“運命の人”なんていない!?『幸せになる勇気』と仏教が共通して教える「自己決定性」とは

「運命の人」
あなたは信じているでしょうか?

結婚を意識している方にとって、「運命の人」の存在は気になりますよね。

私には運命の人っているのかな?
実はもう出会っているのかな?
出会っているとしたら、誰なんだろう?あの人かも!
私のまわりにはまだ「運命」っていえるほどの人はいないかな。

などなど。
「運命」を感じる人と出会っている方もいれば、まだそれほどの相手はいない、と思っている方もいるでしょう。

「運命の人」の存在について、アドラー心理学に関する書籍の「幸せになる勇気」と仏教ではどう教えられているかに迫ってみます。

「運命の人」をいっさい認めないアドラー

アドラー心理学が対話篇で教えられている「幸せになる勇気」に以下のような記述があります。

恋愛にしろ、人生全般にしろ、アドラーは「運命の人」をいっさい認めません

岸見一郎・古賀史健(2016).「第五部 愛する人生を選べ」『幸せになる勇気』 ダイヤモンド社

「幸せになる勇気」を読んで衝撃を受けたのはここだ!という方も多いのではないでしょうか。

「運命論」が一刀両断され、「運命の人」への憧れがコナゴナに打ち砕かれています。

「アドラーは何でこんなひどいことを言うのか!?」

と言わずにおれませんが、アドラーがこのように運命論を否定する理由が続けて書かれています。

なぜ、多くの人は恋愛に「運命の人」を求めるのか?
どうして結婚相手にロマンティックな幻想を抱くのか?

その理由についてアドラーは、「すべての候補者を排除するため」だと断じます。

岸見一郎・古賀史健(2016).「第五部 愛する人生を選べ」『幸せになる勇気』 ダイヤモンド社

「運命の人」というのは幻想(!)と言い切っています。
「運命の人」を夢見る乙女の前でこんなことを言えば吊し上げでしょうね。

その幻想というべき「運命の人」を求める目的は「すべての候補者の排除」と言われています。

「すべての候補者の排除…?」

候補者の排除とは、どういうことでしょうか。

「すべての候補者を排除する」理由

続けて次のように書かれています。

ささやかな「出会い」を、なにかしらの「関係」に発展させるには、一定の勇気が必要です。声をかけたり、手紙を送ったり。

(中略)

そこで「関係」に踏み出す勇気をくじかれた人は、どうするか?

「運命の人」という幻想にすがりつくのです。……いまのあなたがそうであるように。

目の前に愛すべき他者がいるのに、あれこれ理由を並べて「この人ではない」と退け、「もっと理想的な、もっと完璧な、もっと運命的な相手がいるはずだ」と目を伏せる

それ以上の関係に踏み込もうとせず、ありとあらゆる候補者を、自らの手で排除する。

岸見一郎・古賀史健(2016).「第五部 愛する人生を選べ」『幸せになる勇気』 ダイヤモンド社

勇気をくじかれた人(あるいは元から勇気のない人)が、目の前の対人関係に踏み込むことを避けるために「運命の人」という幻想を求める…。

恋愛にもオクテな方にはかなり厳しい言葉ですね。

アドラー心理学では、相手が誰であっても、自分に「どんな困難に襲われようとこの人を愛し、ともに歩むのだ」という決意さえあれば、幸せを築き上げることができる、と教えられています。

相手がどうこうではなく、大事なのは自分の決意、そして決意を貫く勇気です。

ところが、その他者を愛する勇気がないから、自分を無条件に愛してくれる他者の存在を待ち詫び、目の前のあらゆる候補者を排除していると指摘されているのです。

“運命といえるだけの関係”を築き上げる

知り合いの方に、アドラー心理学での「運命の人」に対する見解をお話ししたところ、「私は夫が運命の人だと思っています(笑)」と言われました。

この方のように「この人は運命の人だ」と思われて愛する決断をし、今も結婚生活を続けられているのは素晴らしいことですね!

「幸せになる勇気」にも以下のように書かれています。

運命とは、自らの手でつくり上げるものなのです。

われわれは運命の下僕になってはいけない。運命の主人であらねばならない。運命の人を求めるのではなく、運命といえるだけの関係を築き上げるのです

岸見一郎・古賀史健(2016).「第五部 愛する人生を選べ」『幸せになる勇気』 ダイヤモンド社

幸せをともに築き上げてこそ、「やっぱりこの人は運命の人だったんだ」と思えるでしょう。

仮に運命と思える人に出会えたしても、幸せをともに築き上げる決意をせず、「この人と一緒になれば幸せにしてもらえるし、楽になれる」と思っている人は幸せになれない、と言及されています。

