【2019/09/27更新しました】
「チケット当選しました…」
というLINEを見たとき、電車の中で「マジで!?」と叫びそうになりました(笑)
LINEは友人からで、刀ステ最新作「舞台『刀剣乱舞』慈伝 日日の葉よ散るらむ」のチケット当選報告でした。
友人は映画鑑賞やライブ鑑賞など、様々なサブカルチャーに精通している男性で、刀ステの過去作品も円盤で特典映像までしっかり鑑賞してから、満を持して劇場に。
劇場に入った直後は「僕、場違いじゃないですかね…女性しかいない…」と最初、不安そうな面持ちでした。
しかし終劇後は
「鑑賞できて本当に良かった。女性向け作品とくくるには勿体無い深い物語でした」
と感動され、記念にグッズも購入されていました。
世間一般ではまだまだ「女性向け作品」というイメージが根強い「刀ステ」。
初鑑賞の男性から見て、刀剣男士たちのドラマはどのように写ったのでしょうか。
「刀剣女子」だけでなく、幅広い層の観客の心を掴む「慈伝」の魅力を改めてお伝えしたいと思います。
※本文中の「慈伝」のストーリーは7月6日の大阪公演、7月12日の兵庫公演、アーカイブ配信で6月23日の東京公演を鑑賞させて頂いた筆者が内容をご紹介しています。
(セリフ紹介等に誤りがある可能性がありますが「戯曲」が発売されたら修正させて頂く予定です)
『映画 刀剣乱舞』がきっかけで刀ステに!男性の友人と刀ステに行ってきました
「舞台『刀剣乱舞』」通称「刀ステ」はDMMゲームズとニトロプラスによる刀剣育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』を原作とする演劇作品です。
『刀剣乱舞-ONLINE-』は様々なジャンルにメディアミックス展開し、今年はついに映画化されました。
映画化作品『映画 刀剣乱舞』が上映されていた頃、「20回見ました!まだまだ見に行きます!」という筆者の投稿を見た友人は「そんなに面白いなら見てみようかな」と映画館に。
通算3回『映画 刀剣乱舞』を鑑賞した友人は「刀ステ」にも関心を持ち、激戦で知られるチケット抽選に初挑戦し、見事当選しました。
役者さんの表現力や殺陣に感動していたのは勿論ですが、友人は刀剣男士たちの人間ドラマにも深く感銘を受けたようです。
中でも友人が特に惹き込まれていたのは「慈伝」初登場のキャスト〈謎の人物〉でした。
【慈伝あらすじ・ネタバレ注意】刀ステ本丸に現れた〈謎の人物〉山姥切長義と山姥切国広の複雑な関係
「舞台『刀剣乱舞』慈伝 日日の葉よ散るらむ」は前作『悲伝 結いの目の不如帰』の後、〈新たな本丸〉で刀剣男士たちが過ごす日々を描いた物語。
「悲伝」で時間遡行軍に奇襲された本丸を後にし、新たな本丸へ引っ越してきた刀剣男士たちのところに、時の政府から特命調査という特別任務が下されます。
任務を達成した刀剣男士たちが戻った本丸には、原作ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』と同じく、新たな仲間山姥切長義がやってきました。
山姥切長義。それは刀ステシリーズの主人公ともいえる山姥切国広と切っても切り離せない因縁の存在です。
【新刀剣男士公開 山姥切長義(やまんばぎりちょうぎ)】(1/2)
備前長船長義作の打刀。長義は長船派の主流とは別系統の刀工となる。写しであると言われている山姥切国広と共に伯仲の出来。美しいが高慢。より正確に言えば自分に自信があり、他に臆する事がない。 #刀剣乱舞 #とうらぶ #新刀剣男士— 刀剣乱舞-本丸通信-【公式】 (@tkrb_ht) November 9, 2018
同じ刀剣を模して打たれた「写し」である山姥切国広、通称まんばちゃん(以下山姥切国広をまんば、山姥切長義を長義と表記)は人の身を得たときからずっと「写し」であることにコンプレックスを抱いてきました。
まんばちゃんにとって、まさにコンプレックスの元凶ともいえる存在が長義です。
これまでの「刀ステ」作品でも、シリーズの中心的存在まんばちゃんの写しコンプレックスには何度か焦点が当てられてきました。
筆者が特におすすめしたいシリーズ4作目『外伝 此の夜らの小田原』では、「山姥切国広」を作ることを命じられた刀工との出会いを通して、まんばちゃんが自身のコンプレックスに向き合っていく姿が描かれています。
※こちらのコラムでも『外伝 此の夜らの小田原』の魅力をご紹介しています。
実は「刀ステ」では原作ゲームで実装される前から、「外伝」で「長義(ちょうぎ)」という名前が登場していました。
『外伝 此の夜らの小田原』でもまんばちゃんを気にかけていた仲間・へし切長谷部は、『慈伝』で本丸にやって来た長義と会うことでまんばちゃんのコンプレックスがぶり返すのではないかと懸念します。
長谷部の必死な形相を見て同田貫正国、山伏国広もまんばちゃんのメンタルを守ろうと奔走するように。
しかし(酔っている)大包平の一言により、長義は長谷部たちの行動の真意に気づきます。
長義「なるほど…そういうことか
どうもさっきから様子がおかしいと思ってはいたが…
俺と彼とを会わせないようにしていた訳か
この本丸の近侍が誰であるかくらい知っている
ここに来る前に、この本丸の内情については把握させてもらっている」
同田貫正国「知ってたのか…!」
長義「勿論知ってたさ…ここに偽物くんがいることくらいはね」
長谷部が心配していた通り、長義はまんばちゃんのことを見下して「偽物くん」と呼び、それを聞いた同田貫正国は激昂します。
「山姥切国広は俺たちの近侍だ!
