「読むと屍になるホラー」
と言われるのは、「このマンガがすごい!2015」オンナ編で2位に輝いた話題作、東村アキコさん作の『東京タラレバ娘』です。
独身、彼氏ナシ、女子会中毒の33歳倫子を襲う悲劇を生々しく描いたこの作品は、全国のアラサー独身女性を震え上がらせながら、大重版を重ねています。
そんな「東京タラレバ娘」のヒロイン・鎌田倫子は不幸だらけの人生を歩んでいます。
どうして幸せになれないのでしょうか?
その理由を、前回に引き続き仏教の視点から解説していきます。
※前回記事はこちら(この記事だけでも読めます)
[blogcard url=”https://20buddhism.net/tokyo-tarareba-girl/”]ハニートーストのように崩れていく、アラサー独身女子、倫子の幸せ
AD時代の同僚・早坂に派手に失恋した倫子は、浴びるようにヤケ酒をあおり、女子会仲間の香、小雪と大声で失恋相手の悪口を話して、ウサバラシをしていました。
そこへ居酒屋の常連である金髪の男が
「オレに言わせりゃあんたらのソレは女子会じゃなくてただの・・・行き遅れ女の井戸端会議だろ
そうやって一生、女同士で、タラレバつまみに酒飲んでろよ!
このタラレバ女!!」
と言い捨てに来ます。
落ち込んでいる倫子に、まさに泣きっ面に蜂な発言を浴びせた金髪の男は、KEYという若い世代に人気のモデル。
この後も何度も倫子と遭遇し、そのたびに倫子に嫌味を言います。
さて、倫子が失恋した相手である早坂の想い人・マミちゃんには、既に高校生の彼氏がいることが分かりました。
これで早坂も好きな人にフられて苦しむはず!
そう思った倫子たちは女子会をまた開き
倫子「ザマアミロォォォォォォォォ」
小雪「ホントざま見ろだよねそのロリコン男」
倫子「そうだよ、てゆーか19歳の髪の毛半分ピンクの原宿ファッションにいきなり結婚前提で告るなんて、おかしいでしょ」
香「若いってだけでハアハアしてる30代男は全員爆死すればいいさ!」
と言いたい放題愚痴を吐き、ウサバラシ。
しかしマミちゃんは、なんと早坂の許可を得た上で、二人同時に付き合い始めたのです。
決して褒められた話ではありませんが、柔軟なマミちゃんの選択を知って「自分も10年前とりあえず早坂と付き合っておけば良かった・・・」と倫子は後悔しますが、後の祭り。
さらに倫子が仕事で手がけるネットドラマ用の脚本に、俳優候補としてプロデューサーに呼ばれたKEYは
「あまりにもご都合主義でおめでたい内容」
「あまりにもリアリティがなさすぎる」
と酷い評価を下し、倫子の脚本によるドラマに出ることを拒否してしまいます。
居酒屋で罵られただけでなく、仕事の邪魔までされた倫子はKEYに憤慨しますが、結局、倫子はそのドラマの仕事自体を降ろされてしまいました。
そんな倫子は、今度はカラオケで女子会。
熱唱したあと、店員が運んできたハニートーストを眺め、倫子はこう思います。
どうして 私何も悪いことしてない
33歳の誕生日から
全てが上手くいかない恋も仕事も
20代の頃と何かが違う思ったより早く崩れていく
まるでこのハニートーストみたいに(東京タラレバ娘 第1巻ACT3「ハニートースト女」)
倫子の発言に隠れている「タラレバ女」が幸せになれない理由
倫子は恋愛の失敗に加えて、仕事も降ろされてしまい、自暴自棄になっていきます。
仕事に自分磨きに、一生懸命頑張っているはずの倫子が幸せになれない理由は何なのか。
この後の倫子の言動を見ていくと、その原因が分かってきます。
倫子が仕事を降ろされた後、新たに決まった脚本家は22歳でグラビアアイドル上がり。
さらに、プロデューサーに枕営業をしていました。
若い女に枕営業で仕事を奪われた倫子は怒り心頭。
箱根に向かったプロデューサーと脚本家の女をタクシーで尾行、二人が旅館に入るところを盗撮しました。
証拠は抑えたものの、タクシー代を3万円も払って箱根まで来た以上、そのまま帰るのも勿体無いので、高級旅館に1人で宿泊することに。
温泉に浸かりながら、自分から仕事を奪った女を思い出し倫子は、ぼやき始めます。
もしかしてあのコも若々しくていい脚本書けるのかな。
私にはない感覚で、若い娘ならではの視点で、あいつ(KEY)が納得するような、ダサくない脚本を
最初は、自分の脚本に足りない良さが、仕事を奪っていった若い女にあったのかもしれない、と倫子は冷静に分析していました。
ところが…。
…いやそもそも…
アイツ(KEY)があたしの脚本にケチつけたから
あの枕女の入り込むスキができてしまったわけで…そうよ全ては、あの金髪クソモデルのせいよ
あいつが元凶!!ふっざけんなマジで!!
