私はいわゆる腐女子です。
毎年コミックマーケットやコミックシティに参加、これまで読んだボーイズラブの漫画や小説、同人誌は一万冊を軽く超えるくらい、正真正銘の腐女子です。
今回は自分もその『腐女子』の心を、大人気アニメ『おそ松さん』をテーマに、仏教の視点から探っていきます!
おそ松さん 第一松 [Blu-ray]
「腐女子」ってなに?
「腐女子」といえば、年々知名度が上がってきている単語です。
「よく分からんけど聞いたことはあるなあ…」
「自分は共感できない変な趣味」
「あー、友達にそういう人いますよ!!」
「……呼んだ?┌(┌^o^)┐」
等々いろんなイメージがあるかと思います。
初めて聞きました、という方のために身も蓋もない説明をすると、腐女子とは「男性同士の恋愛を描いた『ボーイズラブ』が好きな女性」です。私も腐女子として10年以上生きています。
どうして「腐」という字が使われているかというと、
腐女子
漫画・アニメ等の美少年同士の恋愛を愛好する女性の事である。
また、この嗜好をボーイズラブ(BL)・やおい(801)・腐趣味と呼ぶ。
「腐女子」という名称は「こんな趣味で興奮してる私達は腐ってる」と当人達が「婦女子」をもじって自虐的に自称したものが始まり。
という、自虐の意味が込められています。
私が腐女子デビューした中学二年生のとき、ボーイズラブはマイナーな趣味でした。仕事で知り合った60代の『腐女子』の大先輩が20代だったときは、もっと「他人には言えない、社会の裏側の世界」という感じで、ボーイズラブ作品はなかなか一般には流通しなかったそうです。
しかし今日、ボーイズラブのマンガや小説のコーナーが無い本屋さんは珍しいくらい一般的になり、ボーイズラブ作品の映画化や実写化が相次いでいます。
腐女子たちを夢中にさせている六つ子「おそ松さん」
そんな腐女子たちを今、虜にしている人気のアニメといえば、やっぱり『おそ松さん』でしょう。
昭和時代の名作ギャグ漫画「おそ松くん」が、作者、赤塚不二夫さんの生誕80周年記念に26年ぶりにアニメ化されたのがこの作品です。
内容は「おそ松くん」で活躍した六つ子、松野兄弟が大人になった姿を描いた完全オリジナルストーリー。
放送が始まるやいなや豪華キャストや視聴者を驚かせるネタの連発から大きな話題を呼び、いまや爆発的人気となり、グッズやDVD等は売れに売れているようです。そんな人気の中、早々に第2クールの放送も決まり開始されました。
昨年末のコミックマーケット89では、早速二次創作同人誌がたくさん発行されていましたし、おそ松さんオンリー同人誌即売会の開催も決まりました。
私も友人たちから「内容が面白い上、キャラクターが魅力的で萌えるから見た方が良いよ!」と放送が開始されてすぐオススメされていたので、腐女子の友人の家で観賞会をしてきました。
すると、内容が面白いのは勿論なのですが、萌える要素が大量に溢れているではありませんか!!
Blu-ray&DVDパッケージへの収録が中止されてしまった第1話ではBLネタが堂々と描かれていましたし、他にも成人した六つ子が何故か同じ布団に寝ているわ、女体化するわ、書き出したら一万字は費やしそうなトキメキが溢れていました!
友人との萌えの違い
さて、友人Aと一緒におそ松さんを見ていたとき
「い、一松可愛すぎるやろ…!!マジ萌える!!一松は受けやわ!!」と思わず私は悶絶!
