【宝石の国】深まる金剛先生の謎。正体が知りたいフォスにシンシャが教えた「信じる心」の本質 ※ネタバレ注意

僕は「本当のこと」が知りたい

遠い未来の世界を描く『宝石の国』。

昨年アニメ化し、非常に高い評価を獲得し2期の発表が待ち望まれています。

作者の市川春子先生は高校時代、仏教系学校に在学されていてお経に説かれる極楽浄土の描写から『宝石の国』執筆のインスピレーションを得られたそうです。

そんな背景からか、僧侶のような姿をした金剛先生や仏像のような姿をした「月人」など『宝石の国』には仏教色が見られます。

さらにストーリーにも仏教哲学で教えられる内容が多々あり、独特の世界観やキャラクターの魅力をさらに深いものにしています。

今回は主人公・フォスが教えてくれる、仏教で説かれる私たちの「信じる心」の本質について解説します。

【宝石の国】5巻までのあらすじ 変化していくフォス、深まる金剛先生の謎

※『宝石の国』5巻までのネタバレがあります。未読の方はご注意ください。

人類が繁栄していた時代が遠い古代となった、はるか未来の地上には、人型の「宝石」たちが身を寄せ合って生きていました。

彼らは四肢が千切れても集めて繋げれば蘇生する宝石の体を持っており、寿命による死はありません。

しかし「月人」と呼ばれる月の民が度々空から襲撃し、宝石たちを攫って装飾品にしていました。

月人に対抗するため宝石たちは得意分野を担い合っていましたが、主人公・フォスフォフィライトは硬度が三半と低く、不器用で無職。

周囲に役立たず扱いされていたフォスに、300歳のとき転機が訪れます。

アクシデントで両足を失ったことをきっかけで、代わりに繋いだアゲートで駿足になり熱望していた戦争に参加するようになったのです。

初陣は敵と対峙しただけで恐怖で何もできず、悔やんだフォスはいつも冬眠している冬の時期にアンタークという仲間とともに仕事をするようになりました。

しかし仕事中に両腕を失い、腕の代わりになる素材を探している最中に月人に襲われます。

フォスを守るためアンタークは身代わりとなって拐われ、月から帰らぬ人となりました。

アンタークとの別れに大きなショックを受けたフォスは、冬の間たった一人で任務をこなし、春が来た頃には別人のように生まれ変わります

失った腕の代わりに繋がった合金を変幻自在な武器として駆使し、月人をいとも容易く抹殺する戦士に。

最強の戦士・ボルツから共に組んで戦わないかと提案されるまでにフォスは変化したのです。

ボルツと仕事中フォスは怪物の姿をした新型の月人と遭遇、ボルツですら敵わないその強さに圧倒されます。

フォスは睡眠中の金剛先生を起こそうと、合金で作った囮で誘導しますが、逆に捕まって怪物の体毛に埋もれる形で取り込まれてしまいました。

そこへ起きてきた金剛先生がやってきます。

「おすわり」

「ふせ」

「あご」

金剛先生は、まるで私たちがよく知る「わんこ」をあやすような素振りで、暴れていた怪物を一瞬で鎮めました。

……しろ おまえ 手はどうした

怪物に取り込まれていたフォスは、怪物の手が無いのを見た金剛先生がこう言うのを聞きます。

フォス「先生」

先生「いたのか」

フォス「ええ……

先生

しろ というのは

先生

そいつのこと ご存知で?

