【ロード・エルメロイⅡ世の事件簿・感想】アニメ2話『七つの星と永遠の檻』で明かされる人の心の深い真理

Fate』シリーズのスピンアウト作品である『ロード・エルメロイII世の事件簿』。

トップクラスの売上を誇るスマートフォンゲーム『Fate/Grand Order』、通称FGOにも「諸葛孔明」として登場する人気キャラクターロード・エルメロイII世が活躍する作品です。

三田誠氏がミステリー小説として世に送り出した『ロード・エルメロイII世の事件簿』は2017年にコミカライズされ、今年はついにファン待望のアニメ版が放映スタート。

Fateシリーズのスピンオフ作品『Fate/Zero』アニメ版で監督をされた、あおきえい氏が取締役を務めるTROYCAが制作しています。

TROYCAさん制作と発表され『Fate/Zero』ファンの筆者は大きな期待を寄せていました。

0話から今まで鑑賞させて頂きましたが、期待を大きく上回る作画や演出、前半をアニメオリジナルにする思い切ったストーリー構成にすっかり「事件簿アニメ」の虜になっています。

今回はアニメ版『ロード・エルメロイII世の事件簿第2話『七つの星と永遠の檻』のあらすじをご紹介。

原作の世界観も大切にしながら『Fate/Zero』や『Fate/Apocrypha』ファンはもちろん、幅広い層のファンから高い評価を得ている「事件簿アニメ」の深い魅力をお伝えしたいと思います。

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【2話あらすじ・ネタバレ注意】脚本が面白い!高い評価を得た事件簿アニメの深い物語

Fateシリーズが老若男女幅広い層から支持されるきっかけとなったスピンオフ作品『Fate/Zero』。

代を重ねるほど権威を増す魔術師の世界で、歴史の浅い家系に生まれたウェイバー・ベルベットは『Fate/Zero』にて初登場します。

凡才な若き魔術師として登場したウェイバーくんは、物語の中で目覚ましい成長を遂げました。

10年後、彼はファンから「第三次性徴」とも言われるほど外見が大きく変化。

29歳になったウェイバーくんである「ロード・エルメロイII世」がタイトル通り本作の主人公です。

アニメ版「ロード・エルメロイII世の事件簿」、通称事件簿アニメは前半がアニメオリジナル構成。

ウェイバーくんが「ロード・エルメロイII世」に変化していくまでの過渡期も描かれています。

『Fate/Zero』でウェイバーくんは己の才を嘲笑った師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに激昂し、見返すためにケイネスの所有物を奪い魔術師の闘争「第四次聖杯戦争」に参戦。

そこで運命の出会いを果たし、10年後の世界で聖杯戦争の数少ない生き残りとなります。

一方ケイネスは無残な死を遂げ、ウェイバーくんはケイネスの死に責任を感じエルメロイ教室の再興に尽力しました。

次期当主候補である少女、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの意向で「ロード・エルメロイ」の称号(とライネスにこき使われる宿命)を贈られることに。

