ついに六つ子の「抱き枕カバー」まで発売、売り切れ続出となっている「おそ松さん」。
その爆発的人気はおさまる気配がなく、3月8日から始まったファミリーマートの「おそ松さん」キャンペーン第2弾ではキャンペーン初日の朝からファンが殺到し、ニュースにもなっていました。
そんな社会現象にもなっている、大人気アニメ「おそ松さん」から学べることについて、今回もお伝えしていきます。
シリーズ第1回はこちら↓(この記事だけでも読めます)
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いきなりですが「煩悩」と言われたら皆さんは何を想像しますか?
「煩悩」というのは仏教の言葉で、人間を煩わせ悩ませる心のことです。その煩悩の数は全部で108個。108で思いつくものといえば、大晦日の夜に除夜の鐘を叩く回数ですね。除夜の鐘を108回叩くのは、この煩悩の数からきています。
除夜の鐘と煩悩についての記事はこちら↓
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そして108個の中でも代表的な煩悩が、「欲」の心です。
「欲」の本質がよ~く分かるアニメ「おそ松さん」
「おそ松さん」第7話の「トド松と5人の悪魔」は、トド松がスタバァコォヒィーで働くお話。「スタバァ回」とも言われ、ニコニコ動画では100万再生を超えたほどの大人気エピソードです。
しかし実はこの話、人間の「欲」の心の本質がよ~く分かる展開になっています。
兄たちに黙って、スタバァコォヒィーでバイトを始めた末っ子トド松。
持ち前のコミュニケーション力で人間関係もスムーズに築き、バイト仲間からは「トッティ」という愛称で呼ばれるように。
そんなある日トド松は、バイト仲間の女の子に合コンに誘われます。
「ま、気が向いたらね。」
と素っ気無い返事をしていたトド松ですが、控え室に戻って一人きりになると・・・
「やったよ・・・ついにここまできた・・・!!
バイトを始めて苦節数週間・・・!!ついに同僚の女の子から合コンに誘われるまで地位を上げた・・・!!
もうニートでも!同世代カースト圧倒的最底辺でもない!
僕は!!!ワンランク上の人間になれたんだああああああああああ!!」
・・・このときの僕は、本気でそう思っていたんだ・・・
・・・馬鹿だよね、嬉しさのあまり、つい、自分の持つ宿命を忘れていた・・・
絶対に逃げられない、地獄の足枷・・・
この・・・悪魔たちの存在を・・・
机の上に乗りガッツポーズをし、滝のように涙を流して喜ぶトド松。女性経験がなく、ニートだったトド松にとってオシャレな喫茶店で働き、異性から合コンに誘われたことは最高の栄誉でした。
しかしこのシーン、彼の心の内を描写した部分をよく見ると、他の兄弟たちがダメニートの典型のように描かれています。
実は「地獄の足枷」「悪魔たち」とトド松が心の中で呼んでいたのは、この5人の兄たちのことだったのです。
合コンに誘われたその日に、トド松にとっての「悪魔たち」である5人の兄が、偶然にもスタバァコォヒィーに来てしまいます。
トド松「お願いします!!帰ってください!!」
チョロ松「いや~あの・・・どういうこと?状況がまったく掴めないんだけど・・・てかトド松、ここでバイトしてたの?」
トド松「いいから帰ってええええ!!!!お願いお願いお願い!!!!!!」
おそ松「なに?俺たち店に入っちゃダメなの?」
トド松「ダメ!!!」
おそ松「なんで?!」
トド松「・・・分かった、正直に言うよ。
僕は・・・兄さんたちの存在が恥ずかしい!
見て、ここスタバァだよ?!みんな天上人、兄さんたちとは月とスッポンの差がある、
いや、天使とウンコか。
僕はここで働き、やっと地位を手に入れたんだ!
なのに!ウンコな兄弟がいるってバレたら水の泡だろ!!
