この記事はこんな方におすすめ
- アニメ化をきっかけに「ヒプマイ」の魅力について知りたい
- 「MAD TRIGGER CREW」のメンバーが気になる
- 毒島メイソン理鶯の曲や過去について知りたい
「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」通称「ヒプマイ」は、2017年に始動した男性声優18人(2020年2月現在)による音楽原作キャラクターラッププロジェクトです。
EVIL LINE RECORDSにより世に送り出されてからのこの3年、「ヒプマイ」は幅広い層からラップやヒップホップが支持される、大きな一助となってきました。
コミカライズ化、舞台化、そして今年はアプリゲーム版と幅広い展開を遂げた「ヒプマイ」ですが、今年はついに待望のアニメ化。
A-1 Picturesが手掛けるアニメ化作品「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- Rhyme Anima」通称「ヒプアニ」は1話が放送されるなり大反響を呼びました。
筆者の弟も「ヒプアニ」がきっかけで「麻天狼」のファンになり、「ヒプマイ」漬けの生活になっています。
前回は筆者が「ハマ女」になったきっかけの曲『シノギ(Dead Pools)』を切り口に、ヨコハマ・ディビジョン「MAD TRIGGER CREW」の魅力をご紹介しました。
【ヒプマイ考察】”ハマにハマれ”だけじゃない『シノギ(Dead Pools)』の意味。『シノギ』から知る「MTC」の深い魅力(※コミカライズ版ネタバレ注意)
今回は「MAD TRIGGER CREW」毒島メイソン理鶯のソロ曲「2DIE4」をご紹介。
筆者がヒプマイを知ったきっかけでもある理鶯くんの魅力と、歌詞に隠れた深い意味を考えてみたいと思います。
謎多き「元軍人」理鶯。ドラマパートやコミカライズで徐々に明らかになる海軍時代の過去※コミカライズ版ネタバレ注意
今回ご紹介する毒島メイソン理鶯は、ヒプマイが世に出て間もない頃から、筆者が知っていたキャラクターでした。
友人がコスプレしていたのが理鶯を知ったきっかけなのですが
そのために死ねる何かを見つけていない人間は、
生きるのにふさわしくない
という理鶯のポリシーを公式サイトのキャラクター紹介で見て「人生観がカッコいい」と惹かれたのを覚えています。
恥ずかしながら後から知ったのですが、理鶯のポリシーは「I Have a Dream」の演説で有名なキング牧師の名言です。
キング牧師といえば人種差別撤廃のため公民権運動に命をかけ、ノーベル平和賞を受賞した偉人ですが、彼の名言をポリシーにしている理鶯もまた、平和のために命をかけてきた「ソルジャー」でした。
ヒプマイの舞台は「H暦」という時代の日本。
第三次世界大戦によって世界人口の三分の一を失った世界で、「言の葉党」がクーデターを起こし西暦は終わります。
言の葉党は軍で密かに開発されていた精神に干渉する特殊なマイク“ヒプノシスマイク”を完成させ、政権を打倒。
女性が日本を支配する世が始まりました。
コミカライズ版で明らかになるのですが、理鶯はただの「元海軍」ではなく、クーデターの日に言の葉党と闘った特殊掃滅作戦部隊の一員です。
「革命当日 我ら七人は言の葉党に敗北した
あの時の無念は今もこの胸に絡みついて消えていない
メイソン…いや
特殊掃滅作戦部隊所属 コールサイン ”ソロン”」
(ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- side B.B & M.T.C② verse.7 より)
まさにH暦の始まりの瞬間に立ち会った重要人物が理鶯なのです。
言の葉党によって軍隊は解体、無職になった理鶯は、軍の復活を願いながらヨコハマ奥地の森で自給自足のサバイバル生活をしています。
特殊任務で活躍していた人物とは思えないほど温厚な人柄で、天然を通り越して「大自然」と表現したくなる性格です。
仲間である左馬刻様と銃兎が喧嘩を始めると
「ん?争っているということは、腹が減っている証拠だな
ちょっと待ってろ、具材を狩りに行ってくる」
と言い、コウモリや虫を使ったゲテモノ料理を振る舞おうとします。
100%善意でゲテモノ料理を作る理鶯の心を傷つけまいと、左馬刻様たちが必死になる展開はファンの間ではおなじみ。
アニメ版でもニコニコ動画では登場するたび「かわいい」「幼女ニキ」「ゆるかわ幼女」「(外見と内面のギャップに)ダマされた大賞」というようなコメントが飛び交っています。
191cmの高身長でハーフ顔、色気のあるバリトンボイスと裏腹に、愛くるしい内面を持つ理鶯は、多くのファンに愛されてきました。
一方で理鶯には、特殊掃滅作戦部隊にいたことを感じさせる鋭い一面もあります。
『The Champion』のドラマパート「Me Against The World」では最終決戦で破れた翌日、「左馬刻が敗北の悔しさを当たり散らしてくるだろう」と想像し憂鬱になっている銃兎に対し
銃兎「何故って……分かりませんか?あの左馬刻ですよ?
