以前からすでに制作中であることが明かされている「劇場版『Fate/stay night』Heaven’sFeel」がなんと全三章立て、第一章は2017年公開ということが明らかに。
さらに「Fate」シリーズのアニメ最新作となる「Fate EXTRA Last Encore」の製作決定も発表されました。
「Fate/Extra」2017年にTVアニメ化決定 アニメーション制作はシャフト | アニメ!アニメ!
2004年にシリーズ最初の作品「Fate/stay night」が世に出てから10年以上が経ちますが、まだまだ根強い人気に押され、新作のリリースが決まったFateシリーズ。
そんなFateシリーズの人気をさらに爆発的なものにし、女性ファンも取り込んだスピンオフ作品に「Fate/Zero」があります。
その「Fate/Zero」に登場する人物を仏教の視点から深く考察、私たちが幸せに生きるヒントをお伝えしていくのがこのシリーズです。
※シリーズ第1回はこちら(この記事だけでも読めます)↓
衛宮 切嗣の人生から学ぶ「命の価値」|Fate/Zeroから学ぶ仏教
「愉悦!!」
という訳で今回はいよいよFateシリーズ裏の顔、英雄王が登場。
Fateファンが大好きなあの二人、「愉悦部」活動から分かる私たち人間の本質について、仏教の視点から深読みしていきます。
※前回同様、「これからFate/Zeroを見ようと思っているので、ストーリーの内容を知りたくない!」という方はお気をつけ下さい。
綺礼の運命を狂わせた男、ギルガメッシュの「愉悦部」
前回まではFate/Zeroの重要な登場人物であり、エリート聖職者の言峰綺礼の姿を追いながら、仏教では「本当の私」はどのような姿だと教えられているかをお伝えしていました。
今回からはその綺礼の運命を大きく狂わせていった人物、ギルガメッシュと綺礼の出会いがテーマです。
「Fate/zero」での二人の活躍は、ファンから「愉悦部」という愛称で親しまれています。
愉悦部とは (ユエツブとは) [単語記事] – ニコニコ大百科
ニコニコ動画で「愉悦部」を検索すると、250件以上の動画がヒットし、100万回を超える再生数の動画もあるほど。
そんな「愉悦部」の活動を、今回と次回は「Fate/Zero 2 英霊参集」の内容をテーマに、仏教の視点から考察していきます。
どんな願いも叶えることができる「聖杯」を巡って魔術師たちが死闘を繰り広げる「聖杯戦争」。
敬虔な神父である綺礼の父、璃正は聖杯戦争の監督を表向きは務めながら、水面下では、神に背くような願望を叶える者が現れないよう策略を巡らせていました。
そんな父親の意向に従い、父親の友人である遠坂時臣をサポートするために、聖杯戦争という命がけの闘争に参加することになった綺礼。
スパイ活動に特化したサーヴァント(使い魔)の「アサシン」を駆使、時臣の敵である他のマスターたちの動向を情報収集し、 師匠である時臣にも、父親である璃正からもその活躍は賞賛されていました。
しかしいくら修練を積んでも分からない「『本当の私』を知りたい」という綺礼の幼少期からの心の闇は、聖杯戦争に参加してもなお、晴れることがありませんでした。
そんなある日、自室に戻った綺礼は、驚きの光景を目にします。
「―――アーチャー?」
燃え立つような黄金の髪に紅玉の如き双眸。他でもない遠坂 時臣のサーヴァント、英雄王ギルガメッシュである。
「数こそ少ないが、時臣の部屋よりも逸品が揃っている。けしからん弟子もいたものだ。」
「・・・・・・・・」
その来訪の意図を判じかねたまま、綺礼はテーブルの上にずらりと並べられた酒瓶の列を見渡した。どうやら部屋にあるボトルを片っ端から持ち出して利き酒をしていたらしい。
傍から見れば意外過ぎる側面と思われることだろうが、綺礼は極上の美酒だと聞けば、ひとまずは購入してみるという奇癖があった。酒というのは、質を追求しだせば底抜けに奥深い世界だ。
ともすれば或いは、彼の心の空洞を満たすほどの味覚というのがあるのかもしれない。
もしそんな出会いがあるならば、いっそ酒精に溺れるのも悪くはない、と―――この袋小路に行き詰まった求道者は、半ば本気でそう思っていたのだ。
綺礼の部屋には何故かギルガメッシュ(アーチャー)がいて、勝手に綺礼のお酒を飲み散らかしていました。そして綺礼は、いっそ酒に溺れてみようかと思うくらいに、「本当の私」が分からないことに苦しんでいたようです。
