もうすぐ夏のコミケですね。
皆さま、戦の準備は万全でしょうか?
参戦しなければ夏が終わらない!と言っても過言ではないほど、同人ライフに生きる私たち腐女子にとって欠かせないイベントが、コミケに代表される同人誌即売会です。
※腐女子って何?と思われた方はこちらの記事で解説しております。よければ一緒にお読みください。
筆者が初めてボーイズラブ作品というものを知った頃と違い、今日はpixivやTwitterで手軽に同人作品に触れられるようになり、一部の人向けのニッチな趣味ではなくなってきたようです。
しかし楽しいはずの同人ライフで、現代ならではの苦しみを感じる腐女子さんもいるようです。
筆者が耳にした腐女子のホンネからSNS社会の同人ライフを楽しむためのヒントを考えてみたいと思います。
即売会で聞いた腐女子の現実「『相互フォロワーさんのみ取り置き受け付けます』が不快」
一年ほど前になるでしょうか。
ある同人誌即売会でのことです。
女性向けの中では特に規模の大きい夏の即売会で、早朝から長蛇の列ができていました。
筆者は漫画も小説も書けない、いわゆる「読み専」腐女子で、腐女子になってから15年、一般待機列に並んでいます。
その日も一般列にいたのですが、後ろに並んでいた女性二人からこんな会話が聞こえてきました。
「最近Twitterのタイムラインにさ〜フォローしてる作家さんが『相互フォロワーさんのみ取り置き受け付けます』っていう呟きするの見るんだけど、あれ不快」
「分かる〜!私がフォローしない人は取り置きしないよ〜頑張って買いに来てね〜って言われてるみたい」
「私らは作家さんにリプ何回してもフォローしてもらえないのに、相互の人だけ特別扱いされててズルいよね」
「相互じゃない私たちは炎天下、暑さに耐えて並んで当然って言われてるみたい」
当時、私のタイムラインにも「相互さんのみ取り置きします」というツイートは頻繁に見られました。
最近は取り置きをサポートするツールも発達し、こういう「ズルい」という声はほとんど聞かないように思います。
しかしこの衝撃的なホンネにはSNSで同人活動を楽しめるようになったからこその苦しみが隠れていそうですね。
同じような声はまた別の問題として吹き上がってくるように思います。
古(いにしえ)の腐女子である筆者が同人誌即売会に行き始めた頃は、同人活動はファンロードやジュニアなどの情報誌が情報源でした。
その後個人サイトでの活動が活発化し、手書きブログ、pixivそしてTwitterが同人ライフの主流になっていきました。
SNSが活動の主流になったことで、同人誌の感想や作家さんの応援も気軽にできるようになります。
しかし一方で、一読者には目に見えなかった「作家さん同士の交流」が目に見えるようにもなりました。
かつては同人作家さんは大手サークルさんも駆け出しサークルさんも、読者からすれば遠い世界の方々という印象でした。
近年、神がかった画力を持った絵師さんを「神絵師」という言い方をしますが、「神」という呼び名とは裏腹に「作家さん」はとても身近な存在になったように思います。
「取り置きずるい」の背後にあるのは、「神」「売り子さん」は自分より幸せに違いないという思い込み?
ネット上での同人活動が盛んになったことで、今まで目にすることのなかった同人作家さんの交流関係が目に見えるようになりました。
「相互フォロワーさんのみ取り置きします」のように、これまでは読者の見えないところで行われていた仲間同士の仲良さそうなやり取りも見えるように。
先程紹介した腐女子さんのように、作家さんからフォローされる人だけが取り置きをしてもらえることが「ズルい」と思ってしまうのは「一生入れない楽しそうな世界」を見せつけられているような疎外感があると思われます。
TwitterなどのSNSは今や腐女子にとって無くてはならないツール。
SNSの情報に振り回され、負の感情で即売会という最高のイベントを楽しめなくなるのはとても勿体無いことです。
このSNS中心の同人ライフを楽しく送るためにはどんな心がけが必要なのでしょう。
「特別扱いされてズルい」という感情の根っこには、サークル参加できる人は「自分より幸せそう」という前提があるように思われます。
たしかに真夏の炎天下や凍える寒空の下、何時間も開場待ちをしたのに大好きな作家さんの新刊が買えなかった悲しみは何十回経験しても慣れるものではありません。
通販を用意してくださる作家さんも多くおられますが、 仕事が終わってスマホを見たらいつも完売していて、Twitterは毎日見ているけれど本は一冊も読めたことがないサークルさんも多くあります。
そんな筆者からすると、作家さんと親しい方は「神」の新刊を読めていいな〜という羨ましい気持ちも痛いほど分かります。
しかし作家さん側にとってはサークルの設営自体が大変なことで、決して「お取り置き」は簡単なことではないそうです。
まず、取り置きをすること自体、はっきりいってサークル側にほとんどメリットはありません。
人によって管理の仕方は違うと思いますが、まず取り置き分の名簿を作り、在庫から取り置き分を分け、人によっては取り置き分は一冊一冊封筒などに入れて渡す人もいます。
これは普通に頒布をすれば一切必要ない作業で、取り置きをしたからと頒布価格を上げるサークルというのはあまり聞いたことがないので、これはサークル側が好意で手間をかけてくれているだけです。
