『宝石の国』は『アフタヌーン』で連載中の市川春子先生による漫画作品です。
昨年アニメ化され、幅広い層から高い人気を得ました。
今月はついにファン待望の最新刊、9巻が発売されます。
筆者は単行本派で、9巻の展開が楽しみで仕方ない今日この頃です。
以前から衝撃的な展開が話題を呼んできた『宝石の国』は、読者によって今後の展開が予想されてきました。
中でも原作者の市川春子先生も高校時代学ばれたという仏教視点からの考察は、多くのファンの話題を集めています。
今回は何年も前から考察されている『宝石の国』のエンディングに関する仮説「七宝説」をご紹介。
仏教好きで宝石の国大ファンな筆者が、『宝石の国』をより深く楽しめるようになる仏教哲学をお伝えします。
※『宝石の国』8巻までの内容や物語の核心部分に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。
9巻発売前に書いているため、最新刊の内容と異なる予想がある可能性があります。
【宝石の国・あらすじ】フォスの激的な変化。フォスの身体を構成する宝石はどんどん増えていく…
六度の隕石で人類が滅んだ後の、遠い遠い未来。
私たち人間が繁栄していた大陸は海の底に沈み、唯一残った浜辺に、人間そっくりの姿をした「宝石」が暮らしていました。
宝石たちは体内にインクルージョンと呼ばれる微小生物を持っており、体をバラバラに砕かれても、破片を繋げば蘇生できる不死身の肉体を持っています。
しかしそんな彼らには月人と呼ばれる天敵がおり、度々月人により月に誘拐されていたので、力を合わせて対抗していました。
主人公・フォスフォフィライトはその中で最年少。
宝石の強さを表す硬度が三半ですぐに砕けてしまうフォスは戦闘に出られず、不器用で無職状態でした。
しかし300歳のときフォスは大きく変化します。
海で両足を失ったフォスは、失った足の代わりに繋いだアゲートで駿足になり戦闘に出られるように。
しかし実戦で役に立てないフォスは悔しさから皆が眠る冬の間、厳しい仕事に挑戦します。
しかし今度は流氷に両腕を奪われ、代わりになる素材を探していたとき月人が襲撃してきました。
そして月人からフォスを庇った仲間・アンタークチサイトが攫われてしまいます。
自分の身代わりになったアンタークへの自責の念からフォスは性格も激変し、アンタークに繋いでもらった金と白金の腕を操って月人を殲滅する戦士に変わっていきました。
外見も内面も変化したフォスは、育ての親である金剛先生が月人と近しい存在ではないかと疑いを持つようになります。
金剛先生の謎を探る中で、今度は協力してくれた仲間・ゴーストがフォスの身代わりになって月人に誘拐されてしまいます。
仲間にこれ以上迷惑をかけたくないフォスは金剛先生を詮索することを諦めました。
後に戦闘中、頭部を失ったことで昏睡状態になったフォスは、頭だけを残して月に攫われたラピスという仲間の頭を接合されます。
フォスは百年後、新たな身体で奇跡的に覚醒。
ラピスの頭部を接合されたことで天才的頭脳を受け継いだフォスは、金剛先生の正体を暴くため再び始動、最終的に月人にわざと攫われる形で月へ行きました。
降り立った月の世界で、フォスは金剛先生と月人の正体を知ることになります。
宝石たちが誘拐されている本当の理由を知ったフォスは、金剛先生を裏切ることで月人に協力する取引を持ちかけます。
戦闘へ向かう月人とともに月を離れ地上に帰還したフォスは、巧妙な話術で仲間の心を操り、ともに月へ行こうと唆していきました。
そして月人との約束の日がやってきます。
物語が始まった頃と顔立ちも身長も違うフォスはもはや別人で、8巻のキャラクター紹介ページには
主人公。フォスフォフィライトの要素はほぼなくした。
今回もご期待ください
と紹介されています。
容姿だけでなく心も変わり、誰よりも慕っていた金剛先生を裏切ろうとするフォス。
激的に変化していくフォスが9巻ではどうなるのか、ファンの関心が高まる中、待望の最新刊が発売されます。
フォスは「七宝」になるのでは?ファンの中で「七宝説」が話題になる
約二年ほど前、『宝石の国』の主人公・フォスフォフィライトが今後どのような姿になるのか、ネット上でファンにより盛んに考察がされていました。
昨日の「宝石の国」のラピスの話、人格3〜4人ぶんではと言いつつ実際にはもっと内包鉱物あったよなぁ、と調べたら主要鉱物以外を含めると6種類だそうで、しかも「今のフォスにラピスを加えると仏教の七宝(金、銀、瑠璃、水晶、珊瑚、瑪瑙、シャコ貝)に近付くのでは」って考察してる人いて震えた…
— 紺碧 (@Konpekin) December 21, 2016
この方も調べておられますが、8巻ラスト時点でフォスの身体は、貝殻、アゲートの足、金、白金、ラピスラズリで構成されています。
現在複数の宝石で構成されているフォスの身体は、金、銀、瑠璃(るり)、瑪瑙(めのう)といった仏教で説かれる「七宝」として挙げられる宝石と重なっています。
瑠璃(るり)はラピスラズリの和名、瑪瑙(めのう)はアゲートです。
さらにフォスは月人によって水晶の眼球を埋め込まれるのですが、水晶も「玻璃(はり)」という七宝の中に挙げられることがある宝石です。
