時は西暦2205年。
歴史改変を目論む、時間遡行軍を殲滅するために
刀剣より生まれし我らが、今日も死闘を繰り広げるーーー
人気アニメ「刀剣乱舞 花丸」。
原作「刀剣乱舞-ONLINE-」はDMMゲームズとニトロプラスが共同製作、名刀を擬人化した「刀剣男士」を育成するシミュレーションゲームです。
リリースされて2週間ほどでサーバー全てが収容人数上限に達し新規受付を停止、半月で登録者数が50万人を超えたことが大きな話題を呼び、新聞にまで掲載されました。
モチーフとなった刀剣が収蔵されている博物館には「刀剣女子」と呼ばれるファンが殺到、刀剣関連書籍の売上まで急に伸びるなどその人気は社会現象となり「刀剣女子」という単語は2015年新語・流行語大賞にノミネートされています。
そして今年10月。
満を持して、ついにアニメ化。
現在放送中の動画工房がアニメーション制作を担当する「刀剣乱舞 花丸」に続き、来年は数々の大ヒットを生み出してきたufotableによるアニメ化も決定、ますます人気に火がついている「刀剣乱舞」。
圧倒的な人気っぷりの要因は「刀がイケメンになったから」という単純な理由だけではない、刀剣男士たちの個性豊かなキャラクター性にあります。
今回は「刀剣乱舞 花丸」でメインキャストとして活躍する加州清光を解説。
外見のかわいさを超えて、多くの女性を惹きつける刀剣男士の魅力を考察。
清光が苦しむ“愛されたい心”の本質を深掘りします。
「可愛くしているから大事にしてね」最初の刀剣男士・加州清光
俺、加州清光。川の下の子、河原の子ってね。
扱いにくいが性能はピカイチ、いつでも使いこなせて可愛がってくれて、あと着飾ってくれる人大募集してるよ。
加州清光は原作ゲームで、スタート時に選択できる刀剣男士の1人です。
ファンからは「ヤンデレ」とも言われるほど、主に可愛がられたい心があふれる自己紹介。
母性をくすぐられ、選択した審神者(プレイヤー)も多いことでしょう。
公式サイトの紹介には
貧しい環境で生まれたせいか、綺麗にしていれば主に可愛がってもらえると思っている。
という解説があり、ルックスも赤いネイルにハイヒールです。
「可愛くしているから、大事にしてね」
「…こんなにボロボロじゃあ…愛されっこないよな…」
「修理してくれるって事は、まだ、愛されてんのかな」
などのセリフからも、主人に愛されようとする清光の心は至る所に見え隠れします。
重宝されるため日々努力する姿はファンからも「世界一かわいい」刀剣男士と愛されており、アニメでもメインキャストとしてオープニングを飾りました。
そんな彼の心理描写はアニメで更に細かく描写されています。
ある日加州清光は、同室の仲間・大和守安定と会話しながらネイルのお手入れをしていました。
加州清光「できた!!いいじゃんいいじゃん、どう?」
大和守安定「可愛いんじゃない?」
清光「ちょっと!!もっと具体的に褒めてよね。爪紅が?いつもと?す~こ~し?」
安定「色…が…違う!」
清光「はい、正解。
やっぱりこういう努力が必要だよね。主にたくさん使ってもらうには」
安定「それって、可愛いくしてるから?」
清光「そりゃそうでしょ。お前だって可愛くないより可愛い方がいいだろ?
