【ペルソナ3】なぜ「死」がテーマに? 後日談も含めた物語からわかるメッセージを考察

皆さまこんにちは!
ATLUS大好きマン・もちょです。

ペルソナ」シリーズは、ATLUSが制作する学園ジュブナイルRPG。
通称「メガテン」と呼ばれる、女神転生シリーズから派生して生まれました。
1996年に「女神異聞録ペルソナ」が発売されてからというものの、25年以上の月日が流れた今も、男女問わず愛され続けています。

特に『ペルソナ5(P5)』は、発売されるやいなや「日本ゲーム大賞」で受賞。
その人気は国内だけにとどまらず、世界を熱狂の渦へと巻き込みました。

今年の2月2日には、ペルソナ3をリメイクした決定版、『ペルソナ3リロード(P3R)』が発売。
2006年に発売されてから、18年の時を経てのフルリメイクです。
ノストラダムスの気配が残る、あの頃の、あの世界を、もう一度。
「リロード」には、思い出を再度味わうというノスタルジックな意味が込められているのでしょう。

そして、なんと9月にはDLCとして『ペルソナ3フェス -エピソードアイギス-』が配信決定!
あんなに「ありません」と公式で明言されていましたが、ファンにとっては嬉しい誤算ですね(嬉)
『ペルソナ3』は後日談まで含めての物語なので、ぜひ皆さんもプレイを検討していただきたいところです。


新たに「リンクエピソード」というシステムが追加され、女性主人公(ハム子)でしか親睦を深めることのできなかった、順平・真田・荒垣・天田・コロマルとのイベントも楽しめるようになりました。
また、タカヤ率いる敵対組織「ストレガ」の背景や、各メンバーの心情を深堀りした新規ストーリーも加わり、作品の厚みがさらに増しています。

今回は、「ペルソナ3(P3)の核となるテーマ」について深堀りし、徹底的に考察します。

ペルソナシリーズが、ここまでの人気を博する最初の立役者となった本作。

オリジナル版である『ペルソナ3(P3)』、ビターな後日談『ペルソナ3フェス(P3F)』、女性主人公が一躍脚光を浴びた『ペルソナ3ポータブル(P3P)』、そしてリメイクされた決定版『ペルソナ3リロード(P3R)』の4作品全体を通して、考えていきたいと思います。

この記事はこんな方におすすめ

  • ペルソナ3が好きな人
  • 「どうでもいい」を口グセにしようと思った時期がある人
  • 真田のブーメランパンツに驚いた人



今回は、『ペルソナ3』派生タイトルを扱う都合上、重大なネタバレ有です

閲覧には十分にお気をつけください。
では探索していきましょう!

シリーズの方向性を急転回させた『ペルソナ3』

『ペルソナ3』は、シリーズタイトルの3作目
この作品が世に出た功績は、非常に大きなものでした。
まずは、シリーズにおける立ち位置・特徴を振り返ってみましょう。

ペルソナシリーズを、一気に跳ねさせた「火付け役」

ペルソナと聞くと、思い浮かぶのは『ペルソナ4・5』ではないでしょうか。
学園生活を送りながら、影で暗躍するトクベツな彼ら。
時にはぶつかり合い、時には恋を楽しみ、世界の真実に迫っていく……。

しかし当初のペルソナは、全くの別物でした。
悪魔に汚染された街、世界の滅び、思い出の抹消。
非常にダークでディストピアな雰囲気は、今のユーザーには受け入れがたいものだと思います。

そんな「薄暗さ」を、キャラクターの個性やUIデザインによって、「スタイリッシュでダークなオシャレさ」に転換させたのが『ペルソナ3』でした。
結果、よりライトな層にも注目され、大人気シリーズの礎を築くことになります。

まさに、『ペルソナ3』は火付け役
ヘビーなテーマでありながら、多くの人に受け入れられた本作には、約20年経った今でも色褪せない魅力があります。

「他人の問い」から「私の問い」へ

また、人気の火付け役となった理由が、もう1つあります。
哲学的な問いを、プレイヤーの人生と地続きにした」点です。

「善悪とは?」「世界とは?」「秩序とは?」
メガテンシリーズで、しばしば突きつけられる難解な問い。
これらの問いは、抽象的すぎるが故に、多くの人はほとんど関心を持ちません