「楽をしたい」「楽になりたい」で生きている人は、つかの間の快楽を得ることはあっても、ほんとうの幸せをつかむことはできません。

岸見一郎・古賀史健(2016).「第五部 愛する人生を選べ」『幸せになる勇気』 ダイヤモンド社

ラクに流れたいいっぱいの人間にとって、アドラーの教えは胸に突き刺さりますね…。

「運命の人」という幻想にすがりつきたい気持ちいっぱい、
他者に幸せにしてもらいたいいっぱいの私たちですが、

「運命の人」という幻想にすがりつくことなく、他者に幸せにしてもらおうという思いを捨て、他者を愛する決意をしてこそ、幸せな関係を築いていけるのですね

アドラー心理学の劇薬っぷりが炸裂しています。

運命のすべては自分の選択による –自己決定性-

先に「運命とは、自らの手でつくり上げるものなのです」とあったように、幸福な運命をつくり上げるかどうかは自分次第です

これをアドラー心理学では「自己決定性」と教えられています。
一時的なものは除いて、幸せな運命は突如として現れたりしません。幸せになるには、自分で幸せを築き上げる選択をしていかねばなりません。

幻想にすがりつくことを選択し、「どうして自分には良い人が現れないの!?」と不平・不満を言い、周りに毒づいて、余計に幻想にすがりつく運命を引き寄せるのも自分なのです。

「自己決定性」と似た意味の言葉が仏教にもあります。

それは「自業自得」です。
馴染みのある言葉ですが、元々は仏教の言葉です。

自分の行いの報いを自分が受けること。
一般には悪い報いを受ける場合に用いる。

もとは仏教の語で、自分のした善悪の行為で、みずから苦楽の結果を招き受けること。「業」は行為。

自業自得の意味 – 四字熟語辞典 – goo辞書 自業自得の意味 - 四字熟語辞典 - goo辞書

上記のように、一般には悪い報いを受けたときに「それはあなたの自業自得だよ」と使われたりします。

今年3月に「五体不満足」の著者である乙武洋匡さんの不倫を週刊新潮が報じ、物議を醸しました。

乙武さんには非難が殺到し、世間の評価が著しく落ちましたが、「批判を受けてしまったのは不倫をしたことによる自業自得」と言わざるを得ませんね。

しかし、そのような場合に限らず、善い行為によって善い運命がやってきたことも「自業自得」なのです

ゆえに仏教でも、世の中のすべてはあらかじめ定められており、人間の努力で変更できないという「宿命論」や「運命論」が否定されています

ほとんどの仏教の宗派ではそう考えるわけではなく、宿命論はとらず、自分の想いによって世界は変わる、としている。ゆえに自分の想いをととのえるべし、と考える。

宿命論 – Wikipedia

ところで、「恋に落ちる」「一目惚れ」ということもあります。
それは宿命、運命といえそうですよね。

しかし、誰もが特定の人に「一目惚れ」をするわけではありません。

みんながみんな、ジャニーズを好きになるわけでもありませんし、ディーン・フジオカさんに心ときめくわけでもありません。
それぞれの過去の業の積み重ねによって恋に落ちる相手が決まるのです

恋に落ちた“先”が大事

そしてもっと大事なことは、恋に落ちたその先です。

一目惚れした相手と見事にカップルなることができたとしても、相手に幸せにしてもらおうという行動を選択をすれば、運命と思っていた相手とも幸せになることはできない、というのは先に見た通りです。

童話「シンデレラ」を引き合いに出して「幸せにある勇気」にこう書かれています。

あなたはガラスの靴を履いたシンデレラが、王子と結ばれるまでの物語に注目している。

一方でアドラーは、映画のエンドロールが終わったあと、ふたりが結ばれたあとの「関係」に注目している

たとえば激しい愛の末に結婚したとしても、それは愛のゴールではありません。結婚は、ふたりの愛がほんとうの意味で試されるスタート地点です。

現実の人生は、そこから日々続いていくのですから

岸見一郎・古賀史健(2016).「第五部 愛する人生を選べ」『幸せになる勇気』 ダイヤモンド社

シンデレラと王子様がどのような結婚生活を送っていくのか、それこそ注目すべきとアドラーは語っています。

う~ん、やはりアドラーは視点が違いますね。
重要なのはいかにドラマチックに結ばれたかではなく、これからどのようなライフスタイルを選択していくかであると

恋に落ちた先で相手と幸せな関係を築けるか、あるいは「自分を愛してくれないこの人は運命の人でなかった」と切り捨て、再び幻想に浸るかも自分の選択次第です。

幻想から離れ、他者を愛する決意をしたとして、他者に裏切られ、傷つくこともあります。

それも幸せになる代償と心得て、他者を自ら愛する勇気を持ち、「運命といえるほど」の関係を築いていきたいですね。

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