師ケイネスの才を敬うようになったウェイバーくんは「ロード・エルメロイ」は自分には恐れ多いと言い「ロード・エルメロイII世」と名乗ります。

アニメ事件簿1話ではこの過程が『Fate/Zero』の名場面を挟みながら描かれ、初見の方も「Zero」からのファンも胸が熱くなる展開が話題を呼びました。

続く2話は「事件簿」らしいオリジナルストーリー。

エルメロイII世の生徒だったメアリ・リル・ファーゴの父親、アーネスト・ファーゴがバラバラ死体として発見された事件をエルメロイII世が解明する物語です。

切断された遺体は屋敷の大広間に心臓を中心として円状に置かれ、書庫に置かれていたパーツもありました。

殺害動機のありそうな人物が多く登場する中、第二の殺人が発生し、容疑者の1人が死亡します。

事態が混迷を極める中、エルメロイII世が解明した真実はあまりにも意外なものでした。

犯人は予想外すぎる人物 魔術師の「事件簿」だからこその真実をエルメロイII世が明かす

「それじゃあまるで、死体が魔術を使ったみてぇだな」

バラバラ事件の犯人はなんと、バラバラにされた死体の当人、アーネスト・ファーゴでした。

エルメロイII世の内弟子である少女グレイがいつも持ち歩いている謎の生命体「アッド」。

遺体の状況を聞いたアッドが「まるで死体が魔術を使ったみてぇだ」と呟いた瞬間、エルメロイII世は真実にたどり着きます。

「ロード・エルメロイII世の事件簿」が他のミステリー作品と違うのは巧妙なトリックやアリバイ工作のような”どのようにしたか”という部分が推理の核になりません。

エルメロイII世「魔術師とは、予測もつかない超常現象を引き起こす存在だ。

故に”ハウダニット”、”どのようにしたか”には推測の余地がない

グレイ「けれど”ホワイダニット”、”どうしてやったか”は例外だと?」

エルメロイ「……そうだ。そこに謎を解く鍵がある」

弟子のグレイとの会話でも語られているように、超常現象を引き起こせる魔術師の世界では、警察が追究するような”ハウダニット”をいくら分析しても謎は解けません。

今回の事件でも、事件の犯人だったアーネスト・ファーゴは自分の遺体をバラバラにして配置するという信じられない手口を実行していました。

「誰がどのように遺体を配置したか」という”ハウダニット”の謎解きでは真実は分からなかったでしょう。

エルメロイII世が犯人を突き止めることができたのは”ホワイダニット”、”どうしてやったか”という動機に注目したからです。

超常現象を操る魔術師も人の子。

人の心の深層を見つめることが、事件解決の鍵だったのです。

魔術師も人間。アーネスト・ファーゴが破滅した理由は人の心が囚われている根深い迷い

「お父様は昔から”永遠”という言葉を、度々口にしていました」

”ハウダニット”に着目したエルメロイII世は、自身の生徒だったメアリに、被害者でありメアリの父親アーネスト・ファーゴの生前の様子を聞きます。

ファーゴ氏の”ホワイダニット”を突き止める重要な鍵が、メアリの口から出た「永遠」という言葉でした。

「それに…お父様はよく言っていました。

根源に辿り着くには人生は短すぎる

と。お父様はあくまで、自分が根源に辿り着きたいと考えていたようです」

永遠とは言い換えると不変ということ。

「Fate」シリーズに登場する魔術師たちは「根源」という、宇宙の始まりのような世界の裏側への到達を求めています。

しかし人間の寿命は80年や100年で、一世代で「根源」にたどり着くのは不可能です。

そのため「Fate」シリーズでは、衛宮矩賢のような不老不死を求める魔術師がこれまでも登場してきました。

今回登場したファーゴ氏も不老不死を求め、実験段階の儀式を行った結果失敗し、生者の命を喰らう化け物に変貌します。

彼を破滅に追い込んだのは、「不変」を願い、実現しようとする心でした。

娘のメアリは幼い頃から父親に「不変」への野望を聞かされていましたが、エルメロイII世との出会いでメアリの人生観は変わっていきます。

メアリ「お父様が求めたものは、不変のものです

私も、何の疑いもなくそう信じてきました…先生に会うまでは。

星々は古代においては不変のものと思われてきた。

だがそうではないことを、今の我々は知っている』」

エルメロイ「天体魔術の前提として長く信じられてきた天動説すら、

17世紀に覆されたのは知っての通りだ

……そう」

「『星の輝きすら永遠ではない』」

メアリ「さすが先生です」

エルメロイ「いや。君こそ私の授業を一言一句よく覚えていたものだ。」

人も自分も絶えず変わっていく。エルメロイII世が知ったのは、不変なものなどないという真理

第四次聖杯戦争と、その後の10年。

時計塔の権威ケイネスは、栄光の象徴だった婚約者ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリとともに殺害され、一族もろともその権威は失墜

