実写ドラマ化した『東京タラレバ娘』。
原作は東村アキコさんにより講談社「kiss」で連載中の漫画で、昨年2016年には『このマンガがすごい!』オンナ編で第2位を獲得、累計発行部数は330万部を突破しました。
「読んでいて辛い」という感想は多いのに幅広く愛されているのは、タラレバ娘の苦しみが手に取るようにわかる方が多いからではないでしょうか。
このコラムではそんな『東京タラレバ娘』で描かれる受け入れたくないほどリアルな女子の姿から、現代に生きる女性が幸せになれるヒントを探ります。
(参考)「『東京タラレバ娘』からの仏教」第1回(この記事だけでも読めます)
こんなに「愚痴」だらけの漫画があっていいのか!?『東京タラレバ娘』あらすじ
「ザマアミロォォォォォォォォ」
「フラれろフラれろ、ブルガリの指輪で盛大にフラれろ~!」
「ホントざま見ろだよねそのロリコン男」
「若いってだけでハアハアしてる30代男は全員爆死すればいいさ!」
『東京タラレバ娘』を読み始めた読者が最初に圧倒されるのは「愚痴」シーンかも…
と思ってしまいそうなくらい、この漫画は外見は可愛い女性たちが凄まじい「愚痴」を吐き散らす場面が至る所に出てきます。
第1話で派手に失恋した主人公・倫子と女子会仲間の親友、香と小雪。
ヤケ酒をあおりながら大声で愚痴りまくる3人に喝を入れたのが、物語の鍵を握る、その名もKEYという男でした。
「いいかげん、うるさいよ、こないだから。
オレはこの店の雰囲気が好きだからここに通ってんだよ
あんたらのソレは女子会じゃなくて
ただの・・・行き遅れ女の井戸端会議だろ
そうやって一生、女同士で、タラレバつまみに酒飲んでろよ!
このタラレバ女!!」
未婚女子に向かって「行き遅れ女の井戸端会議」は失礼ですが、実際倫子たちが周囲も気にせず大声で愚痴を喚いていたのは結構周りに迷惑だったようです。
倫子自身も
ここ数年の私達は
女子会と称して酒ばっか飲んで
出会いがないとか
いい男がいないとか
愚痴ばっかり言って
つまんない男と結婚した同級生を憐んで
合コンばっかりやってる若い女の子をバカにして
と自身が女子会で愚痴ばかり言っていたことを認めています。
不幸の要因は愚痴?「愚痴」の本当の意味とは
愚痴を漏らしても状況は変わりません。
腹が立つ相手のことを本人がいない場でも言うことで、さらに怒りや不満が増幅していくこともあります。
『東京タラレバ娘』には愚痴ばかり言うアラサー女子がどんどん不幸になっていく過程が生々しく描かれています。
「愚痴」の由来は仏教用語です。
仏教では私たちの持つ妬みや恨みの心を「愚痴」といわれ、「煩悩」の一つと教えられます。
「煩悩」は日本人には馴染みのある言葉かと思いますが、除夜の鐘を突く数で知られているように、どんな人にも108あると仏教では教えられます。
そして「煩わせ」「悩ませる」という漢字の通り、私たちを死ぬまで苦しませるものが煩悩です。
そして煩悩のうち、最も人間を苦しませる心の一つが「愚痴」の心。
妬み・恨みの心である愚痴で私たちが苦しむのはなぜか。
『東京タラレバ娘』にはその愚痴の特徴がわかりやすく表現されています。
特徴①「不幸を他人のせいにする」
倫子はどんどん苦しみが増すばかりで仕事もうまくいかなくなり、最終的に若い女脚本家に枕営業で仕事を奪われてしまいます。
その後箱根で温泉に浸かりながらも、出てくるのは愚痴の心ばかり。
「…いやそもそも…
アイツ(KEY)があたしの脚本にケチつけたから
あの枕女の入り込むスキができてしまったわけで…そうよ
全ては、あの金髪クソモデルのせいよ
あいつが元凶!!
ふっざけんなマジで!!
あんなやつ…
あんなやつ絶対売れるか!!!
