結婚相手の条件は年収?『東京タラレバ娘』から知る、愛で超えられない結婚の現実問題

東村アキコさんにより講談社「kiss」で連載中の『東京タラレバ娘』。

累計発行部数は330万部を超え、今年ドラマ化しさらに知名度が広がっている作品です。

『東京タラレバ娘』で描かれているのは、残酷なほどにリアルなアラサー女子たちの苦しみ。

アラサー独身女子に降りかかる苦しみには共感する読者も多いのですが、何よりえげつないのは耳を覆いたくなるくらい正論な指摘をズケズケ言ってくる「タラ」と「レバ」の存在でしょう。

可愛いのは見た目だけで、口を開けば嫌味なことばかり言う、謎のマスコットキャラクター。

二人(?)はストーリの要所要所で現れてはタラレバ娘、そして読者の心をグリグリ抉ってきます。

そんなタラとレバは最初、主人公の倫子が酔っ払ったときにしか見えない幻のような存在でしたが、他のタラレバ娘たちにも降りかかる苦しみとともにその姿が見えるようになっていきます。

今回は主人公の高校時代からの親友・がはじめて「タラ」と「レバ」を目撃する回「ACT6  回転寿司女」をご紹介。

辛辣なタラとレバのセリフから分かる、私たちを幸せから遠ざける心の正体について解説します。

元カレが売れっ子ミュージシャンに!一躍有名人となった元カレと幸せになれるはずが…

出会いがないとボヤき続けて

早10年

例えばこんな風に

季節の

おすすめのネタみたいに

私におすすめのいい男が

皿に乗って

回ってくればいいのに

そしたらその中で一番年収が高い男を選ぶのに

タラレバ娘3人たちの中で一番美人で、スタイルもイイ香。

何故かこの数年、何の出会いもない状態でした。

あるとき、ひょんなことから人気バンドのライヴを鑑賞させてもらえることになった倫子、香、小雪の3人。

若者だらけの会場にスタンディングで鑑賞する元気もなかった香ですが、ステージの上のギタリストを見た瞬間立ち上がり舞台を覗き込みます。

皿がもう一回 回ってきた

何だっけ名前が変わる魚…しゅ…出世魚!!

ステージの上にいたのはなんと、10年前に別れたバンドマンの彼氏・涼でした。

楽屋で感動の再会を果たした二人はイイ雰囲気に見えたのですが、そこに美しい女性が現れます。

いま涼が交際中の人気モデルでした。

取り逃がした皿は次の人が取る

そんな簡単なこともわかっていなかった私

私のレーンにはもう皿が乗っていない

「タラ」と「レバ」が見抜いた、結婚相手の条件

涼ちゃんとは 結局5年付き合って別れた

売れないバンドマンだった彼とは

結婚なんて考えられなかった

経済力ゼロの夢追い人を

健気に支える女には

なれなかった

もし涼ちゃんが音楽で成功していたら

若いうちに売れっ子になってれば

私多分結婚してたのに

涼と再会する前、香は涼と付き合っていた頃を思い出していました。

売れないバンドマンだったことを理由に結婚相手として涼を見ることはできず、結局別れてしまった香。

10年後ステージの上で人気ミュージシャンとして活躍する涼を見て、まるで回転寿司で取り逃がした皿がもう一度回ってきたように、自分に有名人との結婚という幸せが舞い込んできたと思います。

しかし既に涼には同じ芸能人の彼女がいました。

「取り逃がした皿は次の人が取る」という現実を突きつけられ、愕然とする香の前に現れたのは動くタラとレバ。

タラ&レバは可愛い見た目でえげつないことを言い出します。

思い知ったか

このやろう

売れないからって彼を捨てたくせに

ハイ 売れたら

またヨリ戻そうなんて甘いレバ!!

おまえは

彼がステージでかっこよくギターをつまびくさまを見て

あわよくばもう一度と思ったんだろうけども

ちゃんちゃらおかしいレバ

現実を突きつけられ、思わず香は否定します。

「違うっ、そんなこと思ってないっ」

「いいタラか香さん、現実の時間の流れはこの回転寿司のレーンとは違うんタラ

時間の流れは一方向、回転なんてしないんタラ

毎日毎時間一分一秒、あなた達は歳を取っていくんタラ

レーンは一方向に進む

時間(とき)は絶対に巻き戻らないんタラ」

「じゃあ…あの先には何があるの?」

「さあ、何があると思う?」

しかしこの後の香の答えに、香のホンネが表れているとタラとレバは指摘します。

香「…若い頃には手に入れられなかった…

落ち着いた愛とか…安定した生活とか…

タラ「おまえの言ってる『安定』って何タラ?

