刀剣乱舞-ONLINE-(とうらぶ)のアニメ化第2弾『活撃 刀剣乱舞』第1話先行上映会が5月1日に開催されました。
ファンも予想外の審神者(さにわ)が登場することが明らかになり、キャラクターデザインも1人の登場人物に対して1人のufotableアニメーターが担当するという相当な意欲作であることが伺えます。
刀が人の形を得た刀剣男士の活躍を描く『刀剣乱舞-ONLINE-』は今年アニメ化が2作品予定されており、話題に事欠かない人気コンテンツ。
『活撃 刀剣乱舞』で登場が切望されている刀剣男士は多くありますが、”いち兄”こと「一期一振(いちごひとふり)」は特に人気の高い刀剣男士です。
『活撃 刀剣乱舞』でメインキャラクターとなることが確定している薬研藤四郎の兄でもあります。
特徴的な鮮やかな水色の髪、金色の瞳に王子様のような戦装束が目をひく外見です。
そして何よりも優しく穏やかなキャラクターに惹かれるプレイヤーが多く“ロイヤル”、“王子”とも言われ、強い人気のある一期一振ですが、実は公式設定画集「刀剣乱舞絢爛図録」にはこんな記述が。
いつも優しく穏やかな笑顔の人物だが、時折見せる表情にはどこか物悲しさが伺える。
優しい笑顔が印象的な一期一振が見せる悲しみの理由は何なのでしょうか。
彼が刀としての生の終わりに見た「豊臣秀吉」の生涯から分かる、一期一振の悲しみの理由について、今回は解説します。
「思い出は大坂城と一緒に焼け落ちました」豊臣秀吉の最期を語る一期一振
穏やかな優しい表情が印象的な刀剣男士・一期一振。
「~ですな」という独特な語尾の喋り方も、穏やかさがにじみ出ていて魅力的ですね。
短刀の名手・粟田口吉光が作った刀の中で、太刀はこの一振だけ作ったとされていることから”一期一振”という名が付けられたと言われています。
名刀だった一期一振は、朝倉家、毛利家と名だたる戦国大名の元を渡っていきます。そして毛利輝元から天下統一を果たした豊臣秀吉に献上されました。
刀剣男士たちは刀だった頃の記憶を持っていることが多いですが、一期一振は特に豊臣秀吉の元で過ごした日々についての発言が目立ちます。
私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀でございます。
吉光は短刀の名手でして、弟達はおおむね短刀です。
主だった豊臣秀吉は私を自分に合わせて磨上げて、今の姿になりましたが……
その頃の思い出は、大坂城と一緒に焼け落ちました。
天下統一を果たした秀吉に愛された、輝かしい思い出。
しかし実は、天下人と過ごした思い出こそが一期一振の悲しみの根源となっていることが、この自己紹介から分かります。
ゲーム開始時も、一期一振のログイン時のセリフはどこか物悲しい雰囲気が漂います。
露とおち 露と消えにし わが身かな
実はこの言葉は、豊臣秀吉が亡くなる時に残した辞世の句の一部です。
日本史に詳しい方はご存知かと思いますが、この歌には続きがあります。
露とおち 露と消えにし わが身かな 難波のことも 夢のまた夢
露のように儚く消えていく我が身。
天下統一という一生をかけて成し遂げた「難波(なにわ)のこと」は夢の中で夢を見ているような儚いものだった、と秀吉は言い残してこの世を去りました。
農民から出世を重ね、ついには日本中を治める天下人となった豊臣秀吉。
人間、死を目前にすると、元気なときには隠している本音が漏れるものでしょう。
しかし日本人なら誰もが知る歴史人物が最期に漏らした本心は、あまりに強い悲しさと虚しさで満ちています。
刀としての生の最期にみた、あまりにも儚い「天下統一」
私たち現代人は、恵まれた時代の恵まれた先進国で生きていますが、今の人生に100%満足している人は少ないでしょう。
毎日通勤電車に揺られ、仕事に追われながら思うことは
「もっと給料が増えたら」
「恋人がいたら寂しくないのに」
「もっと休みがあればなあ」
というように、”◯◯◯があれば、幸せになれるのに”という内容ではないでしょうか。
私も
「もっと収入があれば刀剣乱舞にいっぱい課金できるのに」とか
「時間とお金があれば東京の同人誌即売会に参加できるのに」とか
恥ずかしながら、毎日のように思います。
自分には今足りないものがあるが、それが揃えば幸せになれる!と私たちは思う訳です。
各人各様の「これがあれば幸せになれる」というものを日夜追い求めている現代人。
対して一期一振を可愛がっていた主・豊臣秀吉の人生は、そんな私たち現代人が追い求める幸福をすべて手に入れたものだったといえるでしょう。