先生「いや 知らん

金剛先生の言動を不思議に思ったフォスは「しろ」とは何者なのか聞きますが、はぐらかされてしまいます。

ふわふわの「しろ」に金剛先生や宝石たちが癒やされている中、フォスは夜の草原で一人今日の出来事を振り返ります。

しろ おまえ 手はどうした

って確かに聞こえたんだけどなー

うーん

僕 気がヘンなのかなー

あの言い方本当なら

僕らより親しいような

月人

とてつもなく

いけないことを

考え

誰よりも金剛先生が好きだったフォスに芽生えた「金剛先生の正体」を疑う心

フォスが誰よりも大好きで、自分のことを誰より案じてくれている金剛先生。

そんな大恩ある先生に対して「もしかして金剛先生は月人と親しい存在なのでは」という疑いを抱いたフォスは戸惑います。

そこへ現れたのはシンシャ

役立たず扱いされていた頃のフォスにとって変化の最初のきっかけとなった、本作のメインヒロインともいえる存在です。

昼間「しろ」がフォスたちによって斬られたとき、108匹の可愛い犬のような姿に分裂して逃亡しました。

108のうち107匹は後に再び合体したのですが、残りの1体がシンシャのところにいたのです。

可愛いミニチュア版「しろ」とボルツが落とした靴を持って現れたシンシャにフォスは心中を打ち明けます。

シンシャ「これボルツのだろう

これも」

フォス「これはボルツのじゃない」

シンシャ「なんなんだ そいつは

一緒に落ちてた」

フォス「これは

月人の一部で おそらく

先生のだ

シンシャ

僕は 先生がなにか 隠し事をしている気がする

シンシャ「月人との関係か」

フォス「知ってたのか!ならどうして」

シンシャ「みんな 知ってる

正確には 全員が勘づいているだけで

本当のことは誰も知らない

暗黙のうちに

それがどのような間違いでも

先生を信じると決めたわけだ

フォス「君も?」

シンシャ「俺は 審判中だ

おまえはどうする?」

シンシャから聞かされた衝撃の事実。

フォス一人ではなく、実は宝石たち全員が金剛先生の正体について疑念を持っているというのです。

金剛先生の正体は、天敵である月人と近い存在かもしれない

そんな疑いの心を持ちながらも皆は「それがどのような間違いでも先生を信じ」ているというのです。

僕は 本当のことが知りたい

先生に訊くのは勇気がいる

勇気 また勇気か

どれだけ いるんだ

僕の 最初の願いはなんだっけ……

愛し、拠り所としていた先生に対し芽生えた疑いの心。

心を体現するかのように、体から合金がどろどろと溶け出します。

そんなフォスを尻目に駆け出した「しろ」の一部。

フォスが追いかけていったところ、それは金剛先生に寄り添うように眠っていた「しろ」の本体に帰っていき、無くなっていた手が形成されました。

思わず先生に月人との関係を問いただそうとしたフォス。

そこへ何者かが現れた音が。

振り返った先にいたのは、アンターク

フォスの前に度々現れるアンタークの幻は、今日は静かに佇み人差し指を唇に当て「しー」のポーズをしてみせます。

アンターク

君も知ってて

それでも

フォスを守って消えていったアンタークは

先生が さびしくないように 冬を たのむ」

と最期に言い残しました。

先生を信じ切っていたように見えたアンタークさえも、金剛先生が月人と近い存在かもしれないという疑いを持っていたのです。

フォスが戸惑ったのは、人間の「信じる心」の本質

疑いながら、信じている

そんなアンタークや仲間の姿に、フォスは大きな衝撃を受けます。

「しろ」の傍には、他の宝石たちがふわふわの体毛に寄りかかって眠っていました。

自分たちの仲間を攫って粉々にし装飾品にしてしまう、憎き月人たち。

そんな月人と親しい存在かもしれない金剛先生を疑いながらも信じ、金剛先生が親しそうにする「しろ」の傍で無防備に眠る仲間たちの姿は、フォスには理解できない姿だったのではないでしょうか。

どうして正体の疑わしい先生を、信じることができるのか

フォスがぶつかった疑問は、人間の「信じる心」の本質を付いています。

仏教哲学では人間の「信じる心」は「疑う心」と表裏一体だと説かれています。

「しろ」は108匹いましたが、仏教で108といえば煩悩の数

そしてその煩悩の中で、特に私たちを苦しめる煩悩のうちの一つが「

疑う心です。

仏教ではこの煩悩から離れられないのが人間だと教えられます。

誰かを「信じる」という行為は、決して100%信じ切ることができるという意味ではなく、常に疑いの心と隣り合わせなのです。

私たちも振り返ってみれば、仲間や恋人、夫や妻のことを「絶対に自分を裏切らない」と100%信じ切ることは難しいのではないでしょうか。

何も不安が無いときは「あいつは信頼できる奴だ」「彼は誠実な人だから大丈夫」と断言できても、フォスのように一度きっかけが生まれるともう疑いの心から離れることはできません。

そういう存在が、私たち人間なのです。