どうせメチャクチャに当たってくるのがオチです。
それを宥める身になって考えれば、おのずと理解できるでしょう?」
理鶯「ふむ……思考してみたが、理解できなかった。教えを乞う」
と言っている場面があります。
しかし実は理鶯の見立てが正しく、左馬刻は当たり散らすどころか銃兎と理鶯に心からの感謝を伝えます。
知り合ってからの時間が短い理鶯の方が、左馬刻の内面を的確に見抜いてたのです。
「2DIE4」が収録されている「ヒプノシスマイク ヨコハマ・ディビジョン 「MAD TRIGGER CREW –Before The 2nd D.R.B-」のドラマパート「All in the same boat」では、理鶯が中王区のサーバーにクラッキングを仕掛け、中王区の裏にいる黒幕を探すため、左馬刻に協力を求めていました。
左馬刻「その黒幕っつのを探し当てて、お前はどうすんだよ?」
理鶯「勿論、そいつの思惑を知ることだ。
それを知ることによって中王区を打倒する糸口が見つかるかも知れない」
ただH暦がいつか終わるのを待っているのではなく、言の葉党への抵抗チャンスを虎視眈々と狙っていることが分かります。
今回ご紹介する新曲「2DIE4」には
助けるさ上官
他のDivisionが優勝?ご冗談
という歌詞もあります。
かつての仲間から受けた恩を忘れず、同時に今の仲間に強い信頼を寄せる、そんなアツい男が理鶯なのです。
「2DIE4」の歌詞に込められた、理鶯の人生につながる深い意味
キャラクターストーリーを知って、漫画を読んで、理鶯になりきって歌詞を書きました。めちゃくちゃ楽しかったです。
リリックおすすめポイントは、理鶯の座右の銘から歌詞を引用した点。
「そのために死ねる何かを見つけてない人間は、生きるのにふさわしくない」
要約して「to die for」イコール(数字の)「2DIE4」というタイトルにしましたが、理鶯というラッパーが一生自分のテーマ曲になるようなアンセムを作りたいなって思いながら制作してみました
(MAD TRIGGER CREW -Before The 2nd D.R.B- CD発売記念特別ニコ生 (前半)より)
理鶯の楽曲を手掛けたELIONE(イーライワン)さんはリリックに込めた思いを2020年1月29日放送の「ヒプノシスマイク -ニコ生 Rap Battle-」でこのように仰っています。
「2DIE4」で最も中毒性の高い部分はやはり何と言っても、作詞を手掛けたELIONEさんもおすすめポイントと仰っているサビの部分です。
そのために死ねる何かを見つけていない人間は
生きるのにふさわしくない
2DIE4, what what
2DIE4, what what
2DIE4, what what
2DIE4, what what
ELIONEさんも「テーマ曲」と仰っているように、このフレーズは理鶯の半生を表現している言葉といえるでしょう。
一見「ゆるかわ」な雰囲気を持つ穏やかな理鶯ですが「2DIE4」、つまり「生きる意味」という哲学的な問いを意識して生きてきたことが分かります。
H暦以前の理鶯は、正義と悪のスレスレのところで葛藤も抱えながらも尊敬する上司とともに命がけの任務に人生を捧げていました。
そんな理鶯にとっての「2DIE4」は特殊任務を通じて「民間人の恒久的な平和を守るため」だったでしょう。
しかしH暦の到来によって、理鶯の「2DIE4」は軍ごと消し去られてしまいます。
理鶯にとって「2DIE4」は人生の一日一日を生きていく上で、不可欠なものだったのではないでしょうか。
無くては生きられないものを失った理鶯は「Crazy M」というMCネームを名乗ります。
理鶯は「ソロン」というコードネームを軍時代は使用しているので、筆者の想像ですが「Crazy M」という名はH暦になってから自分で名付けた名前だと思われます。
「M」は毒島メイソン理鶯の「メイソン(Mason)」の頭文字でしょう。
「Crazy」はポジティブな意味で使うこともありますが、もし直訳通りの「正気ではない」という意味だったとしたら。
「2DIE4」を失うことは理鶯にとって、自分の存在意義を失い、正気を保てないほど重いことだったのかもしれません。
理鶯にとっての新たな「2DIE4」は、運命共同体としての MAD TRIGGER CREW
H暦の到来により、無くては生きられないもの「2DIE4」を失った理鶯にとって、MTCという存在は新たな「2DIE4」になります。
「2DIE4」の歌詞にも
我らM.T.C 我らM.T.C
我らM.T.C 我らM.T.C
敗北の疑いやネガティブはエンプティー
勝利を手にして眺める ベイブリッジ uh
ヨコハマの間柄
裏切らない仲間
ハッタリじゃないからな
というリリックがありますが、特に
裏切らない仲間
ハッタリじゃないからな
は理鶯の普段の温和な人柄とは異なる、非常に強い語調が印象的な部分です。
謎の多い理鶯は「実は中王区側の人間で、裏切り者なのでは?」という考察が、ファンの中で度々話題になります。
