【2019/02/16更新しました】
1月18日に上映スタートした『映画 刀剣乱舞』。
原作ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』のファンだけに留まらず、幅広い層から高い評価を受け、上映四週目に突入しました。
大ヒットを受け2月11日には応援上映が開催、全国の劇場からの要望が後押しになったそうです。
全国100館以上で『映画刀剣乱舞』応援上映決定!耶雲哉治監督から裏話も「全国の劇場からの要望が後押しになった」
筆者も友人たちと応援上映に参加しましたが、初めての応援上映経験だったこともあり、もう一度行ってみたい!と思っていたところ、早くも全国各地の映画館で追加開催が決定しました。
先日『映画 刀剣乱舞』のあらすじを中心に、多くの観客の心を掴んだ物語の魅力をお伝えしました。
今回は登場人物たちにスポットを当て、「審神者」と三日月宗近の絆について考えてみたいと思います。
※「刀剣乱舞って何?」という方は前回の記事をご覧ください。
※ストーリーの核心部分に関するネタバレがあります。「映画刀剣乱舞」はネタバレ情報無しでご鑑賞頂きたい作品です。未鑑賞の方はご鑑賞後に読んで頂くことを強くお薦めいたします。
【ネタバレ注意】「周回」すればするほど味わえる!『映画 刀剣乱舞』の深い魅力
#審神者はここからがしぶといぞ
#この映画館は落とさせない
#ここから先は本当に上映スケジュールがひっくり返るぞ
#審神者の周回を甘くみてもらっては困る
1月18日の上映スタートから数日後、Twitter上ではこのようなタグを含むツイートが多くのファンによって呟かれ、拡散されました。
そして繰り返し映画館に行き「周回」して上映期間の延長を応援する動きがTwitterを中心に全国で見られるように。
「上映スケジュールがひっくり返るぞ」になった映画館も各地で登場、ファンの動きによって上映延長が実現されたことが話題を呼びました。
【朗報】2/7に上映終了か?と思われてた映画刀剣乱舞が2/11に全国で応援上映決定、2/7終了予定の文言が消えるサイトもちらほら
筆者も少しでも多くの方に『映画 刀剣乱舞』を知ってもらいたいと思い、友人たちを誘って初日から映画館を無限周回する日々。
気づけば10人近い方と『映画 刀剣乱舞』を鑑賞しています。
誘った友人の数だけ鑑賞することになりましたが、これだけ「周回」しても飽きない作品は初めてです。
何度見ても惹き込まれるのは、大絶賛されたストーリーの面白さだけでなく、見れば見るほど深く味わえる登場人物たちの思い。
今回は筆者が映画館を周回する内に、一番大好きになったシーンをご紹介します。
【映画 刀剣乱舞・あらすじ】「じじい」な三日月宗近と審神者 二人の絆が歴史を「継承」する
「……年寄りには年寄りのなすべきことがあるな、三日月」
『映画 刀剣乱舞』で描かれる舞台は、「舞台『刀剣乱舞』」(刀ステ)とも「ミュージカル『刀剣乱舞』 」(刀ミュ)とも違う新たな本丸。
役者さんの半数以上が刀ステで活躍されている方なので、初めはどうしても刀ステ本丸と重ねてしまうのですが、新たな本丸であることがはっきり分かる要素があります。
それは「じじい」の審神者。
これまで発表されてきたメディアミックスでも、『活撃 刀剣乱舞』では性別不明の若い審神者、刀ステ本丸では顔布を付けた男性と思われる衣装の審神者、刀ミュ本丸では若い男性と思われる審神者の声が出ています。
今回『映画 刀剣乱舞』の審神者は「じじい」であることが全面に出ています。
作中でははっきり出ませんが、パンフレットには内面の優しさが溢れる美しい「じじい」なお姿が出ているので必見です。
筆者は堀内正美さん演じるこの審神者に、見れば見るほど惹き込まれていきました。
刀剣男士に比べるとはるかに若いものの、人間として長い年月で培った徳が感じられる佇まいや深みのあるお声に「こんな審神者さんが見たかった!」と完全に「審神者沼」に(笑)
この審神者が育てた本丸の近侍は主役・三日月宗近。