ところが友人は「やっぱり獄上ちゃんは王道なキャラクター萌えやなあw」と言うので、彼女が萌えるキャラクターを聞いてみたら
「私はイヤミやな~!イヤミ可愛いし、おそ松と仲良すぎるし!」とのことでした。
友人と私は小学生のときから幼なじみで、しかも立派に腐女子として成長してしまったという、いろんな意味で縁を感じる親友なのですが、そんな友人が、同じ作品にハマっても夢中になるカップリングが違うことが多々あるのです。
オフ会でも「獄上さんってハマるカップリングが本当に分かりやすいですね~。」「大体獄上さんが夢中になるカップリングって、性格が俺様で線が細い感じのイケメンが“受け”なカップリングですよね」と別の友人に言われたこともあります。
何のことか分からない方のために補足しますと、ボーイズラブはどちらも男同士の恋愛ですが、男役になる方を『攻め』、女役になる方を『受け』といい、カップルの組み合わせを『カップリング』といいます。カップリングはA×Bと表記し、この場合Aが攻め、Bが受けです。
よく「腐女子は男が二人並んでいたら何でも萌えるんだよな?」と思われる方がいますが、腐女子には強い萌えの”趣向”があります。
「A×B」は萌えるけど、「B×A」を見ると気分が悪くなる、「Aは絶対受けじゃないと萌えない」等々…。「A×B」に萌えている腐女子の友達が「B×A」にハマってしまい、「A×B」か「B×A」、どっちがより萌えるカップリングかを激しく口論した末に絶交してしまった!なんていう嘘のようなホントの話もあるそうです。
もちろん「ボーイズラブなら何でも萌えます!!」っていう人もいらっしゃいますが、腐女子と一口にいってもその萌えタイプは千差万別なのです。
確かに私の場合、性格が俺様かプライドが高い、もしくは強がり、というような性格のキャラクターが”受け”のカップリングにハマることが多かった気がします。この傾向から、今後私は「カラ松」に萌えるのでは?と予想する友人もあります。対して先ほどの友人は「ダメ人間」が“受け”、また外見はスラッとしたイケメンではなくぽっちゃりした感じの男性が萌えるそうです。
「腐女子はイケメン同士じゃないと萌えないんだろ、そんなカップル現実にいる訳ないよ」と思われる方は多いです。確かにイケメン同士の恋愛の方が萌える腐女子も多いです。しかし腐女子なら皆イケメンに萌えるのかと言われればそれは勘違いです。おそ松さんもイケメンがごろごろ出てくるようなアニメではありませんが、前述のように腐女子界でも爆発的な人気を博しています。
守備範囲が広すぎる!?腐女子の様々な萌えのジャンル
さらに「無機物萌え」というジャンルもあります。
無機物を擬人化するボーイズラブのことで、鉛筆×消しゴムとか、プラグ×コンセントとか・・・もう付いていけないんですけど!!という声が聞こえてきそうですが、なかなかのロマンがあるのだそうです。
たとえば『天井×床』。
天井くんと床くんは、毎日毎日見つめあっている。
でも天井と床である以上決して触れ合うことはできない・・・そして、二人(?)がやっと触れ合えるときは建物が取り壊される時だった・・・
互いが互いの存在意義を無くして初めて結ばれる・・・なんて切ない恋・・・!というロマンが秘められたカップリングだそうです!
このように一口に腐女子といっても、様々な萌えの趣向があるのが腐女子の世界なのです。
また腐女子になって10年以上経つ私がしみじみ感じることがあります。
それは全く同じ『萌えポイント』を持つ腐女子はいないということです。
10年以上コミケなど二次創作の同人誌を買って読んできましたが、似たような展開はあっても一冊として全く同じ内容の同人誌ってありませんでした。
なぜなら同じA×Bに萌えている腐女子でも異なった萌えの『価値観』を持っているからなのです。
同じ作品を好きになる腐女子でも「片思いから始まる展開がいい」「痴話喧嘩する二人に萌える」「三角関係に萌える」等、その「萌えポイント」、つまり妄想を膨らませたくなるポイントは人それぞれ千差万別な訳です。それゆえ同じ作品の二次創作同人誌でも、人によって作品の解釈が全然違うことは多々あります。
腐女子一人一人異なる解釈の多様性を楽しむのも、ボーイズラブ同人誌の醍醐味と私は感じています。
このように「腐女子」と一口に言っても、萌えるジャンルやカップリングは千差万別ですし、同じジャンルやカップリングに萌えている人でも、その人その人が萌えるポイントは違いがあるのです。
それはなぜでしょうか。仏教で解説したいと思います。
腐女子たちは「自分が生み出した世界」に生きている!?