マンバをコケにするなら、俺たちはお前を受け入れることはできない!」
カッとなった同田貫は長義に掴みかかろうとし、一触即発の事態に。
原作でも長義はまんばちゃんのことを「偽物くん」と呼びますが「慈伝」では仲間たちが必死にまんばちゃんを守ろうとしていたことを知ったことで、さらに言動が高圧的になります。
まんばちゃんに部隊戦での勝負を吹っかけ、勝ったら「山姥切」という呼び方は自分に使うよう求めるという強硬な態度になっていきました。
長義の作戦は中々良い線をいっていましたが、結果的に長義が率いた部隊は敗北してしまいます。
納得のいかない表情の長義を見たまんばちゃんは一対一で刃を交わし、長義は何度も打ちのめされるも
「俺は…山姥切長義…俺こそが…長義が打った本歌、山姥切だ!!」
とまんばちゃんを挑発。
南泉一文字が何度倒れても諦めようとしない長義を諭し、ようやく敗北を認めます。
原作ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』で「特命調査 聚楽第」が始まってすぐの頃。
最速クリアしたお友達が「絶対好きなキャラだからクリア頑張って」と教えてくれたほど、筆者は山姥切長義というキャラクターが大好きです。
大好きだからこそ、高すぎるプライドをへし折られ地を這う長義の姿は涙無しでは見られませんでした。
そして「長義を初めて見る」男性の友人が「慈伝」の長義に、どんな印象を持つのか不安もありました。
ところが友人が「慈伝」で惹き込まれた登場人物として真っ先にあげてくれたのが、なんと山姥切長義だったのです。
同じ男性だからこそ共感できる?山姥切長義の「意地」に見る、まんばちゃんへの強い羨望とネタミ
「雰囲気の良い繋がりの中心にマンバくんがいたのを羨んで意地になってしまった初代山姥切くんの姿。
実力差を目の当たりにしても、引くに引けなくなっていく…
その様子が、他人事には思えませんでした。」
真っ先にこんな感想を言ってくれた友人は、共通の友人からも一目置かれる穏やかで人徳のある方です。
筆者はこの感想をお聞きしたとき「この友達が長義に共感してくれるなんて」と驚いたのを覚えています。
友人が特に惹き込まれたのは「第四話:意地と意地」で長義がまんばちゃんを羨み、ねたむ心を剥き出しにして「意地」を通そうとする姿だったそうです。
「自分より優れた人を妬む心を隠して、良い人に見せようともがき苦しんでいる人は現代社会に多いと思います。
そんなネタミの心を剥き出しにする山姥切長義くんの姿には、惹き込まれるものがありました」
この友人の言葉を聞いて、筆者は「愚痴」という言葉を思い出しました。
「愚痴」と聞くと”愚痴を吐く”というように、不平不満を言うという意味で使われていますが、元々は仏教用語です。
「愚痴」とは妬みや恨みの心で、煩悩のひとつ。
仏教ではどんな人にも108の煩悩があり、死ぬまで減ることも消えることもないと説かれています。
108の中で最も私たちを苦しめる煩悩のひとつが、愚痴の心です。
友人のようないつも穏やかな方も、愚痴の心が無い訳ではなく、妬みの心を隠すことで周りの雰囲気を良くしようと日々苦労されているのだと思います。
長義くんのように妬みの心を全開にすると、人間関係が険悪になることも多いので、私たちは日頃、愚痴の心を人に知られないよう必死に隠しています。