お互い「じじい」である審神者と三日月宗近が繋いでいく本丸の歴史が、『映画 刀剣乱舞』の裏のテーマになっていきます。
「ともかく頼む。その時も、もう近いようだから」
物語の序盤に審神者が口にする、意味深長で不穏な言葉。
審神者は余命短い命なのか、審神者が亡くなるとしたらこの本丸はどうなってしまうのかーーー
初回鑑賞のときは、気になって仕方ないセリフでした。
「その時」は物語のクライマックスで明らかになります。
『映画 刀剣乱舞』では三日月と審神者が2つの使命を背負って動いていました。
一つは、織田信長の死を巡る「表の歴史」と「裏の歴史」の両方を守ること。
そしてもう一つの使命は、「その時」。
「その時」とは、審神者の代替わりでした。
「長く務めた審神者の力が衰えた時、新たな審神者を招くことがある
ただ、その時、本丸の力が弱まってしまう。
だから主も三日月も伏せていたんだ。
絶対に外に漏らせないからな」
三日月から全てを聞いた鶯丸は本丸に帰ってきた刀剣男士たちに真実を話します。
しかし鶯丸は同時に、想定外の事態に気づくことに。
「三日月はどうした」
信長の死を覆すための時間遡行軍との熾烈な戦いの中、出陣した刀剣男士たちは窮地に追い込まれていきます。
さらに代替わりの情報を察知した時間遡行軍が、本丸に奇襲。
歴史と本丸、両方を守るために三日月宗近は、近侍を降りるつもりで一人である決心をしていました。
それは、三日月が一人で信長の歴史を変えようとする時間遡行軍と戦い、審神者を守るため仲間を全員本丸に強制帰還させること。
しかし大量に送り込まれる時間遡行軍と一振りで戦うのは困難を極めます。
ついに力尽きた三日月が倒れたとき、三日月の身体は本丸に帰還させたはずの、へし切長谷部によって支えられていました。
さらに仲間たちが皆、全快した姿で三日月の前に揃っています。
三日月「お前たち……本丸はどうした……」
日本号「俺たちにとっちゃ、あんたも本丸だよ、じいさん」
山姥切「それに、主の命でもある。
三日月を迎えにいけとな」
去りゆく審神者が三日月宗近に託した思い。「歴史」は過去だけではない
一人で抱え込み、自分を犠牲にして仲間と審神者を守ろうとした三日月の真意を知った審神者は最後の主命を下します。
それは「三日月を迎えにいけ」というものでした。
本丸を去る審神者は光に包まれた空間で三日月宗近に託した思いを語っています。
「過去だけが歴史ではない。
お前にはまだ守ってもらいたいものがある。
私がこれからつなぐ、明日という歴史だ。
なすべきことはまだあるよ」
三日月宗近たち刀剣男士たちの使命は「歴史を守る」こと。
「過去」に起こった出来事の改変を阻止することで、「現在」という今を守る。
「歴史を守る」と聞くと、過去の人々を守るための戦いのようなイメージが筆者にもありました。
三日月も同じく「現在」の自分を捨ててでも、「過去」という歴史を守るため孤独な戦いに身を投じます。
しかし審神者はそんな三日月に
過去だけが歴史ではない。
お前にはまだ守ってもらいたいものがある。
私がこれからつなぐ、明日という歴史だ。
という言葉を送ります。
今の自分を犠牲にして過去を守るのではなく、これからの未来のために今の自分を大切にしてほしい。
そんな思いが込められた「じじい」審神者の最後の言葉は何回鑑賞しても目から冷却材です。
本丸に奇襲をしかけに来た時間遡行軍が審神者の部屋に押し入り、抹殺しようとした瞬間。
「主、三日月宗近、ただいま戻った」
消えゆく審神者の前に、三日月が帰ってきます。
審神者は三日月に自分の思いが届いたことを心から喜ぶように、ゆっくり頷いて光に包まれて現世へと消えていきます。
裏タイトル『映画 刀剣乱舞 ー継承ー』の意味に隠された深い意味
『映画 刀剣乱舞』の最後に明かされるのは、この作品の本当の題名です。
それは『映画 刀剣乱舞 ー継承ー』。
歴史とは過去だけではなく、今現在の思いや行いが未来という歴史を紡いでいく。
未来を見据えた生き方が、今の自分も、そして大切な人も幸せにするというメッセージが『ー継承ー』という意味に込められているように思います。
