【刀ステ・无伝】鶴丸国永と三日月宗近のセリフから考察する、「无伝」の物語に込められた深い意味※ネタバレ注意

刀ステの魅力に虜になってから、気づけばはや4年の獄上です。

今週末、ついに大千秋楽を迎える「TBS開局70周年記念 舞台『刀剣乱舞』无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣-」。

筆者は新型コロナウイルス感染症の拡大地域に住んでいることから観劇を泣く泣く見合わせましたが、2021年4月13日の12:30公演、18:00公演のライブ配信で「无伝」を観劇することができました。

劇場に行けなかったことは大変悲しかったですが、今週末の大千秋楽公演もライブビューイング配信して頂けることが決まり、運営さんには感謝しかありません。

舞台『刀剣乱舞』、通称「刀ステ」は大人気ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』を原作とする演劇作品シリーズ。

无伝」は今年始めに上演された「舞台『刀剣乱舞』天伝 蒼空の兵 -大坂冬の陣-」と対になる作品で、物語も「天伝」とつながっている部分が多々ありました。

※「天伝 蒼空の兵 -大坂冬の陣-」のあらすじはこちらのコラムでご紹介しています。

【刀ステ感想】秀頼と家康、弥助の姿から考察する「天伝」の意味。一期一振が目にした「夢」の本質とは※ネタバレ注意

このコラムでは4月13日のライブ配信を鑑賞させて頂いた筆者が、「无伝」のあらすじを刀ステシリーズ全体の伏線も考察しながらご紹介。

大千秋楽公演を前に、改めてその物語の深さを振り返りながら、副題无伝に込められた意味を深堀りしていきたいと思います。

戦国の終わりに生きる「夕紅の士」の物語。刀ステ「无伝」あらすじ※悲伝・天伝のネタバレ注意

「私は、豊臣を終わらせにきただけです。」

「无伝」の舞台は戦国時代の終わりとして知られる、大坂夏の陣

「天伝」で己の行末を知った真田信繁は、なんと歴史に抗うため自ら命を絶ってしまいます。

正史なら信繁がいるはずの大坂夏の陣では、信繁が「真田幸村」として今日も人気の歴史人物として史実に残るよう、刀剣男士・大千鳥十文字槍が信繁に成り代わって生き、歴史の修正を試みていました。

筆者が大好きな作品「ミュージカル『刀剣乱舞』 ~三百年(みほとせ)の子守唄~」では、刀剣男士たちが殺害されてしまった徳川四天王に成り代わり家康の生涯を支えていく物語が描かれます。

同じような物語になるのかと思いきや、刀ステでは一筋縄ではいかない事態に。

真田信繁が史実より早く死去した「大坂夏の陣」では歴史上実在しないはずの「真田十勇士」が徳川軍を次々と撃破し活躍しており、その真田十勇士に大千鳥は正体を見破られ、ともに任務に当たっていた泛塵もろとも、窮地に陥ります。

そこへやってきたのは「刀ステ」で描かれる本丸の刀剣男士たちでした。

悲伝で時を「円環」していることが判明した三日月宗近も、「无伝」で出陣した部隊の一員です。

※悲伝のあらすじについてはこちらのコラムでご紹介しています。

【刀ステ悲伝・感想】三日月宗近から「悲伝」の本当の意味を考察する(大千秋楽公演ネタバレ有り)

「无伝」は「悲伝」の前にあたる時系列のようで、大千鳥十文字槍は三日月宗近に接触し、政府から三日月の観測任務を命じられていると打ち明けます。

既にこの時点で三日月の行動は、時の政府から目を付けられていたようです。

一方、三日月と鶴丸を除く刀剣男士たちは真田十勇士に遭遇、交戦していましたが、真田十勇士を率いる高台院が現れ、両者とも戦いを辞めるよう指示されます。

高台院湖月心尼、別名は「ねね」。

秀吉の正室として有名な高台院は、本来の歴史ではこの時期、徳川側に監視をつけられ、京都にいるはずの人物です。

史実に存在しないはずの真田十勇士を率いる高台院は、豊臣が滅びゆく歴史を改変しようとしているのかと思いきや、真田十勇士に戦うことを止めさせます。

高台院の真意が読めないまま、刀剣男士たちは真田十勇士と戦うこともできず、しばらくの間ともに過ごすことになったのでした。

鶴丸国永が聞いた、真田十勇士の魂の叫び。高台院が三日月宗近に打ち明けた衝撃の事実も明らかに……

鶴丸国永「俺たちに仲良くしろとは、高台院にも困ったものだ」

筧十蔵「ああ」

鶴丸「しかし、何でまた真田十勇士は高台院に従うんだ?