では、「幸せに生きるとは?」「本当の自分とは?」「他の人に言えない本心とは?」
これらの問いはどうでしょうか。
自分に重ねられる哲学的問いではないでしょうか。

ただのゲームではなく「人生に向き合う作品」となったことで、『ペルソナ3』は今のシリーズの潮流を作り上げたのです。

なぜ? 鬱ゲーと名高い『ペルソナ3』

そんな功績があり、良作として評価される『ペルソナ3』ですが、『ペルソナ4・5』のユーザーからは「暗い」「重すぎる」「しんどくて途中でやめた」といった声も。

そう思わせる要因は、明るい中にも滔々と流れる、物悲しさ、暗さ、重さ
なぜそういった印象を持ってしまうのか、考えてみます。

①印象的なコバルトブルー

ペルソナシリーズの各タイトルには、それぞれ印象的なカラーが据えられています。
オシャレさの核を担うポイントとも言えますね。

『ペルソナ4』は、眩く輝くイエロー。
『ペルソナ5』は、燃え盛るレッド。

一方で、『ペルソナ3』は深みのある落ち着いたブルー
当時の開発インタビュー(『ペルソナ倶楽部P3』p.200)にありますが、「青春の青」とのことでブルーに決められたようです。
動的で前向きな印象のイエローやレッドとは逆で、ブルーは静的なイメージを与えます。
まるで、深い海に潜っているかのような色です。

新しく生まれ変わった『ペルソナ3リロード』のメニュー画面では、それを象徴するかのように、逆さまの主人公と深海のようなビジュアルデザインが追加されました。
非常に攻めたデザインに衝撃を受けましたが、これも「深い深い意識の海」を表しているのだと思われます。

また、青は「哀しみ」を表す色でもあります。
ストーリー上でも、他タイトルに比べて悲壮なイベントが多いです。

この青が、メニュー画面だけでなく、OPやバトル画面、主人公の姿……と、徹底的に反映されており、深みと共にどこか物悲しさを感じさせるのでしょう。

②ストーリー進度に合わせた、「BGMの変化」

『ペルソナ3』では、4月に入学してから3月まで、約1年間を過ごすことになりますが、学期ごとにBGMの曲調がガラリと変化します。

1学期では『Want To Be Close』。
ポップながらも爽やかなナンバーで、これから物語がスタートする予感を感じさせるナンバーです。
『ペルソナ3ポータブル』で代わりに流れるのは『Time』という曲。
こちらは、女性の柔らかさを彷彿とさせる、ピアノの穏やかさが印象的です。

2学期では『Changing Seasons』。
青春を思わせるような明るいナンバーで、語りかけるような女性ボーカルも頭に残ります。
『ペルソナ3ポータブル』で代わりに流れるのは『Sun』という曲。
こちらもアップテンポで、暗さを微塵も感じさせません

そして大きな決断をした3学期には『学園の記憶』。
『ペルソナ3ポータブル』でも同じ曲が流れます。
エンディング曲『キミの記憶』のワンフレーズが使われており、物語が終わりに近づいていることを示唆しており、巖戸台分寮の曲も、ポロニアンモールの曲も、一気に変わります。
2学期までの賑やかさはどこへやら。
非常に切なく、どこか孤独と寂しさを感じさせる一曲です。

③思わず共感する、それぞれのビターな人生

そして何より、『ペルソナ3』のストーリーに彩りを添えるのは、本作から追加された「コミュ」システム。

日常会話やイベント、文化祭や修学旅行、時には修羅場を乗り越えて、総勢20名以上との絆を築くことができます。
絆が深まり、無二の信頼を築き上げた時には感動もひとしお。

しかし、明るいだけのストーリーはありません。
それぞれ、大なり小なり背負っているものがあります

離婚の危機にさらされている小学生。
競技人生を、残りの人生と天秤にかける高校生。
余命幾ばくもない、物書きの青年。

……と、これだけの羅列でもなかなか重いですね(苦笑)
こうした街の人たちと触れ合う中で、主人公は人生について考えるきっかけを得るわけです。


思わず笑ってしまうようなイベントや、スタイリッシュなオシャレさなどが存分に散りばめられている本作ですが、やはり印象に残るのは、ある種、鬱屈とした雰囲気

バトル中やコミュイベント中だけは、この薄暗い雰囲気を忘れられる」と表現したほうが近いように思います。

そういった設計がなされているのは、いったい何故なのでしょうか。
その理由は、『ペルソナ3』が「死に気づかせる物語」だからです。

重い過去に、非情な運命 常に感じる「死の匂い」

『ペルソナ3リロード』公式サイトに足を踏み入れると、ロード中に次のような言葉が表示されます。

Memento Mori
Remember, You Will Die.
Time never waits.
It delivers all equally to the same end.