つーか潰れろ!!消えろ!!干されろ!!!」
この倫子の発言からわかるように、愚痴の心は自分の不幸が他人のせいだと思い込んでしまうところに恐ろしさがあります。
本当は倫子の仕事ぶりも、枕営業ごときに負けてしまうような至らぬところがあったかもしれません。
しかし仕事を奪われた倫子は心の中は「愚痴」でいっぱい。どう考えてもKEYや枕営業の女のせいで、自分が不幸になっているとしか思えないのです。
こんな心では反省や向上はなく、周りへのうらみでどんどんストレスは溜まっていくばかりでしょう。
特徴②「他人の幸福が許せない」
上手く行かなくなった仕事から逃げるかのように、倫子は映画バーの経営者と付き合いはじめます。
しかし価値観が合わずに別れ不幸のドン底の中、倫子は占いにすがります。
占い師に言われたことがきっかけで口論になってしまった倫子たち。
「不倫相手のためにコトコトビーフシチュー煮込んでるような女にあれこれ言われたくないな」
思わず言ってはならないことを倫子は小雪に言ってしまい、決裂。
最悪だ
男にフラれたら酒飲みたくなるけど
女友達とのケンカはなぜか酒飲む気にすらなれない
ああ下手打った
自分が幸せじゃないからって友達まで巻き込んで
そんな私は最低のドロドロ女
どんな辛いことがあっても仲良しだったはずの親友を引き裂いたのも愚痴の心。破局し愛してくれる存在がいなくなった倫子にとって、不倫相手でも仲睦まじい小雪は自分より幸せそうにみえたでしょう。
そんな「他人の幸せ」が許せないという心が愚痴なのです。
しかし小雪はその後、不倫相手と約束していた旅行予定をドタキャンされてしまいました。
理由は嫁の妊娠高血圧症候群。
一方、香もセカンド扱いで交際していた元カレに、本命の彼女に自分がいたことがわからないよう掃除してから家を出ろと、コロコロをプレゼントされ激怒。
そんな3人は箱根の旅館に結集します。
「ってことでクソ野郎だらけの東京にっ…かんぱーい!」
野郎がたくさんいる東京で、よりによってクソな相手を選んだのは自分たちなのですが…不幸は全て男のせいだ!と一致団結し、倫子たちは一瞬で仲直りしました。
豪勢な料理の隙間から『東京タラレバ娘』のマスコットキャラクター「タラ」と「レバ」が現れます。
タラ「良かっタラね、仲直りできて」
レバ「やっぱり女同士は不幸自慢してるくらいが一番上手くいくんレバね」
倫子「不幸自慢?アハハ
そうよ女同士は誰か1人が幸せになっちゃあ面白くないの!」
倫子が酔った頭で思わず叫んだ本音中の本音、「女同士は誰か1人が幸せになっちゃあ面白くない」。これこそが人間の愚痴の本質なのです。
特徴③「愚痴の心はゾッとするほど醜くて恐ろしい」
箱根から帰った3人に届いた「真っ白な封筒に入った素敵な手紙」。
結婚式の招待状です。
友人たちの幸せを祝福したくなるはずの手紙に、倫子たちの愚痴の心はここぞとばかり大爆発します。
「え、マジで、図々しくない?」
「でしょ!?高校卒業してからろくすっぽ会ってないような友達のウエディングネイルやるほど、あたしヒマじゃないもん」
愚痴の心がなく、友達の幸福を心から祝福できたら、こんな言葉は出てこないはず。
同級生からの結婚式の招待状を不幸の手紙扱いしてみれば
自己嫌悪で今宵も酒が進みます
ああ
東京タラレバ娘
ゴミ箱に捨てられた招待状の隙間からは、ムクムクと黒~い「タラ」と「レバ」が姿を現します。
このタラとレバで表現されるように、仏教では愚痴の心を「黒」で例えられることが多くあります。
また
こころは蛇蠍(ヘビやサソリ)のごとくなり
と毒を持った恐ろしい動物にも例えられます。
それはドロドロとした醜い、ゾッとする真っ黒な心が「愚痴」だから。
愚痴は心に抱けば私たちにストレスを蓄積し、人に言えばその人の心もドロドロとさせてしまいます。
筆者もふと、先日後輩の可愛い男の子の前で愚痴を吐きまくったらドン引きされたのを思い出しましたが(笑)年々友人に愚痴を漏らすことが多くなってきました。
これがアラサーになるということなのかも…と思うと恐ろしいものですが、そんな愚痴で苦しんでいた私に親友が言ってくれたアドバイスがあります。
「腹が立つ相手のことを家に帰ってまで言ったり思い出したりして、イライラするのって時間勿体なくない?」
決してタラレバ娘たちを偉そうに言える身分ではない筆者の実体験から申し上げると、本当に友の言う通り。
タラレバ娘と同じく、煩悩である愚痴の心を断ち切ることはできませんが、自分の心を見つめなおすことはできますね。
「タラレバ娘」を卒業し、他人も自分も大切にできる女子に私もなりたいです。