「代替わり」と聞くと、祖先から子孫に代が変わっていくように人から人へ継承される未来というイメージがあります。
しかし人から人だけのことではなく、私たち一人ひとりにも今「現在」があり、必ず未来という歴史を作り出していくのです。
これは哲学で「因果律」と言われる法則です。
〘哲〙 どのような事象もすべて何らかの原因の結果として生起するのであり、原因のない事象は存在しないという考え方。因果法則。
(大辞林 第三版)
そしてこの因果律でいう原因の結果は、今現在だけではなく未来のことも指しています。
因果律を根本思想とする仏教由来の言葉にも「因果応報」という四字熟語がありますが、元々「因果応報」という言葉も
原因としての善い行いをすれば,善い結果が得られ,悪い行いは悪い結果をもたらすとする
(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)
という意味で、過去の行いの報いという意味だけではありません。
いま現在も、結果を見据えて良い行いをすれば、必ず良い未来が開けるということが本来の意味なのです。
過去ばかりに目を向けず、今現在の自分の姿を見つめることの大切さが仏教哲学でも説かれています。
『映画 刀剣乱舞』の公式シナリオブックの特別インタビューで、監督の耶雲 哉治さんも三日月と審神者の関係に込められた思いを語っておられます。
ふたりともメンタルがおじいさんなので、ともすると過去に縛られがちなのですが、未来へ思いを託す、という共通の志をもつことで確かな関係性が生まれ、物語の軸になるのではないか、と。
筆者は幼少期から、嫌な思い出や恥ずかしい失敗を鮮明に思い出しやすい方で、自己嫌悪して一人で悶々とすることがよくあります。
しかしそれは若くして「メンタルがおじいさん」ということなのかもしれません。
過去の失敗や辛かったことに捕らわれて前に進めないのは「昔は良かったのに今はロクな時代じゃないのう〜」と思い出に浸るだけになってしまった老人と同じこと。
身体は何歳になっても、心は過去にしがみつくのではなく、「現在」の自分を見つめ、未来を見据えて生きていくことが大事なのだと、審神者は教えてくれているように思います。
公式シナリオブックの特集部分では、刀剣男士キャストのインタビューも掲載されており、その中で日本号役の岩永洋昭さんは
「日本号は、仲間を守るという思いが強い。
目の前のものを守ることが、すべてのことにつながっていくのだと思います。」
と語っておられます。
現在の自分の姿をよく知り、今周りにいる大切な存在を守ることが未来へとつながっていく。
審神者や三日月宗近の思いが他の刀剣男士たちにも「継承」されているのではないでしょうか。
また今の自分を作りだした過去の行いを振り返ることも、同時に大切なこと。
過去の行いを冷静に見つめ、未来を見据えて生きることの大切さも、耶雲監督は作品に込めたと語っておられます。
刀剣男士たちにも僕たちにもそれぞれ過去がありますが、その過去があるからこそ、未来がある。
だからこそ、過去を変えようとする時間遡行軍と戦うのではないか、と。
過去に必要以上にとらわれることなく、否定することなく、それがあるからこそ、今と未来がつながっていくーーー。
あのラストカットにはそんな思いを込めています。
今と未来を見据えて、明日も頑張ってみようかなと、この映画を見終わったときにそう感じてもらえたら、うれしいですね。
社会に出て働くようになって数年の筆者は、思い出すとキリがないくらい仕事や人間関係で失敗をしてきて、折に触れては苦い過去を鮮明に思い出して落ち込むことが多いです。
そんな私にとって「なすべきことはまだあるよ」という審神者のセリフは宝物のような存在になっています。
厳しい現代社会で「メンタルがおじいさん」になりがちな私たち。
審神者が三日月に送った言葉には、私たち一人ひとりが自分の人生を幸せにするために必要な人生哲学が隠れているように思います。
『映画 刀剣乱舞』の内容紹介はこちらの公式シナリオブックから紹介させて頂きました。映画鑑賞時には気づかなかった新たな発見ができるのでファン必見です!