対して才能も人脈も持たなかった弟子のウェイバーくんは、一代で魔術の総本山時計塔に12人しかいない「ロード」の地位につき、優秀な弟子たちに恵まれます。

それはただ単に聖杯戦争で生き残ったからではありません。

聖杯戦争で召喚した征服王イスカンダルとの出会いによって、ウェイバーくんは内面も大きく変化

故ケイネス師の才に敬意を払うようになり、エルメロイ教室と一族の再興に尽力したことが、最終的に「エルメロイII世」の誕生に繋がります。

ライネスに振り回される毎日が幸福かどうかはさておき、一つ明らかなのは、ウェイバー自身も彼を取り巻く状況も10年で別世界のように変わったということ。

ウェイバー・ベルベットがこの10年で誰よりも深く思い知ったことは、この世に不変なものなど無いという真理だったのではないでしょうか。

不老不死を求め人の心を失ったファーゴ氏だけでなく、私たち人間は皆「永遠」が存在すると錯覚している存在だといわれます。

「永遠」という不変を実現するため、科学や医学といった人間の営みは目まぐるしい変化を遂げてきました。

元気に生きているという状態を少しでも伸ばすための医療の発展も、不変を求めてのことでしょう。

しかし実際はどんなに寿命は伸びても必ず「死」という避けられない変化がやってきます。

それは人である魔術師の世界でも同じこと。

人間の器を捨てたり、異形化することで人としての寿命を超えることはできても「不変」を実現することはできません

しかし不老不死を求めて人の道を誤る魔術師だけでなく、私たち人間は皆「不変」があると信じ込んでいる存在だと仏教では教えられます。

このことを仏教用語で顛倒」(てんどうといいます。

仏教用語。

真実に反する見解をもつこと。

原意は「さかさまにすること」を意味する。

逆立ちして周囲を見れば,実際は周囲はありのままの姿であるのに,すべてさかさまに見える。

このように心がある見解にとらわれてしまうと,ありのまま見ることができず,真実を知ることができなくなってしまうことをいう。

顛倒(てんどう)とはーーーコトバンク

仏教でいう「顛倒」は、1話で逆さ吊りにされていたウェイバーくんのように身体が逆さまという意味ではありません。

「顛倒」つまり逆さまになっている姿というのはのことです。

私たちが持つ「顛倒」のうち、仏教でよく説かれるのが「常」

私たちはこの世のどこかに「常」つまり不変なものがあると錯覚していると仏教では教えられます。

しかしこの世のすべては「無常」

平家物語の冒頭にも出てくる有名な仏語「諸行無常」の通り、人も星々も常がなく絶えず変わっていくのです。

エルメロイII世は聖杯戦争の後、自分も周囲も「無常」であることを知らされ、弟子たちに「星の輝きすら永遠ではない」と教えていました。

そしてメアリもエルメロイII世との出会いで父親の誤りに気づくようになります。

「お父様の永遠がもし実現すれば、私もきっと永久に変わることは許されません。

お父様に、この館という檻に一生を縛られて…

だから永遠のものなどないと証明してあげたまでです

先生に教わった通りに」

父親が破滅することに感づいていながら止めなかった理由を、最後にメアリは語ります。

「不変」があると思いこむ人間の「顛倒」した姿を知らされたメアリは、父親の野望に支配される一生から自分の人生を歩みたいと思うようになったのかもしれません。

エルメロイII世は聖杯戦争を機に人生が大きく変化し、自身も成長します。

しかし一方で、聖杯戦争で出会った英雄・イスカンダルに再び相まみえたいという想いにも縛られてきました。

永遠のものなどない……ては変わりゆく

それは人も例外ではないか

事件を解決したエルメロイII世が語った言葉。

メアリの変化を指しているとも思われる一方、この言葉は征服王との別れという「無常」を受け入れられない自身に向けているようにも聞こえます。

アニメシリーズ後半はついに原作「case.魔眼蒐集列車」の物語に突入。

物語の中で、英雄との運命の出会いに心を囚われた彼がどう変わっていくのか。

今後の展開を楽しみにしながら、このコラムを締めくくりたいと思います。