お前達の主は真田信繁なんだろう」

十蔵「だから何度も言ってんだろ。

信繁さまが豊臣のために戦ったからには、俺たちも豊臣のために戦うんだよ」

停戦を命じられた真田十勇士の一人である筧十蔵由利鎌之助と刀剣男士の鶴丸国永は、城下町で和気あいあいと酒を酌み交わしていました。

しかし鶴丸が問うた「真田十勇士たちが高台院に従う理由」に答えるうちに、筧十蔵が取り乱し始め、錯乱していきます。

十蔵「あの御方は、豊臣そのものだからだ!

遠征で城を空けることの多かった秀吉に代わって、彼女が政を取り仕切ってた。

秀吉を天下人に押し上げたのも、豊臣家を大きくしたのも、彼女あってこそだ。

秀頼や、豊臣に集まった武将たちを我が子のように愛しもした。

豊臣秀吉の実態は、木下藤吉郎と、ねね。二人で一人なんだ!

あの御方は信繁さまが命を賭してまで守ろうとした

豊臣そのものだ!!

だから俺たちは苦しいんだ!!

豊臣を守りたくても、守ることを許されない……

戦わなきゃいけねえのに!戦うことを奪われちまった!

このままじゃ俺たちは、真田十勇士じゃいられなくなる

じゃあ俺たちは何だ!?

何のためにここにいる!?

何のためにこの身を得た!!

俺は……俺達は……!!」

一方、三日月宗近はこの異様な大坂夏の陣を引き起こした張本人と思われる、高台院に呼び出されていました。

三日月宗近「この俺に話があると?」

高台院「ええ、あなたはもう気づいているのでしょう?」

三日月「さて、何のことだろうな」

高台院「私が人間ではないということに

高台院は自分が人間でないことをいきなり打ち明け、さらにこの異常な状況が起きた発端を三日月に語ります。

高台院「長きにわたる戦乱は多くの者を苦しめました。

私はその時代を終わらせようと、夫である秀吉が天下人へと上り詰めることに力を尽くしてきました。

秀吉が亡くなったあと、私は、淀の方とともに秀頼の後見に当たりました。

秀頼を天下人にするためにです。

……それは叶いませんでしたが……

家康は、私が大坂に入らぬよう見張りをつけました。

その気になれば私は、駆けつけることもできた……

でもそうはしなかった……冬の陣が終わり、夏の陣にて大坂城は落城し、豊臣は滅びました。

私は豊臣が滅びゆく様を見たくなかったのかもしれません。

だから、豊臣の終わりから目を背けたのです。

その時です。あの男が現れたのは……

三日月「あの男とは……?」

高台院「黒田 如水

三日月「如水?

黒田官兵衛か……

はて……

官兵衛はこの時代、既に没していたはずだが

名軍師として「クロカン」の愛称で知られる黒田官兵衛、またの名を黒田如水

過去作『ジョ伝 三つら星刀語り』のキーパーソンだった黒田如水は、豊臣・徳川が天下を治める歴史を改変しようと計画。

時間遡行軍と共闘して、刀ステ本丸の刀剣男士たちを苦しめました。

さらに「ジョ伝」で刀剣男士たちに協力した息子・黒田長政の思いも虚しく、「天伝」で如水はひそかに時間遡行軍を牢に入れて監禁し、人間の言うことを聞くように調教していたことが明らかに。

さらに歴史書に記載が少ない歴史人物「弥助」をひそかに側近として仕えさせ、自分の死した後に歴史に仇なす計画を弥助に実行させました。

「天伝」での如水の計画は刀剣男士たちによって阻止されますが、なんと「无伝」では仮面を被った黒田如水本人が本来なら死んでいるはずの時代に登場。

高台院に豊臣家の滅亡する未来を伝えて、歴史改変を唆していたことが明らかになります。

如水『高台院湖月心尼よ。我らがお力添えいたしましょう。

徳川を討ち滅ぼし、豊臣に天下をもたらすも良し。

秀頼さまを諸説へとお逃しするも良し……

さあ、あなたは何をお望みか?』

高台院『私は……私はこの目で見届けたい』

如水『ほう……見届けるか』

高台院『ええ、私が始めた、豊臣という物語を。……その終わりを』

如水『委細承知した。あなたの望みは、この如水が叶えてみせましょうぞ』

如水に「歴史を変えることができる」と言われても、豊臣の滅びをこの目で見届けるだけで良いと高台院が言ったのは理由がありました。

「人は過去や未来ではなく、それぞれの『今』を生きています。

豊臣の物語の終わりの行く先にも、そこを生きる人々がいるのです。

己が行く末を知り得たとて、それを覆すことなどできるのでしょうか?