仏教では「私たちは一人一人違う業界(ごうかい)に住んでいる」と言われます。
業界とはこれまでの経験や知識が生み出した世界のことです。
これまで身につけてきた知識や経験は一人一人違います。ですから、業界も一人一人まったく違うのです。
身につけたもの、触れ合ってきた人が全く同じ人はいませんよね。経験の中には意識して行ってきた行為もありますが、無意識のうちにしてきたこともたくさんあります。無意識のうちにしてきた行為でできた世界の中に生きているとなれば、おそ松さんのような六つ子でも同じ世界に生きることはできないですよね。六つ子は子供の頃は全く同じ顔、ほとんど同じ性格だったのですが、今放送されている『おそ松さん』で出てくる大人の彼らは性格や個性が6人とも全く違います。
同じ日に同じ母親から生まれたのに、成長した6人の性格が全く違うのは、業界が違うからではないでしょうか。
おそ松さんに夢中になる腐女子たちも同じ。六つ子の誰を好きになるかも、どの組み合わせを妄想するか、また彼らのどういう個性に惹かれるかも、6人×腐女子の数だけ=無限大だけある訳です。六つ子を取り巻くほかのキャラクターも含めるともっと無限大ですね。
それは裏返すとたとえ同じ『腐女子』という属性を持つ人であっても、自分の心を100%理解してくれる人はいないということでもあります。
唐突ですが、赤い髪のキャラクターといったら、誰を思い浮かべますか?
私はFateが好きなので衛宮士郎が真っ先に頭に浮かんでしまいますが、ラブライブ!の西木野真姫や、うたプリの一十木音也など、『赤い髪』のキャラクターで連想するキャラクターは人それぞれだと思います。『おそ松さん』幻の第一話で出てきたF6・六つ子の長男を思い浮べた人もいるかもしれませんね。
この記事を読んでおられる方一人一人に聞いてみたら、まさに十人十色様々なキャラクターの名前が出てくるでしょう。
これも業界の違いです。
同じように腐女子も同じ作品の同じキャラクターを見ていても
「何この六つ子、働けよ!」と思う人から「キャー!このダメニートっぷりが可愛いーーー!!守ってあげたい!!萌えーーーっ!!」と萌える人まで、その業界が生み出す感じ方は千差万別な訳です。
私達人間は皆一人一人違う業界に住んでいる。
腐女子も一人一人が違う業界に住んでいるからこそ、様々な妄想を形にし、生み出されるボーイズラブの書籍や同人誌の内容も、バリエーションが無限大な訳です。
何冊ボーイズラブ同人誌を読んでも、また他の同人誌が読みたくなってしまうのもこのためかもしれません。
人間には「自分のことを分かってもらいたい」という強い欲求があります。
それは腐女子も同じ。いろいろなツールを駆使して「自分と『萌え』が共感しあえる人」を見つけようとします。
実際に会って交流する訳でなくても、好きなカップリングの同人誌を買う心理の根っこには共感できる人に出会いたい!という欲求があるのではないでしょうか。
しかし人間は一人一人自分の業の生み出した世界に生きているので「この人は同じカップリングに萌えている人だから必ず仲良くなれる!」と思って交流を始めたはずなのに、何故かTwitterでブロックされてしまう、というような悲しいことも多々起こります。
さらにこれは、腐女子に限らず、すべての人に言えることで「この人だけは私の気持ちを全て分かってくれる!」なんてことは絶対にありません。
反対に自分と全く同じ経験をし、全く同じ価値観を持つようになった人もいないので、人に相談すれば、自分一人では思いつかなかった新しいアイデアが生まれることもある訳ですね。
「人間は一人一人自分の業の生み出した世界に生きている」ということを知れば、周りの人をもっと大切にし、助け合うことができるのではないでしょうか。