はじめまして。都内で公認会計士をやっている「まさよし」と言います。マンガと妻が好きです。
僕からは、昨年ニュースになり、今でも度々ニュース目にする東芝の不正会計事件を通して、仏教について話ができればと思います。不正会計事件と仏教という一見関係なさそうですが、その根底はつながってるんですよね。
そもそも不正会計とは何でしょうか。ニュースから解説したいと思います。
チャレンジ!東芝不正会計事件の概要
まずは事件の概略について説明します。ニュースで話題になっていたので、事件自体は知ってますよね。クローズアップ現代でも特集が組まれるほどでした。
東芝 不正会計の衝撃 ~問われる日本の企業風土~ – NHK クローズアップ現代+
東芝では長年に渡って、不正会計が行われていました。その間に、社長が3人いましたが、皆この不正を知りながら、そのまま放置していたそうです。
このような不正が行われた背景として、「チャレンジ」と呼ばれる予算制度があります。
一般的には、目標を掲げた方が、そうでない時に比べると、より努力できるものです。
それは組織でも同じですので、東芝も目標として予算を立てていました。至極当然のことですね。
ですが、東芝の場合は、とても達成ができないような無謀な予算が設定されていました。
とてもチャレンジする気も起きないような、達成しうる目標という本来の予算の意義とはかけ離れたものだったのです。
それにもかかわらず、達成できない時は社長が厳しく叱責していました。理不尽と言われて仕方ありません。
社長の機嫌を損ねては自分の立場が危ういと考えた社員達は、達成の困難な予算を達成したことにするために、虚偽のデータを作成して報告するようになりました。
それが長年続いていたのが、社員の内部通報で発覚しましたのが、今回の事件です。
「不正会計」とは何が問題なのか
ここで不正会計について解説しましょう。
不正会計とは簡単に言いますと、現実よりも業績を良く見せる為に、嘘をつくことです。
そもそもまず「会計」について説明します。
株式会社は年に何回か、その時点での業績を開示する必要があります。
例えば、一年間で売上が100億円、原価が70億円、正味の利益が30億円というように開示します。
この時に、売上や原価をどのようなルールに基づいて計算するのかは、日本や世界で取り決めた共通のルールがありまして、これを遵守して計算しなければなりません。このルールのことを、「会計」といいます。
会計ルールにはどのようなものがあるか、一例をご紹介します。売上の認識をいつにするかについて、「実現主義」という考え方があります。
例えば、A社がB社に商品を売り上げたとします。その売上は下記①と②のいずれに実現したと言えるでしょうか。
①A社が商品を3月31日にお客様であるB社に発送
②商品が4月1日にB社のオフィスに到着及び商品の中身に不備が無いかの検収完了
先ほどの実現主義と言いますのは、商品の売上が確実といえる段階で、売上を認識しなければならないというものですが、この2つであれば、一般的には②で売上が確実となったと考えることが多いです。
なぜならば、①の商品を発送した時点では本当にB社の元に商品が到着するのか、商品に不備があって返品となってしまわないか等が不確実だからです。
そのため、お客様が商品の内容を確認してOKといった検収完了時点で、売上は実現したものとして、売上計上することが一般的です。
上場企業であれば、会社のホームページのIR情報のページに、有価証券報告書、決算短信、四半期報告書等が掲載されています。これが会計に則り会社が作成した、会社の業績等の開示の為に作成された書類です。
会社の通知表の様なもので、利益だけでなく、会社グループの情報から従業員の平均勤続年数や給与等、様々な情報が載っています。
「不正会計」とは、会計のルールを守らずに、実際よりも業績を良く、或いは悪く見せることを言います。
具体的には、実際には年間売上が100億円の会社が、まるで200億円の売上があるように見せる、不正な会計操作を言います。
先ほどの例で言いますと、商品の検収が完了したのは4月1日のため、本来は4月の売上として認識しなければならない売上額を、3月31日に検収が終わったとする書類を偽造します。そうすると、まるで3月31日には検収が完了しているように見せられます。そして本来4月に計上すべきであった売上を3月に計上できるのです。
粉で化粧をして、業績を良く見せるということで、粉飾決算とも言われるゆえんです。