愚痴の心は自分より優秀な人、幸せそうな人に対して吹き上がってくる毒のような心。
原作でもまんばちゃんに食い気味な長義くんですが、「慈伝」では長義くんの妬みを吹き上がらせる事態が重なります。
一つは近侍という誉れ高い役目をまんばちゃんが勤め上げていたこと。
二つ目は仲間たちと堅い信頼関係で結ばれていることが長谷部たちの姿から分かったことです。
「政府から寄せられた情報では、この本丸は特に個性的だと聞いてはいたが…
聞くと見るとでは大違いだな」
と長義くんが口にしている場面があります。
自身が顕現することになる本丸がどんな雰囲気かと、政府の資料を見て本丸に行く日を楽しみにしていたのかもしれません。
期待に胸を膨らませて赴任した本丸で、長義くんは近侍に挨拶したいと言ってもはぐらかされ、いきなりマントで頭部を覆われるなど不可解な事が立て続けに起こります。
さらに挙動不審な長谷部たちの行動は、まんばちゃんのためだったことが判明。
決して最初から長義くんのプライドを傷つけるために長谷部たちは動いていたのではありません。
まんばちゃんが「長義」という存在に対して、どれだけ苦しんできたかを知っているからこその行動でした。
しかし長義の気持ちだけを考えてみると「本歌の俺に対する扱いがコレか」という心が吹き上がってしまうのも無理はなかったのかもしれません。
次郎太刀や大般若長光、南泉一文字のあたたかい好意も受け取れない…長義の心を陰らせる「愚痴」の恐ろしさ
長谷部たちはまんばちゃんを守ろうと奔走していましたが、一方で長義のことを心から歓迎する刀剣男士たちもいました。
例えば大般若長光は来たばかりの長義を優しく案内し、次郎太刀は口では「飲む理由」と言いながらも、長義が本丸に馴染めるよう気を遣って宴会の席を設け、あたたかい言葉をかけています。
また長義がまんばちゃんを直接侮辱し始めたときも南泉一文字は
「こいつ、引くに引けなくなってるだけなんだよ!
後から絶対『なんであの時あんなこと言っちゃったんだろ』ってなるから〜!」
と間に入っており、折々に長義の立場が危うくならないよう気遣いをしている場面があります。
決して本丸の仲間たちがまんばちゃんだけを守ろうとしていたのではなく、長義に寄り添っていた刀もあったのです。
しかし長義は自分に向けられた純粋な好意も受け取れなくなっていました。
心が愚痴でドロドロになっていた長義は「可哀想な存在と同情されている」と捉えてしまっていたのかもしれません。
客席から見ている私たちの視点から見れば、大般若や次郎太刀、南泉一文字の行動は純粋な思いやりから出ていることは分かります。
長義くんは元来、人の好意を素直に受け取れないような刀剣男士ではありません。
「持てる者こそ与えなければ」
というセリフからも分かるように、「本歌」の刀としての血統に恥じない振る舞いをポリシーとしているのが本来の長義です。
しかしそんな長義の美徳も一瞬で吹き飛ばしてしまうのが妬みという恐ろしい「愚痴」の心なのです。
長義のことを案じていた南泉一文字はそんな「愚痴」の心を「化け物みたいな心」と表現しています。
長義「猫殺し…?」
南泉一文字「ああそうだ…俺は猫殺しだ!
だから猫の呪いを受けた…
でも、その呪いに負けないように頑張ってんだ!
