノーベル賞へと導いた大村教授の信念とは

昨年に続き、2年連続で日本人がノーベル賞を受賞され、新聞やニュースで大きく取り上げられていますね。都内では号外も配られました。

今回、ノーベル医学・生理学賞を受賞されたのは、大村智 北里大学特別栄誉教授(80)。米ドリュー大のウィリアム・キャンベル博士(85)、中国中医科学院の女性科学者の屠ゆうゆう(と・ゆうゆう)首席研究員(84)と共同で受賞されることになりました。

大村教授のプロフィールを簡単にご紹介すると、

  • お生まれ:山梨県韮崎市 大きな農家に生まれられました
  • 高校卒業後は東京都立墨田工業高校で定時制の理科教員になられます。

このときに、定時制の学生たちが手を油まみれにしながら勉強をしていたのを目の当たりにされ、非常にショックを受けられたのです。
学生たちは昼は手を油まみれにして仕事をし、ゆっくりと手を洗う間もなく勉強に打ち込んでいたのです。
「自分は甘かった。もっと勉強しなければならない」と。それをきっかけに研究者としての道を歩むことを決意されたのです。

その後、教員をされながら、東京理科大大学院に入られたのです。昼は大学院で勉強、夜は教員のお仕事、土日は研究に没頭。
給料のほとんどを書籍購入代や、研究器具の購入代に当てられ、社会人でありながら苦学生のような生活をされていたそうです。
そのような苦学により、科学者・研究者としての基礎が築かれたのですね。

  • 63年 山梨大学の助手になられ、北里研究所に入所。
  • 71〜73年にに米ウェスレーヤン大学に客員教授として留学し、帰国後に北里大学の教授に就任されました。

では、その大村教授の何が認められノーベル賞を受賞されたのでしょうか。またどのような哲学をお持ちであったからこそ受賞につながったのか、掘り下げていきます。

有用な化学物質を生み出す微生物の研究で10億人以上を救う

大村教授のノーベル賞の受賞理由は「微生物が作り出す有用な化合物を多数発見し、医薬品などの開発につなげた」ことです。

大村教授は微生物に注目をされてきました。「日本は微生物をよく扱ってきた。食品にも、農業生産にも微生物を使いこなし、世の中のためにしてきた伝統がある」と。

土壌1グラムの中には、約1億個もの微生物がいるとされています。大村教授は70年代から各地で土を採取して微生物を分離・培養し、その微生物が作る化学物質に有用なものがないかを調べられてきました。

そして研究を続けられた結果、静岡県伊東市のゴルフ場周辺の土にいた新種の放線菌から、寄生虫や昆虫をマヒさせる機能を持つ抗生物質「エバーメクチン」が発見されたのです。この化学構造を改良し、米製薬会社大手メルクが家畜の寄生虫駆逐剤「イベルメクチン」を開発しました。この開発によりアフリカや東南アジア、中南米など熱帯域に住む10億人もの人々が寄生虫病から救われることになりました。

このイベルメクチンは失明につながるオンコセルカ症にも効果があることが判明し、世界保健機関(WHO)はメルク社の協力を得て、アフリカなど寄生虫病に苦しむ地域にイベルメクチンを配布するプログラムを開始しました。メルク社によると、2012年までに延べ10億人以上にイベルメクチンが無償提供され、多くの人が失明の危機からも助けられることになったのです。

人のまねをするとそこで終わり

たった土壌1グラムでも1億個もいる微生物から有用な物質を見つけるとは、大変骨の折れる研究です。全く有用でない微生物も多数でしょうし、有用な物質を生み出す微生物がいるかどうかさえ定かではありません。

しかし、「土の中の微生物を信じて良いものを作ることが私の仕事」と研究に情熱をかけられ、使命感を持って研究にまい進されました。

ノーベル賞受賞会見で大村教授は自らの訓戒として、

「私は人まねはしない。人のまねをするとそこで終わり。それより越えることは絶対ありえない。人まねをしていたら」

とおっしゃっています。

この訓戒は高校・大学時代に熱中されたスキーを通して知らされたそうです。

当時の大村教授はスキーで国体にも出場されるほどの腕前だったそうですが、それは自分たちで上達するための練習を考え、実行されていたからだったのです。その頃から「まねをしていても人を超えることはできない。その人を超えるには自分で練習を考えていかねばならない」と言い聞かせておられたのですね。

研究者としての道を進まれてからもその信念を貫かれ、微生物から有用物質を見つけるという未開の研究に身を投じられたのです。

中には「そんな途方もない研究をしていて、何の成果になるのか」といぶかる人もあったかもしれません。しかし、大村教授の根底には「微生物が何か役に立たないか考えていきたい」という精神があり、先述の信念と根底の思いに揺り動かされ、微生物研究を認める人が増えていき、この度の受賞につながったのですね。

受賞会見で特に印象的だった言葉が

「微生物の力を借りただけなのに私が賞を受けてもいいのか」

というものです。大変な苦労のすえ受賞をされたのであり、その努力を認めらた喜びを誇示したくなるものですが、あくまで微生物を持ち上げる姿勢に感銘を受けました。

原因に応じた結果が返ってくる-因果応報

人と同じことをしてていもその人と同じ結果しか得ることはできません。これは仏教では因果応報と説かれます。原因に応じた結果しか返ってこないのであり、人のまねをして、その人以上の結果を望むのは道理に反しています。むしろ、人のまねばかりしていては、ビジョンのない場当たり的な人物とみなされ、周りからの協力を得ることはできないでしょう。

磨き上げられた信念のもと断固決断し、不断の努力が大事なのですね。

また、私たちは往々にして善い結果を得ると「自分がこんなに努力したからだ」と自分の力を誇示してしまいがちです。しかし、実際には周りの助けや整った環境を用意されたおかげで(仏教では縁といわれます)その結果を得られたのであり、周りに感謝することが大事です。

微生物にまで感謝の意を示された大村教授をぜひ見習わせていただかずにおれません。