だから監査法人というものがあるわけです。
監査法人とは、公認会計士の集まった組織です。何千人と会計士を擁する大きな監査法人もあれば、10名に満たない小規模なものまで、様々です。
この監査法人の役割は、不正会計等が行われていないか、会社の決算書は正しく作られているかを監査して、決算書に、いわばお墨付きを与えることにあります。
よく、公認会計士と税理士って何が違うの?と聞かれるのですが、この監査で、決算書にお墨付きを与えることが法律上認められているのが、公認会計士の資格です。対して税理士は、会社や個人の税金計算を行うことが法律上認められている資格です。
なぜ不正会計をしてしまうのか
では、なぜこのような不正会計をするのでしょうか。
発覚すれば相当の罰金も払わないといけないですし、会社の社会的信用もガタ落ちです。
そのようなリスクを冒してまで危ない橋を渡るのは、それだけのメリットがあると考えてしまうからです。
考えられるものを何点かあります。
①上場企業は株価を一定以上に保たねば、上場廃止となる厳しいルールがあるため
株価は通常、業績が良いと上がりますので、株価が低迷するおそれがある場合には、これが不正のきっかけとなるかもしれません。
②社長であれば、自分の立場や報酬の保身がきっかけになる可能性があるため
社長は取締役会で選任されますが、業績が悪ければ解任されるかもしれません。また、株主から責任を追求されたりもします。報酬も下げられるかもしれません。
③会社には予算があるため
この達成をどの程度上司から求められるかは、会社によって異なります。しかし東芝のように予算を達成できなければ上から厳しく詰められるという企業風土ですと、部下はその追求を避ける為に、データを偽造し、結果的に不正会計に繋がる可能性があります。
④銀行からお金を借りる時は、業績が良ければ借りやすいですし、借入上限額や金利も有利な条件にしやすいため
資金繰りに困っている企業は、銀行からの融資を受けやすくする為に、不正を行ってしまうかもしれません。
以上は考えられるものの一部ですが、このような理由等により、不正会計は行われます。
東芝では、この不正会計が長年に渡って行われており、それが今回発覚し、ご存知のようにニュースで大々的に取り上げられる大事件となりました。
上記の例で言えば、③が主な理由とて不正が行われていたようです。
不正会計にみる、恐ろしい欲の心とは
この不正会計が行われる背景を説明しましたが、その根底には人間心理が大きく関わっています。
仏法では、煩悩と教えられています。
煩悩は全部で108つありますが、その中でも特に恐ろしいと言われるものが、貪欲、瞋恚、愚痴の3つで、これを三毒と言います。
この中の貪欲が、欲の心です。欲も実に多くありますが、今回の不正会計で大きく影響したのは財欲と名誉欲でしょう。
・財欲・・・一円でも多く儲けたいという心
・名誉欲・・・褒められたい、悪口言われたくない心
予算を達成できず、責任を取らされて首になったり減給になったりすれば、財欲や名誉欲を満たすことができません。
もちろん他の欲も関係するでしょう。
減給になれば、生活水準を下げて外食の頻度を減らしたり、日々の食卓に並ぶ料理のグレードも下げねばならなくなれば、食欲が満たせません。
首や降格になったりすれば、射止めたいと考えている異性が自分を見る目が変わるかもしれません。
結婚している人であるならば、生活に不安を感じるということで、場合によっては夫や妻から離婚を切り出されることもあると思います。
首や降格になったりすれば、先行きが不安になり、安眠が妨げられて、睡眠欲が害されるかもしれません。
不正会計に手を染めたと言っても、人によって状況は様々ですが、上記のような欲の心が必ず働いています。
そして恐ろしいのは不正会計に手を染めた人が、特別に煩悩が多かった、強かったわけではないのです。
「これくらいはいいだろう」というちょっとした不正をし、それが雪だるま式にどんどん大きくなっていきます。そして一人がよかれと思ったら、他の人もよかれと思って、不正を黙認します。ここまで大きな事件をもたらしたのです。その最初のきっかけは、みんな持っている欲の心なのです。
悪名高いナチスドイツのヒトラーは「欲望は膨張する」と語りました。キリも際もないのが欲望という煩悩なのです。恐ろしいから三毒と「毒」にたとえて言われているのです。
不正会計のニュースは、決して他人事ではありません。人間の欲深さ、ひいては自らの欲深さを知らされます。公認会計士の自分はなおさらです。