お前は…化け物を殺したから心が化け物みたいになっちまった…
だけど!心を化け物にするんじゃねえ!」
ノブレス・オブリージュの精神を持つ長義くんの心を「化け物」にするほど恐ろしいのが「愚痴」の心なのです。
「山姥切国広」を見つめることは、妬みの心で苦しんでいる長義が幸せになる第一歩
「同じ男性として、自分より能力が優れている同性へのネタミの気持ちはよく分かります。
しかも後陣に抜かれる屈辱は大変なものです。
男性は容姿や所持品より、能力に対するコンプレックスが強いんじゃないでしょうか。」
長義の姿にとても惹き込まれたという友人は、こんな感想も伝えてくれました。
長年とうらぶファンな筆者は当たり前で気づかなかったのですが、刀剣男士は全員男性ですよね。
長義にとってまんばちゃんは、自分と同じ男の姿で顕現した刀剣男士であり、自分を模して作られた存在。
いわば自分を元にして作った、クローンのような存在なのです。
「愚痴」の心は、自分に近い相手ほど強くなると仏教では教えられています。
「写しと本歌」という関係性は、友達や後輩、兄弟といった、現代に生きる私たちの周りで想定できるどんな存在より「近い」相手といえます。
自分を元にして生まれた存在が「国広の第一の傑作」と賞賛される名刀になったのも、長義は元々気に食わなかったでしょう。
さらにそのクローンが主に選ばれて最初に顕現した本丸で、仲間から信頼される頼もしい近侍であることも目の当たりにした訳です。
それはまさに友人が言う「優秀な後進に抜かれる男の苦しみ」そのもの。
「本歌」として高い矜持を持つ長義にとって、吹き上がった妬みは想像を絶するものだったでしょう。
楽しみにしていたであろう本丸生活が、愚痴の心で苦しいスタートになってしまった長義くん。
長義くんがまんばちゃん、そして仲間たちと幸せに過ごせる未来はあるのでしょうか。
妬みの心を仏教では「愚痴」といいますが、「愚」と「痴」という漢字は愚かという意味です。
なぜ愚かなのか。それは「因果律」が分からない心だからだと説かれています。
因果律は仏教の根本原理で、すべての結果には必ず原因があるという法則です。
※こちらのコラムでも詳しく触れています。
【刀ステ感想】『外伝 此の夜らの小田原』の山姥切国広と小夜左文字から学ぶ、「義伝」「ジョ伝」へとつながる因果(ネタバレ注意)
近侍として本丸を立派にまとめ、仲間たちから信頼されているまんばちゃんは、決して最初からそうだったのではありません。
刀ステ5作目「ジョ伝 三つら星刀語り」の一幕「序伝 跛行する行軍」では、長谷部はまんばちゃんが近侍であることに不満を露わにし
「どうして主はわざわざ写しの刀などをお選びになられたのだ」
とボヤいている場面があります。
そんな長谷部があそこまで必死にまんばちゃんを守ろうと動くようになったのは、奇跡のような変化といえるでしょう。
その背景には、まんばちゃんが本丸の仲間たちを想って重ねた、地道な努力があるのではないでしょうか。
本丸に来たばかりの長義は、まんばちゃんが辿ってきた道のりがどんなものか分かりません。
だからこそ「写し」が主や仲間たちに信頼されているのを見て、 自分の魅力も消し飛ばしてしまうほど妬みに狂ってしまったのかもしれません。
仏教では因果律は、私たちが幸せになるために必要な真理だと教えられています。
『序伝』で山伏国広を失いそうになったことを後々まで深く懺悔し、『悲伝』での三日月宗近との別れをずっと悔いているまんばちゃん。
本丸の皆を守るため近侍として強くなりたいという思いで、血のにじむような努力を重ねてきたからこそ、今のまんばちゃんの姿という結果があるのです。
長義が「偽物くん」とまんばちゃんを呼び、同田貫が激昂したとき鶯丸はこう諭しています。
鶯丸「新入りくんも直に分かる。どうして彼が…山姥切国広を本物と呼ぶのか」
長義「だったら良いんだけどね」
鶯丸「大丈夫…ちゃんと分かるさ」
その後まんばちゃんにふっかけた勝負で負けた長義にも、鶯丸はさり気なく近づき、こんな話をしています。
鶯丸「どうして君が
山姥切国広に負けたのか…教えてやろうか
…三日月宗近」
山姥切長義「知っている…かつて、ここにあった刀
今はもう無い刀だ」
鶯丸「あれ、知ってたか
(中略)
山姥切国広は…
三日月を止められなかったことをずっと悔いているんだだから
強くあろうとしている
もう…誰も失うことがないくらいに強くだ」
この言葉を聞いた後、長義くんは1人で本丸の様子を眺めています。
仲間たちの姿を見つめる長義くんは、まんばちゃんがこの本丸で積み重ねてきた日日の重さの一端を感じ取ったような複雑な表情をしていて、筆者はとてもお気に入りの場面です。
その後長義は、修行で本丸を離れるまんばちゃんの所に現れ、仲間の一員として彼を見送ります。
まんばちゃん「山姥切長義……頼めるか」
長義「ああ、修行の旅にでも何にでも行けばいいさ!…山姥切国広」
これは今の長義が言える、精一杯の言葉だったのでしょう。
人としての心を得た以上、消し去ることのできない煩悩「愚痴」の心。
妬みの心を消し去ることはできなくても、長義は本丸で日々を過ごしていくうちに、まんばちゃんが積み重ねてきた努力をさらに知っていくことでしょう。
まんばちゃんが背負ってきた苦しみと、積み重ねてきた努力の大きさを知ったとき、本当の意味で長義は強くなれるような気がします。
※記事中の台詞紹介はこちらから引用させて頂きました。 (より深く刀ステの感動を味わえるので是非読んでみてください)
末満健一(2018)「戯曲 舞台『刀剣乱舞』ジョ伝 三つら星刀語り」ニトロプラス