『鉄血のオルフェンズ』アミダ姐さんと名前の由来「阿弥陀如来」との深い関わりとは?

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」の2期が始まって4ヶ月が経ちました。

OPのタイトルバックに彼岸花が咲き誇り、仏教的モチーフがより色濃く使われているように思います。

さて、先日の第40話『燃ゆる太陽に照らされて』をご覧になったでしょうか?

1期からの重要キャラクター・名瀬アミダがついに退場しました。これは「鉄血のオルフェンズ」ファンの私にとって語らずにはおれません。

おまけにタイトルが『燃ゆる太陽に照らされて』です。以下、アミダの名前の由来と、仏教的視点からの名瀬とアミダの生き様について書かせていただきます。

みんなの姐さん「アミダ・アルカ」とは?

「阿頼耶識」や「カッサパ」など仏教用語がふんだんに使われているのが「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」です。

以前にそれらの記事をご紹介しました。

そのオルフェンズの中でも、アミダ・アルカの名前が一番、仏教にストレートではないでしょうか。

Character|機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ より引用)

この“アミダ”という名前、ほとんどの方が「阿弥陀如来(あみだにょらい)」だとか「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」といった言葉で聞いたことがあると思います。

苗字の“アルカ”は恐らく「アルカイックスマイル」からとられているでしょう。元々、古代彫像の表情・表現に対する美術用語ですが、奈良・飛鳥時代の仏像の表現として、よく教科書に載る言葉です。

しかし劇中では苗字より”アミダ”や”姐さん”と呼ばれることがほとんどです。

私も「ほうほう、このセクシーなお姉さんが阿弥陀如来か!」と西方を眺めたものです。

第39話「助言」では彼女の過去も回想されたましたので、過去も踏まえつつ簡単にキャラクター紹介をします。

公式サイトには

面倒見の良い名瀬の第一夫人専用カラーの百錬に搭乗する

との記載がありますが、名瀬はテイワズ(木星圏の大企業)の運送部門であるタービンズの社長、アミダはその第一夫人であり、いわゆる面倒見の良い社長夫人なわけです。

興味深いのはこのタービンズという組織は名瀬以外、全て構成員が女性であり、全員が名瀬の「妻」という設定です。だから「第一夫人」という説明であり、ネット上で名瀬が”ハーレム王”と言われる所以がここにあります。

タービンズは少年兵ばかりの鉄華団と対照的ですが、境遇としては身寄りがない人間を集めて仕事と居場所を提供し、「家族」という表現が使われるなど、むしろ鉄華団との共通点は多いです。

アミダを始め、名瀬の妻たちはモビルスーツパイロットもこなします(実際、名瀬と構成員女性の間に産まれた子供もいます。アミダ自身は怪我が原因で出産不可能な体になっています。大きな傷跡がお腹に残っています)。

似たような境遇同士であるせいか、名瀬は鉄華団・団長のオルガに何かと目をかけ、助言も与えるのです。

傭兵として名瀬の仕事を手伝ったことから付き合いは始まり、テイワズの中で成り上がっていく名瀬の右腕として、アミダは存在感を増していきます

名瀬も

女は太陽なのさ太陽がいつも輝いていなくちゃ男はしなびちまう

と言っています。

見ようによっては軽薄な伊達男の名瀬ですので、テイワズ内の兄貴分から「女を使って成り上がりやがって!」と陰口を叩かれますが、彼は「そのとおりだ」と認めて、決して女性の構成員たちを疎かにすることはありません。

テイワズの兄貴分たちにわからない、名瀬の女性観や女性側の視点も劇中に描かれますので、視聴者としては名瀬のことを「ただのハーレム野郎」と思わずにすむわけです。

ここまで読んでいただくと、名瀬の最高の相棒としての女性・アミダの魅力が想像できたかと思います。

アミダの由来“阿弥陀如来”と「燃ゆる太陽」

第40話でアミダはモビルスーツで特攻し、戦死しました。タイトル『燃ゆる太陽に照らされて』は、アミダに照らされてきた名瀬、照らされながら死んだ名瀬の隠喩ととれます。

