異彩と異臭を放つ!「鉄血のオルフェンズ」メカニック”カッサパ”という男とは?由来の仏弟子との共通点を考える

今年2016年3月に最終回を迎えたTVアニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」。
第2期放送が発表され、秋に向けて首を長くして待っているファンも多いと思います。

新ガンプラの発売や、劇場版「THE ORIGN」公開、各種イベントなど、ファンを飽きさせない一手をバンダイは次々と繰り出して来るさなか……

ここで「オルフェンズ」のキャラクター「ナディ・雪之丞・カッサパ」について語りたいと思います。

Cursor_と_Character|機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
(アニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」公式サイトより引用)

「カッサパ」というガンダムのメカニック。実は…

一目見たらほぼ全ての視聴者の脳裏に焼き付くキャラクターですが、簡単に解説したいと思います。

彼は「ナディ・雪之丞・カッサパ」という立派な名前があるものの、鉄華団の少年たちには「おやっさん」と呼ばれ、親しまれています。

鉄華団の発足からメカニックとして、主人公三日月・オーガスの機体「ガンダム・バルバトス」を含め、様々なメカを整備しています。劇中で、元々専門外であったモビルスーツの整備や、長距離輸送ブースターの操縦など、鉄華団はこのカッサパなしでは活動できない、と言っても過言ではありません。

ちなみにプラモデル「HGガンダムバルバトス&長距離輸送ブースタークタン参型」の説明書にて、カッサパの体臭がきついという情報が記載されています。後にアニメで鉄華団全員が衛生観念の低さから臭いが酷く、特にカッサパは加齢臭も加わってか激臭であるという伏線回収がなされました。

色んな意味で忘れられない濃いキャラクターであるのは、ご理解いただけたと思います(笑)

さて、この「カッサパ」という名前、実は仏教の経典に登場しています。お釈迦様の有名な十大弟子の一人である「カッサパ」です。漢訳経典では「大迦葉(だいかしょう)」「摩訶迦葉(まかかしょう)」となどと表記されます。

「阿頼耶識システム」などと仏教用語が多い「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」ですが、次項でガンダムの「カッサパ」と仏弟子の「カッサパ」の共通点について語りたいと思います。

組織の中の年長者としての「カッサパ」

ご存知のとおり鉄華団は子どもたちの集まりです。

ガンダムシリーズにおいて主人公は大抵16歳くらいの少年です。しかし、所属することになる軍隊は大人たちの集まりであり、そこで発生する主人公とのギャップが主人公自身の成長へと繋がっていくのですが、この「鉄血のオルフェンズ」においては組織のリーダー、オルガ・イツカを始め構成員ほとんどが十代の少年なのです。

元々、大人たちから虐げられていた孤児がほとんどです。タイトルの「オルフェンズ」もそれに由来します。衛生観念は低く、就学経験もないため読み書きもできない子どもたちもいます。

そんな中、ナディ・雪之丞・カッサパは唯一例外と言っていい大人の男です。しかし彼は少年たちを導くことはしません。 あくまでメカニックとして死地に向かう少年たちの縁の下の力持ちに徹するのです。

では、十大弟子の「カッサパ」(摩訶迦葉)はどうでしょうか。

実は”弟子”とは言いますが、お釈迦様より13歳も年上でした。独自に修行を続けており、お釈迦様に出会って弟子入りしたのもだいぶ年がいってからだと伝えられています。しかし、お釈迦様はこのカッサパをいたく信頼していました。お釈迦様の後継者と目された十大弟子の「舎利佛」や「目連」がお釈迦様より先立って死亡したこともあり、お釈迦様の入滅後は後継者として教団で大事な役割を担うことになります。お釈迦様入滅の年が80歳ですから93歳という計算になりますね。

大パリニッバーナ経によると、教団の分裂を危惧したカッサパは「結集」と呼ばれる会議を開きました。そこでお釈迦様の教えや教団のルールを明確に具体的に確認していきます。

このカッサパの行動がなければ、いわゆる「お経」というものは存在しなかったといっても過言ではありません。我々はお釈迦様の教えを知ることすらできなかったし、お寺も存在することはなかったでしょう。

年長者だからこその悲しみとは。メリビットさんとの違い

前項で2人の「カッサパ」の共通点として、組織の中の年長者という点を挙げました。

しかし、「オルフェンズ」視聴者の皆さんは、「おいおい、大人はカッサパのおやっさんだけではないだろう」と突っ込まれるでしょう。

そうです。メリビットさんです。テイワズ社からの出向のような形をとっていますが、あのお姉さんは鉄華団の中では大人です。年齢としては間違いなく20代でしょうが、劇中の描かれ方は常識を持ち合わせた大人のそれです。リーダーのオルガの甘さを叱りつけたりします。

Cursor_と_Character|機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
(アニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」公式サイトより引用)

しかし、同じ大人としてもメリビットさんとカッサパのおやっさんの、子どもたちに対する態度が違います。

ストーリーが進むに連れて、鉄華団の少年兵たちは次々と戦死して行きます。作戦の成功のため、仲間の弔いのため、幼い男の子たちは進んで死地に向かって突っ走っていくのです。

メリビットさんは耐えられません。
「こんなの間違っている」「あなた達にはもっと他に可能性があるはず」と主張します。
団員の命をベットするような作戦を立てるリーダー、オルガに噛みつきます。