『ペルソナ3リロード』オフィシャルサイト https://p3re.jp/ 

少し異なりますが、無印版『ペルソナ3』のOPでも一瞬表示されていましたね。
和訳すると、以下のメッセージに。

メメント・モリ
死を忘れるなかれ。
時は、決して待ってくれない。
時は、平等に同じ結末をもたらす。

メメント・モリとは、古代ローマで使われた警句です。
将軍が凱旋式のパレードをおこなった際、後ろに立つ使用人がかけていた言葉とされています。


死は、すべての生物に平等に待ち受けること
それは、『ペルソナ3』の世界を眺めている私たちも例外ではありません

さらに、当時『ペルソナ3』の開発に携わり、指揮をしていた橋野氏はインタビューで次のように語っています。

作品としてのゲームの目的。それは「大切なもの」に命を掛け、覚悟の中で生の充実を得るという、現実ではとかく難しい体験を、ロールプレイさせること。死を意識することでの生の充実を考える切欠となるような物語を提供することにある。

電ファミニコゲーマー https://news.denfaminicogamer.jp/projectbook/191030a

テーマが「死」であることは明確ですね。
ATLUSの得意とする形而上学的な話ではなく、万人がわかる「死」を核に据えることで、これだけ濃密で深みのある作品に仕上がったのだろうと思います。

では、作品の中ではどのように描かれているのでしょうか。

①仲間たちの「生い立ち」

桜舞う季節、月光館学園に主人公が転入するところから、物語は始まります。
転校初日、「一日と一日の狭間に隠された影時間」に迷い込んでしまった主人公。
そこでペルソナ能力に目醒めると、異形の怪物シャドウを殲滅するため、特別課外活動部に入部することに。

特別課外活動部は、主に「ペルソナ使いの高校生たち」で構成された組織です。
他に、小学生や柴犬、人型戦闘機も仲間に加わります。

そんなメインキャラクターたちにも、死の匂いがまとわりついています。

主人公   両親共に他界。10年前の桐条グループが起こした研究事故によって、13番目のシャドウ「デス」をその身体に内包することになる。
岳羽ゆかり 父親とは死別。母親とは衝突を繰り返し、疎遠になっている。
伊織順平両親は健在だが、父親は飲んだくれでDV(『ペルソナ3ポータブル』『ペルソナ3フェス』にて明らかになる)。物語の終盤、親しくしていた敵対グループの少女、チドリを殺されてしまう。また、秋口に転入してきた望月綾時とも、望まぬ別れを迫られることになる。
真田明彦生みの親はおらず、孤児院育ち。孤児院を卒業するタイミングで火事に巻き込まれ、妹の美紀を失う。また後述の、親友である荒垣も失ってしまう
桐条美鶴主人公たちを欺いていた幾月と相打ちになり、父親が死亡
山岸風花特別課外活動部メンバーの中では、ハッキリとした「死別」を経験していないが、家では教育虐待を受け、学園ではイジメに遭い、孤立無援状態となる。
アイギス物語の最終、大切な人を亡くしてしまう。(『ペルソナ3フェス』にて明らかになる)
コロマル交通事故で、飼い主と死別してしまう
天田乾3年前、荒垣が偶発的に起こしてしまった事故に巻き込まれ、母親が命を落とす。荒垣への復讐を胸に抱き、断罪を終えた後は自殺を考えていた
荒垣真次郎敵対グループの頭領、タカヤの凶弾から天田を庇い、非業の死を遂げる。更に悲しいことに、『ペルソナ3ポータブル』では、女性主人公を選んだ場合のみ生存フラグを立てられるものの、彼の命は長くないことが示唆されている。(自身の招いた事故への罪悪感で、ペルソナ抑制剤を投与していたため)

まだ成人も迎えていないような子どもたちが、真剣に死や別れに向き合っているのです。
キャラクター設定にも、明らかに意図があることがわかります。

②ペルソナを呼び出す「召喚銃」

そんな彼らは、ペルソナを呼び出すために「召喚銃」を使用します。
正式名称は「S.E.E.S.制式召喚器」。
頭を擬似的に撃ち抜くことによって、ペルソナを発現させることができます。

ビジュアル的にとてもカッコいいのですが、なぜ銃の形状をしているのでしょうか

他シリーズをプレイしたことのある方はご存知だと思いますが、ペルソナ1・2ではそもそも召喚に道具を使いません。
また、ペルソナ4はメガネ、ペルソナ5は仮面。
ペルソナ3だけ、武器とも取れる「銃」なのです。

その意義は、美鶴も語っていたように「死を常に意識させる」ことにあります。

ペルソナ能力者が召喚器を頭に密着させて引き金を引くと、たとえ弾が出ないとわかっていても恐怖を感じ、強く”死”について意識する。このとき、無意識との境界――閾値境界に穴が空き、そこへ目に見えない”鎖”を打ち込み、目的とするペルソナを引きずり出すという仕組みである。