・・・ごめん。
ホントは言いたくなかった・・・」
おそ松「ま、まあでも・・・気持ちは分からなくもない。
あれだろ?授業参観の日に母さんが来たら一人だけすげー浮いてたみたいな!」
トド松「あーちょっと違う。
例えるなら、全校集会で校長に黄ばんだパンツを晒された気分だ。」
チョロ松「おまえ俺たちのこと何だと思ってる!?」
毎日6人並んで同じ布団に寝ている仲良し兄弟に、ゴミのように思われていたとは予想もしなかった兄たちは大きなショックを受けます。
トド松の言葉が矢となり、兄たちに突き刺さる様子が描かれていて、おそ松の頭からは血が噴き出し、十四松は白目をむいて倒れ痙攣しています。
全員ニートで、毎日家でゴロゴロしたり、パチンコばかりしていたりする兄たちをどうしても同僚の女の子に知られたくないトド松。正直かつ残酷な本音を暴露し、何とかして兄たちを追い払おうとしたのです。
結局、騒ぎを聞きつけた女性店員たちがやってきて、5人の兄がいることがバレてしまったトド松は兄たちを早く追い出そうと奮闘します。
その様子がテンポの良い展開で描かれたこのお話は、数々の名シーンを生み出し、非常に高い人気があります。
しかし実はこの話、トド松を突き動かしている心を見つめていくと、「欲」の心の深い本質が分かってきます。
トド松を突き動かしていた「欲」の心の本質
スタバァ回でトド松は社会的地位やバイト仲間の女性の前での面子を死守するため、必死に兄たちを追い出そうとします。
これは欲の中でも「名誉欲」を満たそうとしている行動です。
名誉欲とは、名誉が欲しいという心であり、
「ほめられたい」
「注目されたい」
「有能だと思われたい」
「カワイイと思われたい」
というような、誰にでもある心。
名誉欲があるから私たちは、朝頑張って起きて仕事に間に合うよう家を出ます。
家を出る前に寝癖がないか鏡を見ますし、女性なら早起きしてでもメイクの時間を確保します。有能だと思われたいので仕事も真面目にやります。
私たちは毎日名誉欲に突き動かれて生きているのです。欲があるからこそ、よく思われたいと思うからこそ、努力することができます。
しかし、この「欲」の心には、ある大きな恐ろしい特徴があるのです。
欲の本性は「我利我利」
欲の心の本性は「我利我利(がりがり)」といわれます。
「我利我利」とは「我=私」だけが、「利=利益」を得ようとするという意味で、自分さえよければ他人はどうなってもよいという心のことです。
本性は普段は隠れているけれど、切羽詰ったときに出てくる本心のことです。
トド松の場合もよくよくこの話を見ていると「自分だけが注目されたい、モテたい。」という心が根底にあることが分かります。
ニートの兄たちは名誉欲を妨げる「地獄の足枷」「悪魔たち」としか思えないのです。
女の子にこんな醜い本性を見せたら嫌われてしまうので、5人の兄の存在を知られてしまったトド松は、仕方なく兄たちを店内に入れました。
しかし兄のカラ松の頭にメニュー板を投げつけて大出血、失神させたり、トイレの前に席を無理矢理作り、兄たちを押しこめたり、大量の殺虫剤を吹きかけたりと、虫同然の扱いをしています。
そんなトド松は兄たちから「ドライモンスターめ…!!完全に俺たちのこと切り捨てる気だな・・・」と本心を見抜かれていました。
欲の心を満たすため、兄たちを追い出そうとするトド松はこの後、悲惨な事態に追い込まれていきます。
もし私たちがトド松と同じ立場だったら?
自分の面子を保つためのこのような行動からか、トド松は「あざトッティ」とファンの間で呼ばれることがあります。
しかし私たちも、もしトド松と同じ立場だったらニートの兄たちのことをどう思うでしょう。トド松と同じように、疎ましく思ってしまうのが現実ではないでしょうか?
毎日朝から晩まで「欲」を満たすことばかり考えているのが私たち。
トド松のように邪魔だと思う人間に板を投げたり、ゴキジェットを吹きかけたりはしなくても心の中では毎日、自分の欲を満たす邪魔をする人を
「自分さえよければ」
という欲の心で、切り刻んではいないでしょうか。
第二次世界大戦の終わりごろ、こんな恐ろしいこともあったそうです。
撃沈された日本の輸送船に乗っていた兵士たちが救命ボートめがけて殺到。先に救命ボートに乗れた兵士たちが周りを見ると、多くの仲間たちがオレも助けてくれとボートにしがみついてきます。
これ以上乗ったらボートは沈没してしまう。
追い詰められた兵士たちはボートにしがみつく仲間たちの手首を片っ端から切り落とし、海に沈めていったのです。
さるべき業縁の催せば、如何なる振舞もすべし(歎異抄)
という仏教の言葉もあります。縁(環境)がきたならば、どんな恐ろしいことでもやってしまうのが私たちであり、いざ命の危機に瀕したら、「自分さえ助かれば後の人間はどうなっても良い」という本性が現れてくるのが人間なのです。
先日NHKで放送されていた「新・映像の世紀」では戦後、世界で起きていた戦争の様子が映像で生々しく伝えられていましたが、このような惨劇は昔の話ではなく、現代も世界の各地で繰り返されていることが分かります。
私たちの心に秘めた本性をトド松は体現してくれている?
日常生活では、自分の欲を優先した行動ばかりをしていると、「あいつは自己中だ」と思われてしまいます。ですから私たちは、自分の欲の邪魔をするムカつく相手がいてもトド松のようなことはしません。
しかし仮に相手が記憶喪失になる薬があれば、一度はやってみたくなるのではないでしょうか?
トド松がファンに「あざトッティ」と言われながらも愛されているのは、普段私たちができない心の奥底で秘めている心を、正直にそのまま現してくれるからかもしれませんね。
縁がくれば欲のためにどんな恐ろしいこともしてしまうのが人間。「おそ松さん」の六つ子たちは、いろんなエピソードで「欲」の本性をよ~く分かるように教えてくれます。
次回は他のエピソードを通じて、引き続き「欲」の本質を見ていきたいと思います。