へし切長谷部。
……変な名前でしょう?
前の主がね、茶坊主の失敗を許せずに、隠れた棚ごと圧し斬った記念の命名とか、ねえ。
……そういう男なんですよ。織田信長って奴は
ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』に登場する人気キャラクター・へし切長谷部。
『刀剣乱舞-ONLINE-』は審神者(さにわ)という能力者によって人間の肉体を得た、名だたる刀剣たち「刀剣男士」が活躍する物語です。
『刀剣乱舞-ONLINE-』の人気刀剣男士「長谷部くん」こと、へし切長谷部。ついに極が実装!
時計は先 時を遡る 歴史改変 遡るのは 刀剣のみ
阻止する者たちは 望を託し 遠い昔に 送り込む
舞台は2205年。
過去にタイムスリップし、歴史を変えることを企む時間犯罪者「歴史修正主義者」。
彼らの生み出した軍勢「時間遡行軍」によって現在が変えられてしまう危機が迫っていました。
タイムスリップできない人間に代わり、審神者によって肉体と歴史を守るため戦う使命を授けられた「刀剣男士」たちは美しい刀身そのままに華麗に戦場を舞います。
『刀剣乱舞-ONLINE-』はリリース直後から爆発的な人気で、次々と新キャラクターも追加され現在70種(70人)もの刀剣男士がいますが、最初期に登場し今もファンを増やし続けている刀剣男士が「へし切長谷部」です。
刀剣乱舞のファンには「腐女子」「夢女子」層のファンも一定数いるのですが、へし切長谷部の人気カップリング「燭台切光忠×へし切長谷部」は2016年、腐女子のファンにより12021作品が投稿されたそうです。
へし切長谷部と審神者(主人公)の恋愛を夢女子が想像した二次創作「へしさに」も約23000件の作品があります。
人気を受けるように、昨年から今年にかけてアニメ化した『刀剣乱舞-花丸-』ではメインキャストとして登場。
来年1月放送開始のアニメ『続・刀剣乱舞-花丸-』でも登場に期待がかかります。
そしてついに10月31日に「極(きわめ)」が実装され、新しい姿と新規ボイスが公開されました。
筆者もへし切長谷部を初めて鍛刀した日からすっかり「長谷部」沼の住人。
今まで入手したへし切長谷部はすべて保管、現在最初に鍛刀したカンスト長谷部を修行に出しており、どんな姿で戻ってくるのか大きな期待と少しの不安を抱える日々です。
幅広い層のファンに「へしかわ」(へし切長谷部かわいい)と愛されている、へし切長谷部。
長谷部くんがこれほど愛される理由はどこにあるのでしょう。
極修行から帰る長谷部くんを待ちながら、改めてその魅力を分析していきたいと思います。
主命大好き!忠誠心溢れるイケメン・へし切長谷部。でもその心は…
へし切長谷部、と言います。主命とあらば、何でもこなしますよ
人気声優・新垣樽助さんの声で紡がれるはじめましてのセリフ。
まずファンの心を惹き付けるのは忠誠心溢れる「主命とあらば」なところでしょう。
長谷部国重作の打刀。
名の由来は、信長が膳棚の下に隠れた茶坊主をその棚ごと圧し切ったことから。
主への忠誠厚く、その一番であることを渇望しているが口にすることはない。
汚れ仕事も平気で行う。
(公式設定集『刀剣乱舞絢爛図録』より)
プレイヤーである主人「審神者」に絶対忠誠を誓い、主にとって一番でありたいという願望を秘めながら決して外に出すまいとする健気な爽やかイケメン…
かと思いきや、実はただのイケメンではありません。
それで?何を斬ればいいんです?
何をしましょうか?家臣の手打ち?寺社の焼き討ち?御随意にどうぞ
物腰の柔らかいキャラに見えるのは最初だけ。
くだけた敬語で物騒なセリフを連発するのが長谷部くんです。
お風呂にする?ご飯にする?みたいなノリで「家臣の手打ち?寺社の焼き討ち?」と言い出します。
ご随意にどうぞじゃない(笑)
実は長谷部の言動の裏には、ある人物の存在があります。
へし切長谷部。……変な名前でしょう?