『ペルソナ3フェス公式ファンブック -My Episode-』p.158 用語集より

後日談『ペルソナ3フェス』では、召喚器を持たないメンバーが、アイギスの半身であるメティスに叩きのめされるシーンも。
死を見つめられない人間に、ペルソナはコントロールできない。
召喚器一つをとっても、死を意識させる設計であることがよくわかります。

③終焉へのカウントダウン「運命の決断」

そうして物語は進んで、11月へ。
夏の暑さが過ぎて、寂しくなる季節。
ある転校生が、主人公のクラスに現れます。
名前は、望月綾時
不思議な雰囲気を纏う少年です。

その正体は「デス」。
10年前、アイギスの手によって、幼い主人公の体に封じ込められていた存在です。
デスの使命は、「希死念慮の集合体」が滅びをもたらすと、宣告すること。
一言でいうと、世界に死をもたらすということです。

衝撃的な事実が告げられ、主人公たちは大晦日までの1ヶ月間、「死と本気で向き合って」過ごすことに。
その期間、「死とはどういうことなのか」「なぜ恐ろしいのか」「これまでやってきたことの意味は何だったのか」など、各メンバーが「自分の人生を深く見つめ直す」ことになります。

クラスメイトも、教師も、死なんて知らないような顔をしながら、いつも通りの生活を送っている。
なぜ、自分だけがこんな思いをしているのだろう。
なぜ、こんな運命を辿ることになったのだろう。
なぜ、彼らは自分の死から目をそらしていられるのだろう……。
自分と世界とのギャップを痛感しながら、彼らは大晦日を迎えることになるのです。

死は「無常」の最終地点

常に変わりゆくこと、壊れてしまうことを仏教の言葉で「無常」といいます。
ご存知の方は、多いのではないでしょうか。
これまで述べてきた「死」は無常の究極のかたちと言ってもよいでしょう。

絆で結ばれた友人たちとの別れ

無常とは「いつか別れねばならない」ということ。

ひょんなことから知り合い、自分の生い立ちや抱えているものを共有して、かけがえのない絆を得る。
友人との出会いとは、そんなものではないでしょうか。
ところが悲しいことに、仲良くなった先には別れがある場合もあります
先述した『ペルソナ3』のコミュシステムは、その縮図。

離婚で引っ越してしまう小学生、舞子。
全国レベルの能力がありながら、家庭環境を理由に、夢を諦めて街を去る同級生・早瀬。
遺伝性の病気で亡くなってしまう青年、神木。

どれだけ一緒にいたいと思っても、永遠に一緒にいることはできない
それぞれを取り巻く環境も、ずっと同じであるはずがない
そして、心だって変わってしまう

出会って、繋がって、楽しくて…
いなくなって、取り残されて

『ペルソナ3』 アイギス

生きていれば、様々な出会いがあり、必ず別れがあるのです。

終わりに近づいていく、限られた1年間の物語

無常とは「待ってくれない」ということ

時は、私たちを追い立て、過ぎ去って行きます。

時は、待たない
すべてを等しく、終わりへと運んでゆく。

限りある未来の輝きを、守らんとする者よ。

1年間――その与えられた時を往くがいい。

己が心の信ずるまま、
緩やかなる日々にも、揺るぎなく進むのだ――

『ペルソナ3』 冒頭ナレーション

『ペルソナ3』におけるシステムの特徴として、「プレーヤーの思い通りに、ストーリー進行を止められない」ことがあげられます。
完全にカレンダー通り進行するイベント、満月のボス戦までに間に合わせなければいけないレベル上げ等、「与えられた時間は限られているという感覚が芽生えるような設計となっています。

その感覚こそが「時は、待たない。」ということ。
学園生活を通して、人生は有限であることを訴えているのです

主人公にも訪れる、人生のおわり

無常とは「いつか必ず死が訪れる」ということ。

ニュクスから世界を救った主人公。
倒せはしなかったものの、「大いなる封印」を使い、滅びを食い止めることができました。

そして、あっという間に3月5日。
真田や美鶴たちの卒業式です。
卒業式は、決戦の日に交わした約束の日。
記憶を取り戻した、仲間たちの足音が聞こえてくる……。
まどろむ意識の中、うららかな春の日差し。
愛おしい人の、腕の中で。