おかげでこの本丸で一番場数踏んでるの俺だし。
主には感謝してるんだよね。
でも…主に可愛がってもらえるのも今のうちかも」
主に可愛がってもらうため爪の先までオシャレを怠らず、磨いた可愛さで重宝されていると信じて疑わない。
そんな加州清光ですが、一つ、大きな悩みがありました。
最も美しい名刀・三日月宗近の登場が清光の心を曇らせる
「俺の名は三日月宗近、よろしく頼む」
「三日月!?」
「歴史の荒波を乗り越えてきた名物中の名物。
天下五剣の中で最も美しいと言われる…三日月宗近…」
新しい刀剣男士を呼び出す儀式・鍛刀。
今回の鍛刀は大物の刀剣男士が召喚されると予想され、本丸の刀剣男士たちは沸き立っていました。
呼び出されたのは、本丸の主が待ち望んでいた名刀・三日月宗近。
加州清光「うちの主、三日月宗近が早く来ないか、ずっと心待ちにしてたんだ。
今頃きっと喜んでるだろうな」
大和守安定「それは良かったね」
清光「…ったく、単純だなお前は。
三日月が来たら、俺たち可愛がってもらえなくなるかもよ」
そこへ主からの出陣命令が下ります。
部隊結成は、隊長は三日月宗近、その下に加州清光、五虎退。
出陣先は慣れた戦場でしたが、加州清光は浮かない顔をします。
主は三日月がよっぽど可愛いんだ。
早く強くなって、この本丸の中心として戦ってほしいんだろう…
俺はその手助け…いうなれば裏隊長か。
来るなり隊長に任命されるなんて、三日月宗近は主に溺愛されているに違いないと清光の心は沈みます。
三日月宗近は原作ゲームでもステータスが高水準。外見も、天下五剣の中で最も美しいと言われるだけあって非常に美しい容姿をしています。
キービジュアルも飾っているため、ゲームをやったことはなくても三日月宗近の顔は見たことがあるという方は多く、まさに「刀剣乱舞の顔」といえるキャラクターです。
主に可愛がってもらうため「可愛さ」を磨いてきた清光にとって、自分より強く美しい三日月は脅威であり、最愛の主に愛されなくなるのではないかという不安が清光を襲っていたのでした。
清光を苦しめる「我利我利」の愛欲
誰かに愛されたい心は、自分一人が愛されたいという性が隠れています。
この性質を仏教で「我利我利(がりがり)」といいます。「我」は自分一人、「利」は利益、もっと広くいえば幸せのことです。
自分一人が想い人や尊敬する人に愛され、幸せになりたい心を「我利我利」といいます。
誰かに愛されたい心、つまり「愛欲」は、自分一人が愛されたいという本性抜きにして成り立ちません。
自分を愛していた恋人や夫や妻の心が変わると、私たちは激しい怒りを感じます。
その怒りは愛する人よりも、自分が愛されたい欲を妨げた恋のライバルや、夫や妻を奪っていった相手に対し、より強くなるのではないでしょうか。
清光にとってはまさに三日月宗近がその相手ですが、主に待ち望まれた名刀に対して堂々と怒りをぶつける訳にもいきません。
自分一人愛されたい欲が妨げられ、怒ることもできない相手に出てくる心、それは嫉妬の心です。
清光はこの嫉妬の心で端から見てもわかるほどにピリピリとした態度をとってしまい、戦でも周りが見えなくなります。
周囲の敵の配置を見誤り、戦局はピンチに。
五虎退がトドメを刺されそうになったとき、マイペースに笑っていた三日月宗近の表情が一変。
「真剣必殺」を発動した三日月は周囲の敵を一瞬で一掃します。
俺…何が裏隊長だ…三日月宗近は、別格だ…
美しく強力な刀剣男士・三日月宗近は、清光が苦戦した戦況を一瞬で変えてしまうほどの強者でした。
自分に敵う要素は何一つない。
清光は強く歯を噛み締め、当たり散らすように周囲の敵を切っていったのでした…
清光の抱く“愛欲”の苦しみが女子の心を惹きつける
愛されたい心である「愛欲」、そして愛欲を妨げる者に吹き上がる心「嫉妬」。
これらは何も刀剣男士の清光だけでなく、人間が皆が持っているのであり、総称して「煩悩(ぼんのう)」と仏教では教えられます。
除夜の鐘を鳴らす回数でも知られるように、煩悩はどんな人にも108ある「人間を煩わせ、悩ませる心」のこと。
”愛されコーデ”や“愛されメーク”という言葉が女性向け雑誌によく出てくるように「自分だけが愛されたい」という煩悩は、刀剣乱舞に夢中な女子たちも持っています。
また恋人や友人、職場の上司や仲間に嫌われたくない、嫌われてしまったらどうしようという不安も煩悩によるものなのです。
愛されたい心をジャマする相手を疎ましく思う嫉妬の心も、もちろん誰もが持っています。
しかし清光のように表に出してしまうと人間関係や仕事に支障が出るので、現代女子の多くは、愛する人や尊敬する人に「私だけを見てほしい」と思う欲の心を必死に押さえ込んでいるのではないでしょうか。
そんな女性たちが悩み苦しむ愛欲や嫉妬の心を露わにし、ひねくれてピリピリしたり、苦しんでしょんぼりしたりする清光。
女性たちが普段なかなか表に出せない心を素直に表し、苦しむ姿に刀剣女子たちは共感し、「世界一かわいい」と思うのかもしれません。
清光を深く悩ませる「愛欲」と「嫉妬」の煩悩。
次回は繊細な清光の心理をさらに詳しく分析しつつ、私たちも苦しんでいる煩悩の実態と、向き合い方について解説していきます。