その上、取り置きをしてもそれ以降音信不通になり、取りに来ない人、もしくは「取り置きを頼んだけれど普通に買ったので大丈夫です」という人が時々いました。
これをやられると普通に頒布すれば残らなかった在庫が手元に残ることになるので、結構つらいです(場合によっては取り置き以外手元にないため、頒布を断ることもあります)。
筆者はありがたいことに「作家さん」として即売会に参加している親しい友達がいます。
その友人に聞いてみたことがあるのですが、同人誌を作るのにかかる費用は読者の自分が想像していたよりもはるかに高額な費用でした。
(費用について作家さんに聞くのはマナー違反なので、皆さんは筆者のような失礼なことはなさらないようお願いします(笑))
器の広い友人が教えてくれた収支事情から想像するに、スペース代や本人の交通費を加えると赤字で参加している作家さんが大多数なのではないかと思います。
たとえ好きでやっている活動でも、大きな出費を伴う上に「取り置き」したことにより在庫が自宅に大量に残ったら非常に辛いですよね。
また「売り子さん」としてスペースに作家さんと並んで過ごせる方も、一般参加者の私たちからすると「神」に近しい存在に見えてきます。
しかし実際は「神」の近くにいるからこその苦しみがあるようです。
「売り子さん」もつらい!現実を知ることは同人ライフを楽しいものにする第一歩
「ウタチャンホンポ」さんというサークル名で活動されている、うた子さんという作家さんがいます。
オリジナルストーリーの同人誌や、同人活動に対する読者からの質問に答えるような企画など幅広い作品が魅力で、筆者は以前から大ファンです。
そんなうた子さんが2016年に発行された
には楽しそうな同人作家さんや売り子さんが経験した「怖い話」が生々しく描かれています。
サンプル部分に掲載されている「怖い話」はある売り子さんの体験談。
売り子として参加していたとあるイベントのスペースに、作家さんの熱烈なファンと思われる女性がやってきました。
「あの、これ差し入れです
よかったら売り子さんにも…」
「えっ私にも頂けるんですか!ありがとうございます!」
ファンは作家さんだけでなく、売り子さんにもなんと差し入れを持ってきていました。
なんて丁寧なファンなんでしょう…と思いきや、「差し入れ」として渡されたものは手紙と現金6000円でした。
売り子さんへ
私の方がサークル主さんの役にたてる。
6000円あげるので売り子を替わってください。
お願いします。
また、こんなケースも紹介されています。
即売会で売り子をしていたら 同級生に見つかってしまって
後日大学で
「ちょっといい?」
何を言われるかドキドキしてたら
「一体どうやって大手(※)に取り入ったの?教えてよ
私も『そっち側』に行きたいんだけど…」
※大手…大手サークルと呼ばれる人気作家さんのサークルの略称。
これは怖い。
憧れの的、同人作家さんと一緒にイベント参加できる売り子さんも、決して楽しいことばかりな訳ではないのですね。
ご紹介したのは「怖い話」として紹介されるほどのケースですが、決して「売り子さんは一般参加者よりずっと楽しくて幸せ」とは言えないことが分かります。
この作品には、作家さんとして参加した方が
「こんなに下手なのに そんなにお金とるんですか!?」
と買いに来た人に言われたというケースも紹介されていました。
ホラーを通り越してテロですね。
他にも色々な方の体験談が、親しみやすい可愛い絵柄で描かれていますので、是非うた子さんの御本で読んでみてください。
筆者も人のことは偉そうに言えない立場で、お客さんとしてずっと即売会に参加しているとどうしても作家さんや売り子さんが、キラキラした幸せそうな世界に見えてしまいます。
「自分より幸せそう」という思い込みが、「特別扱いしてもらえてズルい」という妬みにシフトしていくのではないでしょうか。
しかし実際は、華やかで楽しそうに見えるスペースの中にいる作家さんや売り子さんも、そのポジションにいるからこその苦しみを抱えておられます。
「読み専」の私たちも、「作り手」「売り手」の作家さんや売り子さんも、大なり小なり何かの苦しみを抱えながら、それを超える幸せを求めて即売会に参加している訳です。
「有無同然」という四字熟語があります。
仏教由来の言葉で、書き下すと「有っても同じく然り」。
才能や財産、人脈がある人は「有」ることで苦しみ、持たない人は「無」いことに苦しんでいるという意味です。
サークルさんとして参加できる才能を持っている人、そんな作家さんと繋がる人脈を持っている人はその「有」ることで苦しみ、そうでない人は「無」いことで苦しんでいます。
書き手と読み手、そして売り子さん。
それぞれが抱えている辛さを知ることが、同人ライフをより楽しく過ごせる第一歩なのではないでしょうか。
この世に何人、推しへの愛を共有できる人がいるでしょう。
同人ライフを楽しむ女子は年々増えているとはいえ、日本人口全体と比較すると同志の数は非常に限られています。
食事をしながら語り合えるような友達にはなれなくても、同じ「萌え」を感じられる仲間を大切にし、互いの苦しみを知る努力をする。
そんな心がけが、SNS社会で楽しい同人ライフを送るために必要なのではないでしょうか。