映画放映中「四月は君の嘘」 椿の告白から分かる『愚痴』で苦しむ私たちの姿

実写化され、全国の映画館で放映中の人気漫画「四月は君の嘘」。

そんな「君嘘」では登場人物の心が細やかに表現されています。
今回は前回もご紹介した椿の心の変化にスポットを当て、私たちも日々悩んでいる「愚痴」の心について解説していきます。

澤部椿は、「四月は君の嘘」の主人公・有馬公生の幼なじみ。

活発で明るい女の子で、シリアスな展開も多い「四月は君の嘘」を明るく彩るキャラクターです。
しかしファンの中では評価が分かれており、「嫌い」という読者も一定数いるようです。

どうして椿の評価が分かれるのか?
その原因となっている「愚痴」という心について、椿が心中を告白するシーンを中心に解説していきます。

宮園かをりの出会いによって変わっていく公生

11歳の秋からピアノを弾かなくなってしまい、「ピアノはやめたんだ」と口では言いながらピアノを捨てられない主人公・有馬公生のことを、椿は姉のように心配していました。

椿「公生は?好きなコいないの?美和が言ってたよ、『好きな人といると全部がカラフルに見える』って」

公生「…僕を好きになる人なんかいないよ」

椿「暗い!!目が光ってない!!私達14歳なのよ!!

公生「目は黒いから光らないだろ」

椿「出た!!常識論、何となくわかるでしょ、輝いてないの、思春期なんだからビカーっと!!ビカー!!ビカーっと」

公生「うん、椿の目は輝いている」

そんなある日、クラスメイトの宮園かをりから、幼なじみの渡亮太を紹介してほしいと頼まれた椿は、宮園かをりがヴァイオリンのコンクールに出る日に渡を紹介する日をセッティングします。

3人では気まずくなるからという表向きの理由で公生を誘いましたが、再び音楽の世界に触れることで、公生の止まった心の時間を動かしたい、というのが椿の本心でした。

その後かをりは、公生を自身のコンクールの伴奏者にしたい、と椿に相談。

椿は喜んでかをりと協力し合って公生に伴奏者になることを迫り、最終的に公生はかをりの言葉に胸を打たれ、コンクールに出場。輝く目をしたピアニストへと変わっていきます。

かをりが現れてから苦しむようになる椿

幼なじみの公生が再びピアノの世界に踏み出し、次第に輝きだすのと正反対に、椿はだんだんと自分の中に渦巻く醜い感情に苦しみ始めます

柏木「有馬くんと何かあった?

元気だけが取り柄なのに、昨日今日と、ちょっとらしくないから、椿

目が曇ってる

「暗い!!目が光ってない!!」と公生に言っていた椿が、ある日友人の柏木から「目が曇ってる」と言われてしまうのです

その直後、野球部の元キャプテンで憧れの存在、斉藤先輩に椿は告白されますが、嬉しいはずなのに、何故か心の底から喜べない自分がいることに気づいてしまいました

嬉しいはずの告白を椿が喜べなくなってしまった原因は?