秀吉の一生は客観的にみても、人類史上指折りのサクセスストーリー。
農民から大出世を果たし、日本全国を統治した秀吉は、手に入れた財と権力を欲しいままにし大坂城を築きます。
現代でも億万長者はいますが、一国すべてが自分の財産で、城まで持っている人はそうそう居ないのではないでしょうか。
「出会いがない」と婚活する現代人も多いですが、秀吉は本妻に加えて側室が何人もいましたので、究極のリア充です。
しかし晩年豊臣の天下には混乱と陰りが見え始め、政権の行く末に安寧の見えない中、跡継ぎの豊臣秀頼をくれぐれも頼むと徳川家康に託し豊臣秀吉は亡くなりました。
その徳川家康は秀吉の死後、託された秀頼を亡き者にし、大坂城は焼け落ちます。
一期一振が最期に見たものは、主が築いた天下統一の栄華が一瞬で崩れ去る、落城の炎だったのです。
一期一振は、天下統一ですら儚い幸福だったと思い出す(死亡セリフ ネタバレ注意)
一期一振は大坂夏の陣で一度焼けますが、その後豊臣家から天下と共に一期一振を奪った徳川家康によって再刃されています。
戦闘時に深手を負うと
「再刃されたせいか…」
と言ったり、演習戦で隊長を勤めると
「合戦の演習か。二度と負けたくないんだが」
といった発言をすることからも、一期一振にとって秀吉が築いた栄華の末路がいかに耐え難い結果であったかが伝わってきます。
やがて大坂城を焼き落とす家康に未来を託すしかなかった天下人の苦しみと、その栄光の儚さを知った一期一振。
幸せとは程遠い心で生涯を終え、一生かけて築き上げた栄華すら炎の海に消えていった、そんな悲しい人が秀吉だったのです。
現在は聞くことができませんが、稼働初期は聞くことができた一期一振の負傷(戦闘で負傷したとき)セリフには
ああ……炎が、何もかもが!
という発言があり、”いち兄”が日頃笑顔で隠している、本心が伝わってきます。
そして「刀剣破壊」(死亡)となり、刀剣男士としての死を目前にした一期一振が口にする「刀剣破壊ボイス」。
このセリフにも、秀吉が生涯頼りにし、すがった栄華の儚い末路が語られています。
ああ……世界が、燃えている……還るんだな、あの、炎の中へ……
一期一振が時折見せる悲しみの表情の理由。
それはどんな歴史に残る栄華もいつかは崩れてしまうという、この世の理を知っているからではないでしょうか。
若き日の秀吉にとっては、強い武将になって天下統一を果たすことは“人生の夢”だったことでしょう。
しかしそれは本当に人生をかけて実現すべき夢だったのでしょうか。
一期一振の台詞でもある秀吉の答えは
“露とおち 露と消えにし わが身かな 難波のことも 夢のまた夢”です。
仏教に説かれている天下統一より大事な“人生の夢”
秀吉も、その愛刀・一期一振もわからなかった、本当に命をかけて叶えるべき“人生の夢”とは何でしょう。
2000年以上前に、インドで皇太子として生まれたゴータマ・シッダールタという人があります。
若くして私たちが羨むような才能、財産、権力、家族を全て揃えた人生を送っていたシッダールタですが、人間が本当に求めるべき”人生の夢”はお金や地位、恋人や伴侶ではないことに気づき、煩悶します。
秀吉が最期に気付いたこの世の残酷な真実に、若くして気づいたシッダールタは、29歳で恵まれた人生すべてを捨てて出家し、35歳のとき、本当に人生をかけて達成すべき“人生の夢”を悟られました。
このシッダールタが「仏陀」、つまりお釈迦様です。
秀吉も知ることのできなかった本当の“人生の夢”は、お釈迦様が2000年以上も前に悟られ、その後伝えていかれた仏教の教えの中にあるのです。
一期一振の「一期」とは、一生という意味があります。
一生は刀を一振りする間に終わってしまうといってもいいくらい、終わってみればあっという間。
一期、一振する間に終わるあっという間の一生に何をすれば後悔しないのか。天下人の最期を見届けた一期一振は、私たちに問いかけています。
今年1月、刀剣乱舞二周年を記念して、一期一振に新しい台詞が追加されました。
二周年ですなあ。これだけ名刀が集まると、昔のことを思い出しそうになりますな
「昔のこと」とは亡き元主・秀吉と過ごした天下統一の夢の日々でしょうか。
秀吉が終ぞ知ることができなかった本当に追い求めるべき”人生の夢”。
また一期一振が悲しまなくて済むように、いまの主であるプレイヤー、審神者の私たちは、仏教から本当に大切な“人生の夢”を学びたいですね。