だから私に許されるのは、豊臣の終わりを見届けるだけです。

三日月宗近、私を斬って下さい。すべてを見届けた後に。

本来の歴史なら、私はここにあってはならぬもの。

そうでございましょう?」

歴史改変に乗り出すのではなく、豊臣の滅びから目を逸さず見届けることを、高台院は本心から望んでいたのでした。

自身を歴史上の異物だと認識している高台院は、目的を果たしたあとは三日月に自分を消し去ってほしいと頼みます。

三日月は苦しみに満ちた表情で承諾しますが、その後に意外な発言をします。

三日月「………分かった。

しかし、代わりといっては何だが、俺からも頼みがある。」

高台院「頼み?」

三日月「真田十勇士が、俺たちと戦うことを許してやってくれ。

あの者たちが、歴史に抗うことを許してやってほしいのだ

高台院「ですがそれは……!」

三日月「真田十勇士は、真田信繁の物語から生まれ、豊臣を守るためにこの世にある。

その者らに、豊臣が滅びゆくのを何もせずに眺めていろというのは、随分と酷だ……

歴史を守るはずの俺たちが、主から歴史改変せよと命じられるに等しい。

真田十勇士この世にある意味と、その使命を、果たさせてやってほしいのだ

その場にはいなかったのに、まるで筧十蔵の苦悶する姿を見たかのような三日月の頼み。

それは自分たちが負ければ歴史改変を引き起こすことにもなる、刀剣男士の使命と相反するものでした。

この言葉には、「刀ステ」シリーズ全体の最大の謎である「三日月宗近がなぜ『円環』しているのか」というテーマの答えが隠れているように思われます。

三日月の頼みを聞き入れた高台院により、戦うことを許された真田十勇士たちは、水を得た魚のように豊臣が滅びゆく歴史を改変しようと戦い始めました。

その戦いの中で、鶴丸国永がある問いかけをしたことで、さらに三日月が一人抱えている苦悩の一端が見えてきます。

鶴丸国永と三日月宗近の会話から考察する、三日月が「円環」する理由

鶴丸国永「この戦いは、いつになったら終わるんだろうな?

三日月宗近「時間遡行軍を残らず打ち倒し、見事歴史を守り抜いたらであろうか」

鶴丸「時間遡行軍を残らず打ち倒すか……気の長い話だ。

そもそも、そんなことができるのかという話でもある。

もしかしたら……この戦いに終わりなどなく

俺たちは未来永劫戦い続けるのかもしれん。

それを考えると……

……驚きを通り越して、ゾッとするな

……三日月なら、それにどうやって耐える?

もし、この戦いに終わりが無いとしたら、

どうしたら……

……狂わずにいられる?