その原因が分かったのは先輩とのデート中のこと。

いつも同じ話だ
椿は有馬君の話ばかりする

先輩のこの言葉で、椿は自分の心に巣食う「公生を宮園かをりに取られたくない」という独占欲に気づきます

やだよ、やだよ、やだよ

わかってる、こんなこと思う資格なんてないってこと

だけど、やっぱりやだ、やなもんはやだ

いつも一緒、いつもそばにいた

嬉しい時、悲しい時も

でもいつの間にか

遠くにいる

私はそばにいない

他の誰かがいるーーー

やだよ、私を見て

私を見てよ

そんな目で

誰かを見ないで

急激にかをりとの距離を縮め、ピアノを弾くようになり、目が輝きだした公生。

「こんなこと思う資格なんてない」と頭では分かっていても、公生とかをりの絆を感じるたびに吹き上がってくるイヤな心…そのドロドロした気持ちに、椿は苦しみます

これは仏教で「愚痴」と言われる心です。

愚痴というと、「あの人は愚痴っぽい」というように、不平不満をこぼす意味で日常使いますが、本当は仏教で「ねたみ、そねみ、うらみ」の嫉妬心のことを愚痴といいます。

椿を悩ませ、苦しめ、輝いていた彼女の瞳を曇らせてしまったのも、この愚痴の心でした。

“公生を独占したい”心が邪魔されて起こってきた愚痴

幼い頃からずっと一緒だった公生に、気づかないうちに恋心を抱いていた椿。

いつも隣にいた密かな想い人である公生を取られたくないという独占欲を邪魔されたとき、椿の心に激しく吹き上がってきたのが愚痴の心だったのです

独占欲や承認欲求など、私たちには様々な「」の心があります。

そんな欲が妨げられたとき、出てくるのが「怒り」の心。

取り置きしていたお気に入りのプリンを家族に間違って食べられてしまったときにムカッとするのは、「食欲」が妨げられて出てくる怒りによるものです。

椿も、公生を一人占めできる「独占欲」が満たされなくなり、怒りの心が出てくるはずでした。

しかし椿の場合、斉藤先輩と付き合っている以上、公生とかをりが結ばれてしまっても怒る資格がないし、クラシックの演奏家である宮園かをりと公生が盛り上がる共通の世界には入り込む余地がありません。

このように欲が妨げられて怒りたくても、怒ることができない相手に対し起こってくるのが愚痴の心なのです

「私ってこんなイヤな女だったかな」愚痴の心に直面し戸惑う椿

宮園かをりはある時、自宅で倒れ緊急入院します。
見舞いに行った公生は、かをりから病状が悪いことを打ち明けられました。

ピアノを弾く意義を宮園かをりという存在に見出し始めていた公生は絶望のどん底に。

学校に登校しても机に顔をうつ伏せたままの公生に、椿は心配して声をかけます。

椿「公生、具合でも悪いの?」

公生「平気」

椿「平気そうじゃないから言ってんの、最近元気ないじゃない

かをちゃんのお見舞いでも行こっか、ここんとこみんなで行けてないじゃない」

公生「僕、行かない」

椿「…そう」

このときの真意を、心を許せる友人である柏木との会話で、椿はこのように吐露しています。

椿「…ホントはね、行かないで欲しいなーって思うの
不安だしイライラする、イヤミとか言いたくなるし

何話してるか盗聴したくなっちゃう」

『行かない』って言ったとき、ほっとした自分がいる

罪悪感でいっぱい

私ってこんなイヤな女だったかな

いくつもの知らない自分を発見してーーー

いくつもの知らない自分と向き合う。

それも たぶん

恋をするってことなのかな

大切な友達のかをちゃんは病気で入院しているというのに、かをちゃんの見舞いに行かないと言った想い人・公生の言葉にホッとした、つまり嬉しいと思ってしまった。

「私ってこんなイヤな女だったかな」という椿の思いは、まさに自分の中に吹きすさぶ愚痴の心に直面した苦しみでしょう

想い人が会いに行きたいであろう相手は、想い人が自分より好意を持っている女。

「かをちゃんのお見舞いでも行こっか」と表面上は言っていても、本音は何を話してるか盗聴したくなるくらい、二人が仲良くしているのを疎ましく思う心が吹き上がってくる。

こんな醜い愚痴の心はとても好きな公生の前では出せないから、柏木に言われるまで椿はひた隠しにしていたのでした

「椿は嫌い」な読者も愚痴の心の恐ろしさを感じている

冒頭でご紹介したように、椿は明るいキャラクターがファンに愛される一方、「嫌い」という読者の声もネット上で見受けられます。

おそらく嫌悪感を感じてしまう方がいらっしゃるのは、本当は椿の人となりではなく、椿が吐露した、私たちにもある愚痴の心の醜さではなのではないでしょうか

現実世界に生きる私たちも、椿のように自分が好きな相手が他の人と距離を縮めているのを見たとき、仕事で同期が自分より出世スピードが速いとき、どうしても他人をねたみ、そねむ、イヤ~な心が起こってくるときがあります。

しかし周りの人を妬み、嫉んでいるばかりでは、向上もできず何も現状は変わりません

椿は自分の中に渦巻く愚痴の心に苦しみながらも次第に向き合います。

そして公生の近くにいるため、公生の志望校近くにあるレベルの高い高校に合格しようと、苦手だった勉強に打ち込みます。

周囲が妬ましくて愚痴の心が吹き上がってくるとき、ついつい私たちは「グチグチ」してしまいますが、椿のように自己を向上させる方向に努力できるようになりたいものですね