しかし阿弥陀如来も、太陽と密接なつながりがあります

阿弥陀如来は様々な呼び名をもっているのですが、その一つに智慧光仏と言われています。光というのは仏様の力を表されています。ですから、智慧の力が大変優れられた仏様ということで、褒め称えて智慧光仏と言われます。

そしてまた慧日とも言われます。これは智慧の日、つまり太陽のことです。太陽のごとし唯一無二の仏様であり、地球上で太陽より上回る光はないということで、智慧がこれいじょうなく優れられた仏様と言われているのです。

かなり簡潔にまとめましたが、阿弥陀如来と太陽の関係がおわかりいただけたと思います。

アミダ(阿弥陀)と名瀬が戦死する回のタイトルが『燃ゆる太陽に照らされて』というのは非常に意味深く感じられますね

タービンズへの愛と、阿弥陀如来の“大慈悲”

第38話『天使を狩る者』でガンダム・バルバトスルプスが死闘を演じ、「最終回か、劇場版か」といったようなクオリティで視聴者は手に汗を握ったことかと思います。

ただそれとは別に、タービンズの名瀬に鉄華団のオルガが事の次第を説明するシーンに、私は興味をそそられました。

今のお前はこう叫んでいるように見えるんだ。「目指す場所なんてどこでも関係ねぇ。とにかくとっとと上がって楽になりてぇ」ってな

危険な仕事を請負い、ギャラルホルンのマクギリスと組んで「火星の王」へと成り上がっていくオルガに向けて、名瀬が語りかけるシーンです。

空恐ろしいのが、上がりの場所というのは下手をすると「戦死」と同義であることです。

鉄華団の構成員は少年兵ながら、「団のためなら死ねる」という気概を持った人間が数多くいます。現にそう言って戦死した団員は多数います。

鉄華団の成り上がりそのものを目指す場所としてしまった場合、その目的に貢献するための死亡は「上がって楽になった状態」と言えなくもありません

これは恐ろしいです。まさに本末転倒です。実際に火星をシマとした経済活動を始めた鉄華団の少年たちは、「俺たちは成り上がった後のビジョンを持っていないのではないか?」と薄々感じ始めています。戦死をよしと考えてしまっていたのです。

仏様はみな、慈悲の心をお持ちです。それは苦しみを抜き去り、楽しみを与えたいという心です。そして阿弥陀仏は大慈悲心を持っていると言われています。すべてのひとを幸せにしてやりたい、というお約束(本願といいます)を起こされています。

40話で名瀬とアミダは、タービンズのメンバーを戦死させないために、自らの身を犠牲に、皆を最後生きて逃がそうと全力を尽くしました。自分よりもメンバー全員のことを思って出た行動に、鉄華団のメンバーも打ち震えました。このシーンで涙を流した人も多かったのではないでしょうか。

阿弥陀仏の大慈悲だなあ、と思わず味わってしまうシーンでした。

ストーリーに深みを与えた名瀬の母性信仰

元始、女性は太陽であった」という平塚らいてうの言葉をご存知でしょうか。これは40話のタイトルそのものです。

母性中心主義という思想から察すると、名瀬の姿勢はこれに近いものだったかもしれません。

タービンズは名瀬の組織でありながら、実質、名瀬を導いた(照らした)太陽であるアミダ・アルカの組織であり、40話はそれに終わりを告げた物語と言えるのかもしれません。
逆にこのタイトルがなければ、「タービンズ=名瀬の男気」としての意味しか表現できなかったのではないでしょうか。

平塚らいてうや名瀬の母性信仰に近い女性観を想起させることにより、ストーリーに深みを与えたのではないかと推察します

長くはなりましたが、“アミダ”という仏教どストレートの名前を持つこの魅力的な女性については、いつか語らねばと思っていましたので、この度 執筆することができて満足です。

登場人物・組織の思惑、陰謀、新しいガンダムバルバトス改修版と、まだまだ息をつかせない展開を見せる「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」。

次週以降が楽しみでなりませんね。