仏教アカデミースタッフのかんばんです。
元陸上400mハードル選手の為末大さんをご存知でしょうか?
400mハードル日本記録保持者にして、世界陸上では2大会連続で銅メダルを獲得するという、快挙を成し遂げた選手です。
その為末さんは、実は投資家としての一面も持っています。
彼は競技者時代に、タイの不動産や株式会社に30万円を投資し、それを最終的に2000万円まで!膨らませることに成功しています。こういう話を聞くと「そんなうまい話なんてあるものか!」と思う人もあれば、「そんなに儲かるなら私もやってみようかな・・・」
と思う人もあるでしょう。
どうして為末さんは30万円の元手で2000万円の利益を生み出すことができたのか。そこには私たちも大いに学ぶべき仏教精神があったのです。
30万円の投資で2000万円を生み出した理由
どうして利益を生み出せたのかについて、為末さんご自身が、自著「インベストメントハードラー」(講談社)でこのように述べています。
私はお金を増やす理想とは、「わらしべ長者」だと思うようになっていきました。
わらしべ長者という有名な昔話では、わらしべはみかんと交換され、みかんは反物と交換され、反物は馬と交換され、
馬は屋敷や田んぼと交換されました。一本のわらしべが、最終的に大きな屋敷になったわけです。どうしてこんなことが可能になったかといえば、モノの価値が、受け取る人によって大きく変わったからです。ある人にはどうでもいいわらしべが、ある人にはみかんと交換してもいいくらいの価値を持っていた。昔話の中では、子供をあやす道具として、わらしべが生きています。
(中略)
投資というものも同じことではないでしょうか。強くお金を求めている人のところに向かえば、お金を求めていない人のところへ行くよりも、圧倒的に大きな価値を持つのです。逆に、お金を必要としていないところに行っても、お金は大きな価値を持たない。求められているところに行くからこそ、価値を持つということです。
投資で大きなリターンを得るといっても、儲けさせてもらうのとは違います。相手を幸せにすることで、それができたことで、対価を得るのです。逆に、幸せにできなければ、対価は得られないのです。
わらしべ長者を思い出してみてください。わらしべも、みかんも、それをもらった人は、大喜びをしてもっと価値の高い対価を提供するのです。相手は幸せになるのです。だから、リターンを得られるのです。それこそ、本当の意味の投資ではないかと私は思うのです。
また、為末さんは寄付ではなく、あくまで投資にこだわっていました。その理由も同じ著書で述べているのですが、投資のほうが、投資する相手と立場が対等だから、だとのことです。
寄付の場合、相手の実情を理解しないまま「無償で恵んであげておきさえすればよい」という意識になってしまうおそれがあります。
しかし、投資の場合、必ず責任が伴うので、投資先の相手をきちんと理解しようと考えるからだとのことです。
相手をきちんと理解し、相手の幸せのために私財を投じ、然るべき対価を得られているのですね。
仏教で心がけるべきは「自利利他」 -我利我利であってはならない-
仏教では私たちはどのような心がけでありなさいと教えられるのでしょうか。
それは「自利利他(じりりた)」の精神であるべきだと常に教えられています。
自利利他の利他とは、他人の幸せを思い、相手が喜ばれることをする、ということです。自利とは、自分が幸せになるということです。なので自利利他とは、他人の幸せを一番に念じ他人が喜ぶことを優先することで、それは巡り巡って自分の幸せともなる、ということです。
為末さんの言葉を借りるならば、「相手を幸せにすることで、それができたことで、対価を得る」ということですね。
反対に「幸せにできなければ、対価は得られないのです」とも語っておられる通り、相手が幸せになるかどうかは度外視し、自分の利益を優先していては、結局、自分が利益を得ることはできないのですね。仏教では、そんな自分の利益を優先する心を「我利我利(がりがり)」と言い、仏教では最も嫌われる精神であり、戒められています。
為末さんの投資への心がけはまさに自利利他の精神そのものですね。相手の幸せを念じるのが第一。それができれば自分への対価は自ずと得られますし、対価が得られないのは、相手を幸せを優先せずに自分の利益を考えてしまっているのですね。
人間の本質は我利我利 だからこそ利他に心がける
そのように、仏教では我利我利であってはなりません。自利利他を心がけるべきです、と教えられているのですが、実行するのが本当に難しいです。それは人間の心の本質が我利我利だから、と言われています。
本質が自利利他なら、その実行は難しくないのですが、私たちの本心は「自分の都合を優先したい、自分の利益を優先したい、自分が楽がしたい、自分は苦労したくない」いっぱいなのです。そして自分の都合を優先するあまり、人も傷付け、自分も信用を落として苦しみのリターンを得てしまう。これは「自損損他(じそんそんた)」であり、これでは誰も幸せになることはできません。
投資においても、為末さんのような心がけで投資を実行できている人が少ないからこそ投資で失敗している人が後を立たないのでしょう。そこにこそ、私たちが幸せになれる秘訣があるのですね。
世界的企業である京セラとKDDIを創業された稲盛和夫さんも利他の心がけを勧められています。徹底的に利他の心がけで生き、経営を進められたことによって大躍進を遂げられました。
- 自分たちの利益ではなく他者の利益を第一義とする―その経営を原理原則を貫いたことが、成功への道をつないだのです。
- 2つの道があって、どちらを選ぼうか迷ったときに、おのれの利益を離れ、たとえそれが困難に満ちたイバラの道であろうとも、「本来あるべき」道のほうを選ぶ―そういう愚直で、不要領な生き方をあえて選択することでもある。ただ、長い目で見れば、確固たる哲学に基づいて起こした行動は、けっして損にはならないのです。一時的には損に見えても、やがてかならず「利」となって戻ってくるし、大きく道を誤ることもありません。
二 原理原則から考える 『生き方―人間として一番大切なこと』(稲盛和夫著 サンマーク出版)p,89-90
私たちの本質が我利我利であり、自利利他の精神の体現が難しいからこそ、その精神を貫けば相手も喜ばれ素晴らし対価も得られるのですね。
ぜひ私も見習い、心がけていきたいと思います。