日本人にはなじみ深い「一期一会」と言う言葉。
卒業式などのシーズンでもよく目にする言葉ですよね。
しかし、一期一会という言葉ですが、微妙に本来の意味とは異なって使われているとご存知だったでしょうか。
今回は一期一会のホントの意味と、その由来、そして仏教の無常観からみた解釈をお伝えします。
一期一会の意味
私たちが使う一期一会は「一生のうちに二度とない出会い」といった意味ですよね。
辞書で引いてみても次のように載っていました。
一生涯にただ一度会うかどうかわからぬほどの縁。出会いを大切にすることのたとえ。
(学研 四字辞典熟語)
「一期」はもともと仏教の言葉で「一生」という意味。「一会」は一回しかない出会いという意味なので、「一生に二度とはない出会い」という意味になり、そこから転じて「出会いを大切にしなさい」という教訓じみた意味を含むようになっています。
確かにこの意味で使われているのですが、由来をたどると「一期一会」はもっと深い言葉であることが分かりました。
次は「一期一会」の由来について詳しく見ていきましょう。
一期一会の由来とは?
もともと「一期一会」という言葉を使ったのは千利休であると言われています。
千利休自身はこの言葉を残していませんが、彼の弟子である山上宗二が著書「山上宗二記」の中に次のように書き残しています。
路地へ入るより出づるまで、一期に一度の会のように、亭主を敬い畏まるべし
(※現代仮名遣いに直してあります。)
「一期一会」はもともと茶道の言葉だったということですね。
同じ人が集まる茶会でも、同じ茶会は二度とない。だからこそ1回1回の茶会を一生に一度のものと心得よという意味でした。
つまり同じ人と会っていてもその「会うということ」は一生に一度であるから、大事にしなさいよと言う意味で、現在使われている「一期一会」よりももっと深いことを言っている気がします。(この点については後ほど詳しく見ていきます。)
井伊直弼が「一期一会」を広めた
そして江戸時代になり、大老の井伊直弼が「一期一会」という表現を残しています。
彼もまた、茶会での精神を「一期一会」という言葉で表していました。彼が書いた「茶湯一会集」には次のように書き記されています。
そもそも茶湯の交會(こうかい)は一期一會と言いて、たとえば、幾度おなじ主客交會するとも、今日の會ににふたたびかえらざる事を思えば、実に我が一世一度の會なり。
さるにより、主人は万事に心を配り、いささも粗末なきよう、深切實意(しんせつじつい)を尽くし、客にも此會にまた逢いがたき事をわきまえ、亭主の趣向何一つもおろかならぬを感心し、實意を以て交るべきなり。是を一期一會と言う。
やはりここでも「一度の茶会も二度とないのだからお客も、もてなす側もそれを心得て大切にしなさい」という意味で使われていますよね。
これが広まる中で現代のような意味に変わっていったのだと考えられています。
仏教の無常観に通ずるものがある
ここで注目したいのが元々の「一期一会」の意味です。
「毎回の出会いが異なるものであり、それが貴重である」というのは仏教の無常観にとても近い言葉だと思います。
仏教では「諸行無常」ということが教えられています。
「諸行」とは「すべてのもの」ということで、「すべてのものは常がなく続かない」という意味です。
例えば、私たちの前にある物質は何も変わらないように見えても原子レベルでは徐々に変化しています。私たちの身体でも同じです。新陳代謝を繰り返し、どんどんと状態は変化していきます。
そして、私たちの心も変わり通しで様々なことが浮かんでは消えを繰り返しています。すべてのものは無常なのです。
今回注目した「一期一会」という言葉はまさに仏教の無常をそのまま表した言葉のように感じます。
私たちは常がなく、続かない存在で1秒と同じ状態にはとどまってはいられない。そして悲しいけれど最後には死を迎える存在。
だからこそ出会ったことは貴重であり、こうして会えている一瞬一瞬はとても大切な瞬間なのだよと教えてくれているのが「一期一会」に込められた本当の意味なのではないでしょうか。
まとめ
今回は「一期一会」の本当の意味やその由来と、仏教の無常感からの解説をお届けしました。
当たり前のように会っている友人や家族ですが、その一瞬一瞬は二度と訪れることのないものなのです。
ましてや、私たちはいつかは必ず終わりを迎える存在です。その有限性があるからこそ、かけがえのない出会いを喜ばないといけないのだと思います。
このように聞くと「なんだか無常とか言って仏教は暗いな…」と思う方も多いかもしれません。
しかし仏教では、「無常を見つめることこそが、本当の幸福になる第一歩だよ」と教えられているのです。
すべてが無常の世の中に、崩れない幸せがあるのだと仏教では教えられています。
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