苦悶する筧十蔵が鶴丸の前で残した「何のためにこの身を得た」という言葉は、少なからず鶴丸に影響を与えていたのでしょう。

鶴丸が口にした迷いは、三日月が高台院に言っていた「この世にある意味」を自分たちに対しても問う、鋭い問いでした。

刀剣男士たちは、顕現された最初の頃は人の身を得たことに日々驚きと喜びを感じ、使命に突き進んでいたことでしょう。

しかし繰り返される戦いの日々に、筧十蔵が苦悶していた「何のためにこの身を得た」という問いを、考えずにおれなくなっていたのではないでしょうか。

「……鶴丸国永よ、それは…………」

しばらくの沈黙のあと三日月は笑みを浮かべ、こう答えます。

「容易いことだ。

俺たちには、あの『本丸』があるではないか

本丸があり、主がいて、刀剣たちがそこにある

もしもこの戦が終わり無きものであろうとも、あの本丸の皆とともにあるなら、よろしくやっていけるさ

鶴丸と三日月はその後しばらく、本丸の仲間たちの話に花を咲かせますが、三日月はどこか遠いところを見るような目をしていました。

「无伝」の後に続く物語は、この時点では時系列的に「悲伝」です。

悲伝」では、三日月は何かの目的のために時間軸を繰り返しループしていたことが分かり、時の政府から刀解(処刑)されてしまいます。

三日月と並んで刀ステシリーズの主人公ポジションである山姥切国広が見届けた三日月は、刀剣男士としての色を失い真っ白になった姿でした。

真っ白になり、ボロボロに衰えた姿で、三日月はまた時間軸の「円環」に入っていきますが、「円環」を続ける苦しみを山姥切にだけは吐露しています。

鶴丸とのやり取りの中で三日月が漏らした以下の言葉からも、山姥切に三日月が一縷の望みを託していることが伝わってきて、筆者は涙が止まりませんでした。

「あとは……そうだな。

山姥切国広は……

うむ、近侍として立派になったものだ……」

三日月は大きな苦しみを背負いながら、何かの目的のためにこの時点で既に「円環」を繰り返していたと思われます。

その理由は「无伝」でも完全に明らかにはなりませんでしたが

俺たちには、あの『本丸』があるではないか

という言葉は、三日月が円環を続ける理由に深く関わっていると思われます。

三日月宗近にとって「本丸」の未来は「この世にある意味」。黒田 如水と三日月の時を超えた戦いは続く

真田十勇士という歴史上には実際には無い存在、つまり「无」(無)です。

歴史上存在したか定かでない大千鳥十文字槍が中心人物になっていることからも、「无」から生まれる物語が今回の副題「无伝」の意味だと思われます。

しかし筆者は「无伝」には、もう一つ別の意味もあるのではないかと感じました。

「もし、この戦いに終わりが無いとしたら、どうしたら狂わずにいられる?」

という問いかけに、三日月が答えた「本丸がある」という答え。

もしその本丸が、最初の刀ステ本丸の歴史では敵に殲滅され「无」になっていたとしたら……

三日月にとって「本丸」が「无」に帰する未来を変えたいという願いは、自分が果てしない円環という地獄で存在し続ける唯一の意味になったのではないでしょうか。

原作『刀剣乱舞-ONLINE-』でも刀ステでも、刀剣男士たちが「歴史を守ることは本能」と言うセリフがいくつか見られます。

刀剣男士の「本能」というのは、三日月が言う「この世にある意味とその使命」と同じ意味でしょう。

「歴史を守ること」という、この世にある意味とその使命が本当に正しいのか、迷いを見せた鶴丸に三日月は「本丸がある」と断言します。

しかしその「本丸」が歴史を守る戦いの中で失われるものだとしたら、本丸の刀剣男士たちが「この世にある意味」はどうなってしまうのでしょう

悲伝で一人円環を続ける理由を、仲間に問われた三日月は

「おぬしたちに背負わせるわけにはいかん。」

と言っています。

歴史を守るために本丸が滅びる未来が確定しているのなら、本丸の未来を守るという「この世にある意味」が三日月にとっては「歴史を守る」という「本能」を凌駕した可能性も考えられます。

そして「本丸の未来を守る」ことが自分たちが人の身を得た理由である「歴史を守る」という「本能」に相反するとなれば、一人で無限の時間を円環し続けるという地獄を選ぶしか、三日月には無かったのかもしれません。

「无伝」には自分が「この世にある意味」が「无」(無)なのではないかという生きとし生けるものの根源的な不安が隠れているのではないでしょうか。

同じ不安から出てきたと思われる筧十蔵の「何のためにこの身を得た」という問いは、平和な現代社会に生きる私たちにも、当てはまる問いかけです。

毎日同じ電車に乗り、同じような仕事を繰り返していると、ふと自分が「この世にある意味」はあるのか、不安を覚える方は現代社会にも多くおられるのではないでしょうか。

真田十勇士の苦悩を三日月が理解できたのも、この世にある意味の拠り所としていた「本丸」を失ったことがあるからかもしれません。

仏教では自分が「この世にある意味」を問いかけ、静かに見つめ直すことは本当の意味で幸せな人生を送るために必要な第一歩だと教えられています。

そして仏教はこの世に私たちがある意味は「无」(無)いのではなく、人間に生まれたときにしか果たせない、大きな意味があるのだと教えられています。

「三日月宗近……円環を巡りながら戦う者よ……

お前も私も、同じものを探している。

見せてもらおうぞ。

巡り巡りしお前の物語を……」

物語のクライマックスで、自ら仮面を外した如水。

仮面の下には、紛れもなくジョ伝で刀剣男士たちと戦いを繰り広げた黒田如水の姿がありました。

如水は刀ステシリーズ全体で暗躍する、いわば物語の裏であり影の軸となる人物であったことが判明します。

三日月宗近と「同じもの」を探していると述べていますが、如水の目的は自分に天下を手にすることを許さなかった歴史への報復なのか、まだ全容は分かりません。

しかし肉体が滅んでいるはずの時代に何らかの手段で現れ、歴史に仇をなそうとする執念は、紛れもなく如水にとっての「この世にある意味」でしょう。

三日月宗近と黒田如水が歴史という戦場で繰り広げる、時間を超えた願いと権謀術数のぶつかり合い。

今後も刀ステシリーズで繰り広げられていくであろうその壮大な戦いは、生きとし生けるものにとって「この世にある意味」がいかに大きな意味を持つかを教えてくれているような気がします。