香「えっ…」

レバ「当ててやろうか」

タラ「金と名声タラ

結局おまえは男を社会的地位で判断する女なんだっタラ

「現実」的な結婚を考えると社会的地位は外せない?香だけじゃないオトナの事情

涼ちゃんと一緒に暮らし始めて

しばらくは

毎日毎日楽しくて

はしゃいでた

お金がなくても平気だった

愛さえあれば何でも乗り越えられるし

涼ちゃんが愛のパワーで素晴らしい曲を作って

武道館を満員にする日が来ると信じてた

涼と付き合い始めた頃を香はこのように思い出しています。

「愛さえあれば何でも乗り越えられる」

という思いで貧しい何もない生活でも、未来を夢見て頑張っていました。

しかし交際して数年、相手のイヤなところも見え隠れする頃。

結婚という「現実」的な問題が見え、香の心に変化が訪れます。

でも何年たっても彼は売れないバンドマンのまま

そして勤めてたネイルサロンの同じビルに入ってた

小さな美容整形外科の

医者に目移りして

なんとなくご飯行って

慣れないワインで酔っ払って

まあそういうことになって

そんで携帯見られて

それでジ・エンド

売れないままだった涼から医者に目移りし、二人とも関係が続かなかった香は典型的な「社会的地位」で男を判断する女でした。

その価値観故に、自業自得でこういう目に合っているように見えます。

しかし社会的地位が高い男と結婚すれば、経済的にも安定して将来の不安も少ないし、体裁もよいでしょう。

親や兄弟を安心させることだってできます。

社会的地位の高い男に浮気というケースまではいかなくても、相手の社会的地位は結婚を考えたことのある人にとって、一度は頭をよぎることではないでしょうか。

香が直面した「社会的地位」を求める姿は万人共通の人間の実態

このエピソードの最後はこう締めくくられています。

時間(とき)は巻き戻せない

私達の乗ったレーンは一方向に進み続ける

最後のページに描かれた、回転寿司の皿の上に載せられた香や倫子たちの姿を描いたシーンはとても残酷です。

しかし香たち女子も「若さ」「可愛さ」というような男性が無意識に設けてしまう基準で、レーンの上の回転寿司のように見られている訳です。

表す意味は違いますが、ニーチェの「お前が深淵を覗くとき、深淵もまたお前を覗いているのだ」ならぬ、「女子が男を社会的地位で見るとき、男もまた女子を若さや可愛さで見ているのだ」という感じでしょうか。

実際婚活パーティーやお見合い相談所に行くと、こういった「結婚相手として考えられる現実的なライン」を全く持たない人はいないように思われます。

女性の社会的進出が進んでいる今、もしかしたら男性だけでなく私たち女性も「年収」で判断される未来がくるかもしれませんよね(笑)

結婚に限らず、社会的地位や若さといったカッコよさを求める心や、やりくりの苦しい今の生活を変えたいという金銭欲は人間が離れることのできない心だと仏教哲学では教えられています。

長江を眺めながら、ある時代の中国の皇帝が側の宰相とこんな会話をしたというエピソードがあります。

「一日にこの長江を往来する船は、何百隻あると思うか」

「はい天子様。二隻でございます

「馬鹿者、いま見えるだけでも何十隻もあるのに、二隻はおかしい」

長江を行き交うたくさんの船は、長江を持つ中国を治めていた皇帝にとって自分の権力の象徴でしょう。

それを二隻しかないと言われ、思わず怒った皇帝を宰相はこう諌めます。

「多くの船が動いているように見えますが 、その目的は地位や名誉を得るためか、利益を得るために行き交う以外はございません。

だから二隻だと申し上げたのでございます。」

社会的地位や金銭的自由を求める人間の実態は大昔の中国でも現代の日本でも変わらないでしょう。

短いですが、人間の普遍的な姿を的確に表現しているエピソードですね。

香の苦悩を見て分かるように、二隻に象徴される社会的地位やお金を求める心を、仏教で「煩悩」と言われます

「煩わせ」「悩ませる」という字の通り、私たちは煩悩によって苦しみ続けてきました。

しかし仏教には「煩悩即菩提」という言葉もあります。

煩悩で苦しむ私たち人間が、その煩悩を持ったままで「菩提」つまり幸せになるという意味で、そんな幸せ者になるための道が仏教には説かれているのです。

現役「タラレバ娘」である筆者は、まだまだ学びながらの身ですが、少しずつ皆さまにもお伝えできたらいいなと思います。