前の主がね、茶坊主の失敗を許せずに、隠れた棚ごと圧し斬った記念の命名とか、ねえ。
……そういう男なんですよ。織田信長って奴は
できればへし切ではなく、長谷部と呼んで下さい。前の主の狼藉が由来なので
命名までしておきながら、直臣でもない奴に下げ渡す。
そういう男だったんですよ、前の主は
自己紹介から日々の挨拶まで、端々に溢れる「織田信長」への強い怨念。
へし切長谷部は織田信長が所持していましたが、信長の不興を買った茶坊主が逃げたところを追いかけ、隠れた棚ごと「圧しきって」惨殺したという事件から、その切れ味を誇って「へし切長谷部」と名付けます。
しかしある時、黒田家にへし切長谷部は下賜され、黒田家の家宝となります。
長谷部が圧倒的に長く過ごしたのは信長より黒田家ですが、それにも関わらず長谷部は信長へ強い執着心を持っています。
昨年放送された『刀剣乱舞-花丸-』でも、同じく信長が所持していた打刀の刀剣男士・宗三左文字とこんな会話をしていました。
長谷部「あんな男の事など考えただけで腹が立つ。
奴はとある失敗を犯した茶坊主を咎め手打ちにしようと、棚の中に隠れていた茶坊主を棚ごと押し切ってしまった。」
宗三左文字「手打ちくらいどうでもいいでしょう…」
長谷部「俺が気に入らないのはその後だ!圧しきりなんて名前を付けておきながら簡単に直臣でもない軍師に下げ渡してしまった!」
一見審神者に一途な忠臣かと思いきや、その心は何百年も前に死んだ信長に囚われたまま。
それがへし切長谷部であり、ファンを惹きつけて止まない魅力でもあります。
「どうして俺じゃないんだ」下げ渡した織田信長への怨念の裏にある「愛別離苦」
「どうして……どうして俺じゃないんだ」
現在は聞くことができませんが、稼働初期に聞くことができた、負傷した長谷部の「中傷」セリフです。
その心中が作中で定かにされることはありませんでしたが、織田信長が死ぬまで手元に置き続けた他の刀剣のことを「どうして俺じゃないんだ」と内心思っているホンネが見え隠れしているようにも見えます。
また長谷部の代表的なセリフの一つでもある、戦場で負傷したときのセリフ
「死ななきゃ安い!」
や、近侍に任命すると聞ける放置ボイス
「待てと言うのならいつまでも。迎えに来てくれるのであれば」
にも、審神者に捨てられないよう尽くそうとしている必死さと、少し狂気じみた忠誠心も伝わってきます。(そこがまた良いんですが)
長谷部は負傷したとき笑顔を見せる、数少ない刀剣男士でもありますね。
愛する人と別れる苦しみのことを仏教では「愛別離苦」といいます。
大変な目にあったとき「四苦八苦した」という言葉を使いますが、実はこの「八苦」というのは人間が生きていく上で避けられない苦しみを教えられた仏教の言葉で、その中の一つが「愛別離苦」です。
名前の無かった自分に「へし切長谷部」という名前をつけてくれた織田信長。
本能寺とともに死にゆく短い命だったとしても、最期まで傍に置いてほしかった。
下げ渡された長谷部は、人の心を得たとき耐え難い愛別離苦に苛まれ、愛されたかった渇望はやがて憎しみへと変わります。
へし切長谷部は人間の愛憎一如を体現している?※刀剣破壊台詞ネタバレ注意
仏教には「愛憎一如」という言葉もあります。
へし切長谷部は主人に愛されたかった心と、愛が裏切られた憎しみの両方に苦しみ、今の主への忠誠でそれを忘れようとしているように見えます。
愛されたかったからこそ、裏切られたときの憎しみは強くなるもの。
へし切長谷部が何かにつけて信長への恨みつらみを話す姿はまさしく愛憎一如です。
「何をしましょうか?家臣の手打ち?寺社の焼き討ち?御随意にどうぞ」
という台詞にも信長への複雑な思いが現れていて、家臣の手打ちも寺社の焼き討ちも、実は全て織田信長がやったこと。
先ほど紹介した『刀剣乱舞-花丸-』でも、「あんな男の事など考えただけで腹が立つ」と言いながら、その後信長の最期である焼け落ちる本能寺を眺めていました。
へし切長谷部は信長に下げ渡される形での別離となりますが、仮に最期まで信長の傍にいたとしても本能寺の変で永遠に別れることになったでしょう。
私たちもまた、気の合う人と長く一緒に過ごすことは難しく、自分が死んでいくときには、恋人とも、友人とも、会社の仲間とも、必ず愛別離苦がやってきます。
そういう意味では、また長谷部くんに辛い思いをさせるのが私たち審神者(プレイヤー)なのかもしれません…
へし切長谷部は「黒田家」に渡されたこと自体を苦痛に思っているのではなく、あくまでその身を苦しめているのは「愛別離苦」です。
黒田家に行ったあとも長谷部を苦しめた愛別離苦については、同じ黒田家の日本号とへし切長谷部の会話で明らかになるのですが、またの機会に。
いつか必ず来る別れを分かっていながら、その苦しみを消し去ることができない。
愛されたかった人への憎しみや、今の主への忠誠で愛別離苦から目を背けようとしても、結局できていない長谷部くん。
あまりにも人間らしい在り方が多くのファンの心を「へしかわ」と掴んで離さない魅力ではないでしょうか。
へし切長谷部が死ぬときの刀剣破壊台詞。
長谷部くんが最期に残す言葉にも、私たちを苦しめて止まない愛別離苦が溢れています。
「ここで終わりか……
主の命は……
俺がいなくても、果たされるのかなぁ……」