『生き方』から学ぶ稲盛和夫の人生哲学と、行学の大切さ

最近、勧められた本で読んでいるのが『生き方-人間として一番大切なこと』(稲盛和夫著 サンマーク出版)です。

10年以上前に出版された本ですが、今読んでも決して色あせることのない稲盛和夫さんの人生哲学を学ぶことができます。

稲盛和夫さんといえば、今では知らない人はいないであろう世界的大企業である京セラとKDDIを創業されました。

また、2010年からは日本航空 (JAL) の再建に取り組まれたことも大きく取り上げられましたね。それも会社更生法の適用から2年で営業利益を2000億円にのせ、見事にV字回復させました。

稲盛さんはどのようにして分野の異なる2つの企業を世界的大企業へと導くことができたのでしょうか。

その成功の礎となった「人生哲学」が紹介されているのが『生き方』です。

稲盛さんは経営者でありながら一時期出家をされ、仏教の修行をされていたことでも有名ですね。暇さえあれば仏教書を読まれているそうです。そもそも暇な時間などないかもしれませんが。『生き方』の中でも、よく仏教用語や仏教の説話が引用されていて、稲盛さんの人生哲学に仏教も大きな影響を与えていることがわかります。

2004年の発刊からついに100万部を突破した不朽のミリオンセラー・『生き方』を通して、稲盛さんの人生哲学、そしてその背景にある仏教思想についてご紹介します。

人生哲学は「人間として正しい」ことを正しいままに貫く

稲盛さんはどのような人生哲学、生きる指針を持つべきだと言われているのでしょうか。

それは「人間として正しいかどうか」ということ。

親から子へと語り継がれてきたようなシンプルでプリミティブな教え、人類が古来培ってきた倫理、道徳ということになるでしょう。

(中略)

とにかく私は人間として正しいことを正しいままに貫いていこうと心に決めました。すなわち、

  • 嘘をついてはいけない
  • 人に迷惑をかけてはいけない
  • 正直であれ
  • 欲張ってはならない
  • 自分のことばかりを考えてはならない

など、だれもが子どものころ、親や先生から教わった-そして大人になるにつれて忘れてしまう-単純な規範を、そのまま経営の指針に据え、守るべき判断基準としたのです。

単純な原理原則が揺るぎなき指針となる 『生き方-人間として一番大切なこと』p,18-19

人間として正しいことを貫いていく… 本当に聞けば当たり前のことのように思ってしまうのですが、果たして知っている通り実行ができているかどうかと問われると、悲しいことに実行できていない自己が知らされます。

上記と比較してみると、

  • 自分に都合が悪いと思うと、とっさにウソをついてしまう。
  • 人に迷惑をかけまくっている。迷惑をかけている自覚があればまだしも、その自覚すらない。
  • 自分に都合の悪いことは偽る。
  • 相手の手柄までも横取りしようとする。
  • 他人の都合などお構いなしに、自分のやりたいことを優先してしまう。

書いていて本当、情けなくなってしまいますが、当たり前に知っていることでも実行することがいかに難しいか、自己に引き当てて初めてそれがわかります。

稲盛さんはこの哲学を“体の奥までしみ込ませ、血肉化しなくてはいけない”と訓戒しておられるのです。

大変難しい、一朝一夕にはいかないことだからこそ、その哲学を愚直なまでに貫き実行していけば、必ず仕事でも、延いては人生においても成功できると言われているのですね。

80歳の老人でも行うことは難しい-行学のすすめ

仏教に「行学」という言葉があります。

これは「修行と学問」ということで、教えを学び、教えの通り実行をすることを勧められた言葉です。

いくら学問に励んでいても、教えを学ぶのは教えの通り実行するためなので、実行しなければ学びの本来の目的を果たせません。

いわゆる“観念の遊戯”となり、頭の中で「ああでもない、こうでもない」と考えをめぐらせているだけでは、結局、何の成果も出せないまま終わってしまいます。
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仏教に、実行の大切さを教えられた以下のようなエピソードがあります。

中国・唐代で、高名な儒教の学者(白居易)が、これまた当時有名だった禅僧(鳥窠道林)にめぐり合いました。

白居易が「仏教とはどんなことが説かれているのか。一言で教えてほしい」と仏教の大意を問うたところ、鳥窠は「諸悪莫作 衆善奉行(悪いことをやめて、善いことをやりなさい)」と説きました。

すると白居易は「そんなこと、3歳の幼児でも知るところだ」と不服を述べ、せせら笑いました。

すかさず鳥窠は「3つの童子でも知っているが、80歳の老人でもそれを行なうことは出来ない」と答え、白居易を一喝したといいます。

まさに私たちの「そんなことは当たり前のこと。わかりきっている。これ以上、知る必要はない」と自惚れている心を戒められているのですね。

まとめ

稲盛さんは「人として正しい」ことを正しいまま貫くという、一見、当たり前のように思うことを人生哲学にされていますが、それをどんな状況においても貫かれたが故、成功を収められました。

仏教でも行学がすすめられ、実行の大切が教えられています。

決して当たり前に思わず、実行することの難しさを知り、愚直なまでに貫いていくことが大事なのですね。