ギルガメッシュは強力なサーヴァントで、その戦闘力を目当てに時臣はギルガメッシュを召喚したのですが、このギルガメッシュ、傍若無人かつ傲慢な性格で他人を「雑種」と見下し、時臣の性格を退屈だと不満に思い言う事を聞きません。
この日も主人である時臣の屋敷を勝手に飛び出し、夜の街を遊び歩いていた帰りだったようです。
最初は勝手に自室を荒らされたことに不快感を抱いた綺礼ですが、ギルガメッシュの強いカリスマ性に次第に流され、彼の気ままな振舞いを容認していきます。
頭脳明晰な綺礼が狼狽えたギルガメッシュの鋭い一言
時臣をサポートするために戦争に参加した綺礼を除いて、時臣をはじめとする他のマスターたちは「あらゆる願いを叶える聖杯」を勝ち取るために聖杯戦争に参加しています。
ギルガメッシュは、時臣以外のマスターがどんな願いを叶えるために戦争に参加しているのかと綺礼に問いかけます。
「他の連中が求めているのは、総じて浮世の名利であろうよ。威信、欲望、権力・・・・・・すべて世界の“内側”だけに完結する願望だ」
「結構ではないか。どれも我が愛でるものばかりだぞ」
「おまえこそは俗物の頂点に君臨する王だな。ギルガメッシュ」
「そういうお前はどうなのだ?綺礼、聖杯に何を望む?」
そう問われて、はじめて綺礼は虚を衝かれた。
「私は―――」
綺礼はどんな願いも叶えると言われる「聖杯」に選ばれ、ある日右手に選ばれた証である聖痕が刻まれます。
しかし神学校を首席で卒業するほどの頭脳を持ち、神への信仰の深さも周囲から称賛されても「本当の私」が分からず苦悩していた綺礼は、叶えたい願いや希望は一つも無かったのです。
そう、最大の疑問だ。何故に言峰綺礼の右手には聖痕が刻まれたのか?
「私には・・・・・・別段望むところなど、ない」
迷いを含んだ綺礼の返答に、アーチャーの赤い瞳が妖しく光る。
「それはあるまい。聖杯は、それを手にするに足る者のみを招き寄せるのではなかったか?」
「そのはずだ。が・・・・・・私にも解らない。成就すべき理想も、遂げるべき悲願もない私が、なぜこの戦いに選ばれたのか」
「それが迷うほどの難題か?」
綺礼の硬い表情を茶化すかのように、アーチャーは失笑した。
「理想もなく、悲願もない。ならば愉悦を望めばいいだけではないか」
「馬鹿な!」
綺礼が声を荒げたのは、まったくの無意識のうちだった。
「神に仕えるこの私に、よりにもよって愉悦などーーーそんな罪深い堕落に手を染めろと言うか?」
綺礼は幼少期から神への信仰の道に生き、成人してからは“神に背いた罪人”を、「代行者」として処刑する役目を担い、日々鍛錬と修行に励んできました。
そんな彼にとって「叶えたい願望が無いなら、愉悦を満たせばいいじゃない」というギルガメッシュの発言は到底受け入れられるものではなかったのです。
神学校を首席で卒業するほどの頭脳を持ち、普段は冷静な思考を持つ綺礼が、思わず感情的に反論したのを見て、ギルガメッシュはますます面白がるように切り返します。
「罪深い?堕落だと?」
色めきだった綺礼を前にして、アーチャーはますます面白がるように底意地の悪い笑みを返す。
「これはまた飛躍だな、綺礼。なぜ愉悦と罪とが結びつく?」
「それは・・・」
綺礼は返答に詰まった。 同時に、いったい自分がいま何に触発されて狼狽を露わにしてしまったのか、それすらも解らず途方に暮れた。
問いかけに答えられず、狼狽える綺礼にギルガメッシュはさらに追い討ちをかけます。
「なるほど悪行で得た愉悦は罪かもしれん。だが人は善行によっても喜びを得る。悦そのものが悪であるなどと断じるのは、いったいどういう理屈だ?」
“愉悦は罪深い堕落であり、敬虔な信徒である自分の心にそんなものはない“と言う綺礼に対し、この後ギルガメッシュは巧みな話術で綺礼の主張の隙を突いていきます。
「愉悦部」部長、ギルガメッシュが見抜いた綺礼の長年の疑問
ギルガメッシュは
“お前は、人間の本当の姿が分かっていないから「愉悦などという罪深い堕落は自分の心の中に無い」と思っているが、それは間違いだ”
ということを諭しながら、人間の本当の姿を綺礼に教えていきます。
そして実は仏教には「煩悩」という言葉でギルガメッシュが言わんとしていることが明らかに教えられています。
「煩悩」とはどういうことなのか、そして長年修練を続けてきた綺礼も分からなかった人間の「本当の姿」とは?
引き続き後編でお伝えしていきます。
この後ギルガメッシュは綺礼の人生を変えることになる、ある台詞を口にします。それは長年の修行で培った綺礼の固い信念をグラグラと揺さぶり、彼の人生を大きく変えるほどのものでした。
後編はカギとなるその台詞から、人間の本当の姿を仏教の視点から深く考察していきます。