あんなやつ…
あんなやつ絶対売れるか!!!
つーか潰れろ!!消えろ!!干されろ!!!
「あいつが元凶!!」という思考が私たちを不幸にする
倫子のキレっぷり、すごいですね…。
温泉に入ってまもなくのとき、倫子は
「若い女の脚本には自分に無い良さがあったのかも」と冷静に考えていました。
しかし、KEYから受けた仕打ちを思い出すうちに
「アイツがあたしの脚本にケチつけたから」
「全ては、あの金髪クソモデルのせいよ」
「あいつが元凶!!」
と、全てはKEYのせいだと断言。
「自分の脚本に何か足りない要素があるのでは」と反省する気持ちはすっかり吹き飛んでします。
自分のことは棚に上げて、自分の苦境は全てKEYや若い脚本家の女のせいだと思っているのです。
仏教に「因果応報」という思想があります。
一般にも使われているので、聞いたことある方もいるでしょう。
因果応報とは、
原因に応じた結果が返ってくる、
今の結果は、あなた自身の行為が生み出したもの、ということです。
今が幸せなら、それは過去に善い行為をしてきたからであり、
反対に、今が苦しいのは、あなたが過去に悪い行為をやってきたからだ、今が苦しいのは悪い行為の報いなのだよ、と仏教は説きます。
そうすると、自分のことを棚上げし「私がこんなに苦しいのはアイツのせい!」という倫子の考えは、まさに因果応報の真逆の考えです。
自分の不幸を人のせいにしても、現状はまったく変わらないですし、むしろ、ますます不幸になってしまいます。
自分の不幸を人のせいにして、相手の不幸すら願う、という倫子のような思考回路では、とても幸せになれません。
幸せになりたければ自分の行いを変えていくしかないのです。
「私何も悪いことしてない」は本当なのか
倫子の脚本は
「アラサー女性が、年上の金持ち男と若いカフェ店員両方に言い寄られる」話や、「イケメンIT社長とアラサー女子が結ばれる」話など、ご都合主義なお話が多いようです。
友人の香からも
つーか毎回倫子の願望丸出しだよね
と言われています。
KEYの発言や若い女脚本家の行動は確かに酷く、恨む気持ちは分かりますが、倫子の仕事も改善できるところはあったのです。
しかし全てはKEYのせいだと決め込んだ倫子はヤケクソになり、前後不覚になるほど泥酔。
このままでは酔った勢いで窓から飛び降りそうだと聞いたKEYが旅館へ駆けつけるも、倫子は自暴自棄になっており、仕事を辞めると叫びます。
「あの女みたいな枕営業なんて汚いことはやりたくないから脚本家を辞める!!」と言い出した倫子にKEYは
「何を乙女ぶってんだよ、33のおばさんが」
「少女漫画脳の乙女チックババアの書いた脚本なんて面白いわけない」
挑発的な態度で倫子をさらにけなします。
KEYの酷い発言にさらに怒り狂い、理性が吹っ飛んだ倫子は、勢いでKEYと寝てしまいました。
倫子はその後、仕事は望み通りにいかないまま、結局この夜のことがきっかけで恋もさらに泥沼にハマっていきます。
倫子の行動とその結果を見ていると、不幸で苦しんでいる人の真の原因は本人にあるということがよく分かりますが、人間、自分のことはなかなか分からないもの。
苦しくて苦しくて仕方ないときは、どうしても他人や周囲の環境のせいにしてしまいがちです。
でもそれでは、いつまで経っても私たちは幸せになれない「タラレバ娘」のまま。
苦境のときこそ、他人や環境のせいにしたい気持ちをガマンし、自分の行いを変えられないかを意識し、未来の自分を幸せにできるようになりたいものですね。