ひょっとしたら理鶯が裏切る展開もあるのでは……と今後の展開を不安に思っていた時期が筆者もありました。
しかし「2DIE4」のこのリリックを聞いたとき「疑ってごめんなさい!」と理鶯に土下座したくなるほど(笑)MTCへの強い信頼が心に響いてきました。
先程紹介した「Me Against The World」でも、左馬刻が共に戦ってくれた銃兎・理鶯に対し感謝を述べる場面で理鶯は
「感謝は不要。小官達は、運命を共にする共同体だからな」
と言い切っており、このコラムの冒頭でご紹介した新曲のドラマパート「All in the same boat」も、日本語に訳すと「運命共同体」という意味になります。
出会って数年も経っていないはずのMTCの仲間に、理鶯がこれだけ深い信頼を寄せているのは一体何故なのでしょう。
それなくしては生きられない「2DIE4」を奪われた理鶯は、森の中で孤独に軍の再興を願っていました。
そんな理鶯に新たな「2DIE4」を与えてくれた存在がMTCだったのではないでしょうか。
人生の道標を失った理鶯にとって、3人それぞれが悲願を胸に抱いて結成したMTCという絆は、理鶯の人生に新たな意味を与えました。
一度は失ったものの、自分の人生から欠かすことのできない「2DIE4」をMTCに見出したからこそ、理鶯は出会って間もないMTCをまるで家族のように信頼しているのかもしれません。
あなたにとっての「2DIE4」は?理鶯のアンセムは、私たちが人生の意味を考えるきっかけを与えてくれる
2DIE4, what what
2DIE4, what what
2DIE4, what what
2DIE4, what what
というサビで「what」が繰り返される理由が、実は筆者はとても気になっています。
語学の造詣が深い方が聴くと違った解釈になるかもしれませんが、学校で習った英語の知識で直訳すると「what」は「何」という意味になります。
深みのあるバリトンボイスで繰り返される「what」を聴けば聴くほど、2DIE4、つまり「そのために死ねる何か」が何なのか理鶯は問いかけているのではないかと思えてくるのです。
人生をかける価値があると思っていた「2DIE4」を一日にして失い、今も「そのために死ねる何か」を探し続けているとしたら
2DIE4, what what
というリリックの繰り返しは、理鶯が「そのために死ねる何か」を探し続けていることの現れかもしれません。
「ヒプアニ」でも理鶯は「少佐殿を奪還する」ことをバトルに参加する裏の目的として口にしていました。
しかし少佐を取り戻し、軍が復興したとしても、大きく変わってしまった世界の構造はそう簡単に元通りにならないのが現実でしょう。
頭脳明晰な理鶯は、自分が追い求めてきた「2DIE4」が本当に自分が人生を捧げて間違いないモノなのか、自身に問いかけ、迷い続けているのかもしれません。
また見方を変えれば、理鶯はラップの聞き手である私たちに対して「2DIE4, what what」と問いかけていると味わうこともできます。
アプリゲーム版「ヒプノシスマイク -Alternative Rap Battle-」でも
自分は何のためなら死ねるのか?
貴殿も一度考えておくといい。
と主人公(プレイヤーである私たち)に向けて理鶯が語っているセリフがありますね。
何度打ち砕かれても「そのために死ねる何か」だと断言し、毎日の人生をそれ一つに捧げられる「2DIE4」が私たちにはあるでしょうか。
「2DIE4」が無いまま生きる人生の一日一日ほど虚しいものはないから、早く見つけてほしいという理鶯の想いが込められているのかもしれません。
理鶯のように強い信念を持って生きている方もいれば、守りたい家族や仲間、積み上げてきたキャリアや財産を「2DIE4」だと即答される方もいるでしょう。
しかしこの2020年という年は、クーデターで「2DIE4」を打ち砕かれた理鶯のように、信じていた人生の目標を新型感染症による社会変化で失い、苦しんでいる人たちで溢れていた一年でした。
仏教思想では私たちが「2DIE4」だと信じているこの世のあらゆるものは「無常」だと教えられます。
無常とは常が無く変わっていくということで、時代や社会の変化で失われるものを「2DIE4」だと信じていると、変化が訪れたとき人生は苦しみに満ちてしまいます。
2000年以上前、そんな世の真理を悟ったお釈迦様が変わることも無くなることもない本当の「2DIE4」があることを説かれたのが仏教という教えです。
クーデターは無くとも、これまでの「当たり前の日常」が木っ端微塵に砕け散ったこの2020年。
「理鶯というラッパーにとって一生のテーマ曲になるようなアンセム」という想いを込められて作られた「2DIE4」で
2DIE4, what what
と理鶯が繰り返すのは、大きく変化するこの世で、私たちが自分の人生を振り返るきっかけを与えてくれているのかもしれません。