今回は『アンパンマン』の著者・やなせたかしさんのアンパンマンに込めた思いから、私たちが幸せに生きるヒントを考察します。
やなせたかしが生み出した日本のヒーロー「アンパンマン」
やなせたかしさんは、皆さんお馴染みの絵本『アンパンマン』シリーズの著者です。
『アンパンマン』は顔があんパンのヒーローで、お腹を空かせた人に自分の顔のパンを分け与えます。
時には仲間の悩みに手を差し伸べ、時には乱暴者のバイキンマンと戦います。
1973年から絵本雑誌での掲載が始まり、1988年からテレビ放送が始まりました。
40年近く前に始まったシリーズでありながら、今なお子どもたちのヒーローとして愛されています。
また、最もキャラクターの多いアニメとしてギネス世界記録に登録されたことでも話題になりました。
(ギネス認定当時のキャラクター数はなんと1768点!)
そんな大人気ヒーローの生みの親・やなせたかしさんは私たちに何を伝えようとしていたのでしょうか?
「あんパン」がヒーロー?
アンパンマンはその名の通り、顔が「あんパン」です。
あんパンといえば食べ物。
アンパンマンだけでなく、メロンパンナちゃんや、しょくぱんまん、カレーパンマンもそうです。
よく考えると「食べ物」がヒーローって不思議ではないでしょうか?
ヒーローといえばアメリカンコミックスのスーパーマンやバットマン、日本なら戦隊モノでしょうか。
人並み外れた力で敵を懲らしめる力強さをもっています。
一方のアンパンマンは食べ物であるため、バイキンに侵入されてもダメ、水に濡れても、泥をかぶっても弱ってしまいます。
やなせさん自身そんなアンパンマンを「最弱のヒーロー」だと言っています。
なぜヒーローが「食べ物」なのか。
もはや日本人には馴染みが深すぎるが故に、改めて考えることもなかったかもしれません。
かくいう私もさして気にしていませんでした。
実はその裏に、やなせさんの戦争体験があるのです。
戦地に赴いたとき何より我慢ができず苦しいことが、空腹だそうです。
戦争を通し「食べる」ということがままならない「飢え」の辛さを体験したやなせさんは、自分が描きたいヒーローを語ります。
ようするに、戦争には正義というものはないんです。
しかも逆転する。
それならば逆転しない正義っていうのは、いったい何か?
ひもじい人を助けることなんですよ。
そこに飢えている人がいれば、その人に一切れのパンをあげるということは、A国へ行こうが、B国へ行こうが、正しい行い。
だから、ごく単純に言えば、その飢えを助けるのがヒーローだと思って、それがアンパンマンのもとになったんですね。
(『何のために生まれてきたの?ー希望のありか』(2013年、PHP研究所))
「相手を制して勝つ」ことは、戦勝国から見ればヒーローでも、敗戦国には憎らしい敵に見えます。
見る立場によって良し悪しが変わる行いを、やなせさんは「逆転する正義」と表現しているのです。
一方、世界中に飛んでいってお腹を空かせた人に自身の顔を分け与えるアンパンマン。
どこへ行っても善といえる。
つまり逆転しない行いを「飢える人を救う」ことに見出したやなせさんの想いが、アンパンマンという世代を超えたヒーローを生み出したのです。
「飢える人を救う」布施のヒーロー
あんパンであることに込められた「飢える人を救う」という想い。
仏教では「布施」(ふせ)と教えられます。
布施というと葬式の代金、法事料のように使われていますが、正しくは自分の持つお金や労力を相手に与えることをいいます。
布施行(人に与えるおこない)は世界中どこでも通じる善いおこないであるから積極的にしなさいと勧められています。
布施の大切さはお経でも、お釈迦さまの前世の姿を通して教えられています。
お釈迦さまが前世修行僧であった頃、一羽の鷲(わし)と、その鷲から逃げてくる一羽の鳩がお釈迦さまの元にやってきます。
鳩はお釈迦さまに助けを求め、鷲は鳩を差し出すようにと釈迦に言います。
鳩を差し出せば鳩が食べられてしまいますし、差し出さなければ鷲は食べるものがなくなって死んでしまいます。
助けを求めてきた鳩を見捨てることはできないが、できることがあれば言って欲しい。
お釈迦さまがそう鷲に伝えると、鷲はある提案をします。
鷲は言った。
「そんなに鳩が愛しいなら、自分の肉を切って、秤にかけて鳩と同じ重さの肉を俺にくれ。俺はそれで満足する。」
王は言った。
「今すぐ自分の肉を秤にかけてお前にやる。」
そして、王は自分の肉を切って、鳩とともに秤にのせた。
しかし秤の上の鳩はだんだん大きくなっていった。
王は自分の肉をさらに切り続け、
ついに鳩とつり合う肉が無くなってしまうと、王は自ら秤に乗った。
すると鷲は告げた。
「私はインドラで鳩はアグニだ。
我々は今日、法に関して汝を試すためにやって来たのだ。
自分の身体から肉を切り取るとはすばらしい。
この世で汝の名声は永遠に存続するだろう」
(Wikipedia「シビ王」より引用)
身を削って布施をすることが、めぐりめぐって自分の幸福となって現れるから布施をしましょうと教えられているのです。
(くれぐれも肉をそぎ落とせ、というお話ではありません!)
自身の顔を与えて空腹を助けるアンパンマンは、まさに布施を体現しています。
一見すると傷ついてばかりのアンパンマン。
多くの日本人に布施の精神を根付かせた、日本の誇るべきヒーローではないでしょうか。
次回は、やなせさんがアンパンマンに込めた思いから、布施についてより深くお伝えしていきますので、ぜひ読んでいただきたいと思います。