煩悩シリーズも5回目。今回は貪欲に続きまして、三大煩悩の一つ「瞋恚」について解説いたします。
これまでのシリーズの記事は以下からお読みください。
怒りという煩悩について
私たちを煩わせ苦しめる煩悩の代表の一つとして「瞋恚」という怒りの心が、仏教では教えられています。
最近も「アンガーマネジメント」が話題になり、関連する本がベストセラーになっています。現代の心理学でも研究されている、誰しもが興味をもつテーマです。それだけ怒りに悩み苦しんでいる人が多いということであり、怒りに関係のない人はまずないでしょう。
そんな怒りについて2000年以上前に瞋恚として、明らかにしているのが仏教なのです。
その怒りについて、語源を見てみました。
諸説ありますが、「怒り」という漢字の語源は、心の上にヤツとあるように「こんなことになったのはアイツのせいだ」と思うところからきています。また女性が「又、あの女が自分の夫を浮気して」という浮気相手の女性に向けられたことからもあるという説もあります。
怒りの英語である「Anger」は古ノルド語のangr「悲しみ」から来ています。相手に裏切られた悲しみが怒りです。
「相手によって自分の欲望が妨げられた時に起こる感情」それが怒りです。この怒りという感情に人類は苦しめられ続けているのです。
欲望が妨げられたときに表れるのが怒り
自分の怒りがどうして起きたのかを振り返ると、欲望が必ず絡んでいます。これまで解説してきた貪欲という煩悩ですね。
一例をあげていましょう。よくあるシチュエーションです。
資格勉強が終わった後のご褒美として、冷蔵庫で冷やしていた、1個300円する銀座の高級プリン。終わったら食べる!というモチベーションで、自分の部屋にこもって4時間猛勉強。一区切りして、リビングに行き、冷蔵庫を開けたところ、プリンがない!そして台所の流しに空になったプリンの容器が……
こんな時、カッと怒りが湧いてきます。怒らない人はいないでしょう。いるとしたらプリン嫌いの人ですが、そういう人は、別の自分の大好きな食べ物を当てはめてください。
食べ物の恨みは恐ろしいと言われます。それもただ取られたのではなく、お金をかけて、我慢して我慢して食べようとした時のことです。
こんな状況になったらまずやるのは、犯人探しです。一体誰がプリンを食べたのか、探し出さないと気が済みません。母親か父親か、はたまた兄か妹か。このときシャーロック・ホームズも驚きの頭の回転で推理を始めます。あらゆるアリバイを考慮し、犯人を見つけ出そうとします。そして、その責任を追求し、すぐにプリンを買わせに行くなどします。
これは「美味しいものが食べたい」という食欲を邪魔されたから起きる怒りです。そして勉強後のご褒美という欲望が強くなっている分、怒りもまた強いのです。どうしても食べたいという状況でなければ、また今後買えばいいと冷静になるでしょう。しかし、欲望が最高潮にある場合、怒りの炎は燃え盛るのです。
犯罪の温床。怒りの炎はすべてを焼きつくす
この記事を見ている冷静なあなたからすると、何をバカなことを言ってるのだと思うかもしれません。そうです。怒りは平常時は姿を見せません。しかし一度表れれば、人を変えてしまうのが怒りです。
プリンの話であれば、可愛いもので、改めてプリンを買ってあげれば事は納まるでしょう。(場合によっては2個、またはさらに高級なものを買ってあげないといけませんが)しかし世の中そんな可愛いものだけではありません。
最近話題になったのは大分の自衛官の一家消失事件です。海上自衛官という日本を守る職につく人が自宅を燃やし、こども4人を殺してしまうという恐ろしい事件でした。
事件で驚かれたのは放火の動機です。どれだけの理由があったのだろうと思われますが、その理由はごくささいなもの。
家を出る際に妻が見送りに出てこなかった
にわかには信じがたいのですが、妻にかまってもらえなかった悲しみが怒りとなり、そして家の財産である家を燃やし、そしてこども4人を殺すという凶行に出たのです。
「キレる」という言葉が話題になるほど、怒りと犯罪は結びつき安いものです。犯人の証言の中でよくあるのは「カッとなってやった。今は反省している」というものです。カッとなるというのは、怒りの炎に身を焼かれたことです。そうすると冷静な時は絶対にやらないことをやってしまうのが人間なのです。
凡夫というふは、無明、煩悩われらが身にみちみちて、欲もおほく、瞋り腹だちそねみねたむ心多く間(ひま)なくして、臨終の一念に至るまで、とどまらずきえず、たえずと、水火二河の譬(たとえ)にあらわれたり。
人間というのは煩悩でできています。ですから欲望が多く、死ぬまで怒り腹立つ心は絶えません。そんな人間がどのようにして生きるべきか仏教では教えられています。