元々、命を切り売りして生活していた鉄華団の少年たちと生きてきた環境が違います。彼女がまっとうな意見を言うのは当たり前なのかしれません。現代日本で生きる我々も彼女と同意見を持つでしょう。

自分より年少の者が死んでいく事実。それに対して何もすることすらできない。
メリビットさんは歯がゆく、悲しい思いを積み重ねていきます。

カッサパのおやっさんは、メリビットさんよりさらに年上です。その悲しみはメリビットさんよりきっと大きいに違いありません。

ガンダムシリーズではよく描かれるシーンです。

艦長や指揮官は必然的に経験を積み重ねた年長者が就任します。つまり、年上の人間が一番安全な場所で、年下の若者たちを組織の勝利のため、危険な戦場へ送り出すのです。彼らは「死に損なった」と自嘲気味に笑います。どんどん若者たちを死地に送り、犠牲を出しながら作戦を成功させます、優秀な指揮官として一人孤独に出世していくしかありません。自分が前線にいる若いうちに同期と一緒に死んでいればよかった、という悔恨の苦しみは非常に重くのしかかります。

カッサパのおやっさんはキャリア組ではありませんが、整備士という裏方の立場は同様のものでしょう。

禅僧、一休宗純の言葉の以下のようなものがあります。

祖死父死子死孫死

正月に、縁起のいいことを掛け軸に何か書いて下さい、と乞われ一休が書いた言葉です。
「死」が4つも並び「縁起が悪い」と依頼者は憤慨します。
しかしよく読んでみると────お爺ちゃんが死に、お父さんが死に、子供が死に、孫が死ぬ……つまり年老いたものから順番に亡くなるということ。つまりこれが一番めでたいことである、と一休禅師は言うのです。

一休禅師は問い返します。「この順番が逆の方がいいのかね?」と。
「孫死子死父死祖死」の順番に人が死んでいく戦争というものが、もっとも不幸であると言えるエピソードです。
仏弟子「カッサパ(摩訶迦葉)」の立場になって考えてみましょう。次代を期待された舎利佛や目連も、お釈迦様も自分より年下なのに、先に亡くなってしまいます。

さて、その恒常的に行われる最大の不幸に対してメリビットさんは吠えます。

しかし─────
ここがメリビットさんとカッサパのおやっさんの違いなのでしょう。
おやっさんは何も言いません。作戦行動中、鉄華団の子どもたちを励ましたりはするものの、危険な作戦に対して苦言を呈することはありません。

メカニックという縁の下の力持ちに徹している、と言うこともできます。むしろ、おやっさんは子どもたちよりメリビットさんに優しい言葉をかけてフォローします。

24話より
「ああ。間違ってるさ」(少年たちが次々と死んでいく作戦や戦闘について)

25話より
「死ぬな生きろなんて言葉にしちまえばあっさりしたもんだ。けどよあいつにゃ言えなかった」(オルガの決死の作戦について)

おやっさんはリーダーではありませんし、鉄華団という組織に自主的能動的に影響を与えているわけではありませんが、溢れんばかりの悲しみと優しさがメリビットさんへの労りを通して伝わってくるようです。このフォローのシーンで、おやっさんの渋かっこよさに惚れ直した視聴者も多いことでしょう。

ここでお釈迦様の十大弟子「カッサパ」(摩訶迦葉)に話を戻します。
彼はお釈迦様の後継者という位置づけとして語られます。

しかし、実は先ほど述べたとおり、彼がお釈迦様に弟子入りしたのはかなり後の方で決して古株ではないのです。しかも彼はお釈迦様の死後、葬式を取り仕切り、500人の弟子を集め「結集」を開いた後に、同じく十大弟子の若手の一人阿難に教団を託し、山中へ消えるように去っていきます。

実質、教団の運営をした期間はかなり短いのです。

ここにオルフェンズの「カッサパ」と、仏弟子の「カッサパ」の間に見出すべき重要な共通点がないでしょうか。

まとめ:愛する組織に「カッサパ」は何を残すのか

以上のように、2人の「カッサパ」は決して、組織を能動的に引っ張ることはしませんでした。

十大弟子の「カッサパ」はお釈迦様の教えを教団に残し、去っていきます。

スーパーメカニックの「カッサパ」はまだまだ2期で活躍するでしょう。
しかし、きっとみんなの大好きなおやっさんは、いずれ去っていく。少年たちの方が先に戦死するかもしれません。

人生経験豊かな、悲しみを積み重ねてきた男が、鉄華団に何を残して去っていくのか。
あるいは一人最後に生き残り、苦しみを背負い続けるのでしょうか。そしてどこかの平和な世代の少年に伝えるのでしょうか。

リーダーではない年老いた男たちができることは、リーダーの、あるいはそれに影響された自分の生き様を受け継ぐことなのかもしれません。

オルフェンズは既に述べたとおり、組織の年齢構成が著しく上と下に偏っています。そのため自分は異彩と異臭を放つ大人のおやっさん「カッサパ」に注目せざるを得ませんでした。

「ナディ・雪之丞・カッサパ」という高齢の仏弟子と同じ名を持つ男が、何かを残して去っていくのか。何も残せず死んでいく悲劇が描かれるのか。あるいは生き残って少年たちの生き様を伝える悲しい語り手になるのか。

死んでいく人間の悲しみは、生き残った人間の悲しみを通して描かれる方が鮮烈なのかもしれません。

秋に始まる2期を期待を込めて待ちたいと思います。
渋い「カッサパ」のファンが、本記事を読んで増えることを祈ります。

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