……静かに、主人公の命の灯火が、消えていきました

「どうせお前とは長い付き合いになる」

「絶対3年生になろうね、みんなで」

「また挑戦させてください。約束ですよ

『ペルソナ3リロード』 真田明彦・山岸風花・天田乾

仲間たちと交わした約束も、友人たちと話した未来も、果たせませんでした。
当然のようにあると思っていた明日は、なかったのです。

主人公は、どんな人だったでしょうか。
常識破りのチカラを持った人。
誰からも信頼される人。
文武両道、何でもできる完璧な人。
なのに、絶妙なタイミングでおちゃらけて、場を和ませることのできる人。
そんな「特別な人」にも、平等に死は訪れます

「色々あったけど、大団円だろう」とハッピーエンドを予想する私たちプレイヤーを待っていたのは、主人公の死

主人公は、プレイヤー自身

『ペルソナ3』は「Episode -Yourself-」とあるように、最初から最後まで、私たち自身に向けられた物語なのです。

『ペルソナ3』からのメッセージ 死に向き合った者にだけ、生の喜びがある

死を知り、死を見つめ、死と向き合う。
すべての人間が抱える重いテーマをあえて選択した『ペルソナ3』は、何を伝えたかったのでしょうか。

死と向き合ってはじめて「生きる意味」を見いだせる

それは物語の最後、アイギスが口にしたセリフに尽きます。

“生きる”って、どういう事なのか…
それは多分… 逃げないで
きちんと考えること…
“終わり”と向き合うこと…

『ペルソナ3』 アイギス

人生の最期があるのだと知り、目を背けないこと
必ずやってくる死に向き合うこと。

私たちは、向き合えているでしょうか。

人は努力して死を遠ざけるのに、本当に遠ざかると“生”も見失う…

『ペルソナ3フェス』 桐条美鶴

私たちは普段、死という話題から目をそらします。
芸能人の訃報であれ、マンガ内のキャラクターの死であれ。
「この間まで、あんなに元気だったのに」「このキャラには、幸せになってもらいたかったなぁ」と他人事として流します。
とにかく、自分に重ねることを避けるのです。

しかし、それでいいのでしょうか。
死に向き合わなければ、本当の意味で「生と向き合うことはできない」のではないでしょうか。
仏教には、次のような言葉があります。

無常を観ずるは、菩提心のはじめなり

ここでいう無常は、世の中の移り変わりなどではありません。
自身の無常、自身の死です。
自分の死に向き合った時、はじめて幸せへの第一歩を踏み出せるのだ、という意味です。

この言葉に出会ったからこそ、ようやく私は、『ペルソナ3』のメッセージを人生の糧にできました。

先述した橋野氏のインタビューにもありましたが、これが『ペルソナ3』を通して制作陣が伝えたかったメッセージだと考えています。

余談ですが、バッドエンディングはかなりパンチが効いており、「死と向き合わなかったために、自分の存在意義とも向き合えなかった」世界線のメンバーが、何の変哲もない日常を無意義に過ごす、空虚なエンドになっています。(正確にはその後、滅びが訪れるのですが……)

私にもあなたにも、「死」があり「生きる意味」がある

実はいち早く、「自分は何のために生きるのか」という問いの重要性にたどり着くのは、順平です。
誇れることも、本気で目指したいこともなく、目的のない人生を送ってきた順平。
彼は、いつ命の灯火が消えるかわからないチドリという少女と対話する中で、大きな人生観の隔たりを突きつけられ、噛みしめるように反芻します。

…つか、何のために、生きてんだろうな…

何のために生きる…。何のために…

『ペルソナ3リロード』 伊織順平・チドリ

「死」は机上の空論ではなく、1人1人の眼前に突きつけられる問題です。
そして、最期を見つめないと、今を生きる意味も見えてこない

ずしりと重いけれど、それはメッセージの重さでもある。
真っ暗で恐ろしく思ってしまうけれど、それは真剣に向き合っているから。

改めて『ペルソナ3』シリーズのOP曲を聴いてみてください。
必ず来る死と向き合い、「限りある命」を何に使うか

仏教は、この疑問に丁寧に答えています。
真剣に自分の人生を見つめる人へ、お伝えできればと思います。

When there’s a beginning
生まれたのならば
There’s an ending too

その命に終わりもある 
(中略)
How short it may last

残された時間が、どれくらい短いかわからないけど
(Carpe Diem, no time to waste)

その時間を無駄にするな
Venture life, burn your dread.

人生を賭けろ、死への恐怖を燃やして糧にしろ

『ペルソナ3リロード』OPテーマ 「Full Moon Full Life」 ※テーマに沿うよう、意訳しています。
https://www.youtube.com/watch?v=KhciEq8JvAs&ab_channel=atlustube