このままフォスの身体を構成する宝石が増えていけば、最終的に「七宝」になるのではないかと予想されています。
またフォスがアンタークを失って変化したときに登場したパパラチアという仲間も、今後の展開に重要な役割を果たすのではないかと予想されているようです。
パパラチアは強い戦闘力を持つ兄貴分であり、皆に慕われていましたが、生まれつき7つの穴がある特異体質で、長い時をほとんど眠って過ごしています。
パパラチアの相棒であるルチルは、様々な宝石を集めてはパパラチアの穴に嵌め、パパラチアが覚醒する方法を模索していました。
パパラチアは「蓮の花」という意味を持ち、蓮は仏教で極楽浄土に咲く花とされています。
フォスの身体を構成する宝石が仏教で説かれる「七宝」になり、何らかの経緯で仏教で説かれる極楽浄土の花「蓮」の意味を持つパパラチアの身体に埋め込まれたとき、何かが起きるのではと考察するファンも多くおられるようです。
9巻の発売を前に再び大きな注目が集まっている「七宝説」。
仏教で説かれる「七宝」はどういう意味なのでしょうか。
「七宝」とはどういうことか?仏典に説かれる「七宝」について解説
「七宝」は仏教用語で、京都にある有名な「金閣寺」のモチーフも関係していると言われています。
仏教に熱心であった義満は「九山八海石(くせんはっかいせき)」と呼称される石を配したり、「七宝の池」と呼称される阿弥陀仏の浄土世界や蓬莱思想をイメージして築庭したとも云われております。
仏典の一つ、阿弥陀経には
又舎利佛、極楽浄土には七宝の池有り。
八功徳水其の中に充満せり。
池の底にはもつぱら金沙を以て地に布けり。
四辺の階道、金・銀・瑠璃・玻璃(はり)をもつて合成せり。
上に楼閣有り。
また金・銀・瑠璃・玻璃(はり)・蝦蛄(しゃこ)・赤珠(しゃくしゅ)・碼碯(めのう)を以て而も之を厳飾(ごんじき)せり。
という記述があります。
これは仏教で説かれる「極楽浄土」についてお釈迦さまが教えられた部分で、金や銀、瑠璃といった宝石でできた美しくまばゆい世界だと説かれています。
『宝石の国』は金剛先生や月人の衣装などに強い仏教色がありますが、作者の市川春子先生もこの「極楽浄土」についての仏典の描写に興味を惹かれたと語っておられます。
高校時代、仏教校に在籍していたためお経を読む機会がありまして、そこに「浄土は宝石でできている」という描写があったんです。
その俗っぽい価値感というか人間らしい複雑味みたいなものがおもしろいなと、ずっと気になっていました。
まさに「七宝」は『宝石の国』誕生のきっかけ。
『宝石の国』の今後の展開に関係があるのは間違いなさそうです。
市川春子先生は七宝でできている極楽浄土という描写について「その俗っぽい価値感というか人間らしい複雑味みたいなものがおもしろい」と語っておられます。
実は「七宝」が仏典で登場する理由は、まさにここにあります。
仏典で説かれる極楽浄土は本当に「宝石の国」なの?「七宝」は釈迦の待機説法
『宝石の国』に登場する月人は仏像のような姿をしていますが、仏教は月人のように天から降りてきた神や宇宙人のような存在が説いた教えではありません。
人間として生まれ、修行の末に仏のさとりを得たお釈迦さまが、一生涯かけて説かれた教えが仏教です。
仏のさとりを得たお釈迦さまは、人間には想像も及ばない深くて広い智慧を持ち、どんなにIQの高い人でも、仏の見ている世界を知ることはできないと言われます。
「極楽浄土」もおとぎ話でなく実際に存在する世界と仏教では説かれていますが、私たち人間の知恵では浄土の世界を想像することはできません。
本当は極楽浄土の幸せを人間が分かるように解くことはできないのですが、それでは人間はそこに行きたいという気持ちすら起きなくなってしまいます。
そこで釈迦は「俗っぽい価値感」に合わせて極楽浄土を説かれ、その表現が「七宝」でできた極楽浄土でした。
法を説く相手に応じて巧みに変えられた、お釈迦さまの説き方を「対機説法」といいます。
仏陀が教えを説示する場合,その相手の精神的能力 (→機根 ) や性質などに応じてそれにふさわしい手段で説法することをいう。
比喩的な表現として「応病与薬」というのと同じ意味である。
「心」のことを仏教では「機」といいます。
ですから人間の機、つまり私たちの心に「対応」するように説かれた説き方の一つが「七宝」なのです。
一つのことを説くのに、その場にいた人間たちに分かるような様々なたとえで話されたので、経典は膨大な数になったと言われています。
極楽浄土が本当に七宝でできた『宝石の国』なのではなく、人間の知恵では理解できない世界を何とか分かるように表現されたのが「七宝」なのです。
もしお釈迦さまがフォスに極楽浄土の楽しさを説くなら、アンタークを始めとする、もう会うことのできない仲間と暮らせる世界のように説かれるかもしれませんね。
市川春子先生も注目されていた「七宝」でできた極楽浄土の世界。
フォスの身体が「七宝」になったとき、何が『宝石の国』の世界に待っているのか。
9巻の展開を楽しみにしながら、発売日を待ちたいと思います。